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光石研、相変わらず穏やかに登場 朝ドラ『エール』でスピンオフ週が幕開け

2020年06月15日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『エール』(写真提供=NHK)

 怪談話などでおなじみのBGMを背景に、ぼんやりと浮かび上がる『エール』の文字。普段と違うオープニングに驚かされるが、それもそのはず。NHKの連続テレビ小説『エール』第12週で描かれるのは、裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)を取り巻く人々のアナザーストーリーだ。第56回は、あの世から10年ぶりに地上に戻ってきた音の亡き父・安隆(光石研)が登場する。


 東京の古山家では、音が華を寝かしつけていた。そこへごく自然に安隆が現れる。死装束に身を包んだ安隆を見た音が「ギャー」と叫ぶも、「馬のように優しい」と評されていた安隆は「久しぶり。おめでとう」「俺にとっちゃ初孫だのん」と相変わらず穏やかだ。


 安隆が帰ってきたことに戸惑う音だが、おだんごを買ってきてほしいと頼まれたとき、父との懐かしい思い出が溢れ出す。目の前に父がいることを実感した音は、安隆にぎゅっと抱きついた。


【写真】おばけ姿の安隆(光石研)


 音が幼い頃に亡くなってしまった安隆だが、光石のもの柔らかな演技と主役を演じられずふてくされる音に伝えた「主役だけでもお芝居はできん」の台詞が、彼の存在を印象づけていた。亡くなった人が帰ってくる設定は確かに突飛だが、光石が、大人になった音と接する安隆を、音の思い出にいる心優しい彼のままに演じたことで、音と話す彼の姿に自然と懐かしさが感じられた。


 安隆は劇中、音や華に数回「ごめんな」と伝えている。子どもを助けて電車にはねられた安隆の死に、音は「お父さんは何であたしたちを残して人の子を助けたの」と言っていたが、父もまた、音たちを残したことが心残りだったようだ。音に「今は誇らしいよ!」と伝えられ、ホッとしたように笑う安隆だが、音との別れ際、彼女をそっと抱きしめながらもう一度「ごめんな」と言った。それは、もう二度と会えないことを示唆するような優しくも物悲しい響きだった。


 安隆は「俺は音の歌が大好きだ。また絶対歌いんよ」と言葉を残す。彼の言葉は音の心に残り、裕一を支えながら夢を追う彼女の心を支えることだろう。「また……くじが当たりますように」と願う音の姿が、切ない余韻を残していた。


(片山香帆)