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ハンドルネーム、源氏名に対する誹謗中傷も訴えられる? 風俗店勤務の女性からの相談

2020年06月15日 10:31  弁護士ドットコム

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匿名掲示板に源氏名で悪口を書かれている女性が、弁護士ドットコムニュースのLINEに「誹謗中傷という扱いになるのでしょうか」と質問を寄せました。


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女性はデリバリーヘルスで勤務しています。本番行為は一切なく、お金を受け取ってすることもありません。しかし、匿名掲示板に「●●(源氏名)は誰とでも本番行為をしている」、「俺も●●に本番を誘われた」など、事実無根の書き込みをされています。



店に相談しても「嫌なら見なければいい」と一蹴されてしまいました。女性は「書き込んだのが利用かどうかも全くわかりません。嘘をあたかも事実のように書かれていて不快です」と困り果てているようです。



実名ではなく源氏名で誹謗中傷された場合も、法的な問題は生じるのでしょうか。田中伸顕弁護士に聞きました。



●ハンドルネームなどでも、名誉毀損は成立する

ーーハンドルネーム、源氏名、Twitterのユーザー名などに対する誹謗中傷でも、名誉毀損の成立が認められるのでしょうか



実名以外の名前を誹謗中傷する書込みであっても、名誉毀損等は成立する余地があります。



名誉毀損等といった権利侵害が成立するためには、その書込みが誰についての書込みか閲覧者に分かる、という特定性が認められなければなりません。



そこで、裁判例においては、一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈して、その書込みが誰についての書込みなのか読み取ることができるかにより特定性の有無が判断されています。



つまり、閲覧者が、その書込みや前後の文脈などを見て、誰についての書込みか読み取ることができれば、特定性が認められることになります。



そのため、ハンドルネームや源氏名をあげて誹謗中傷する書込みをされたとしても、閲覧者において、特定の人物についての書込みであると分かれば、特定性が認められることになります。



ーー過去の裁判でも、源氏名で名誉毀損などが認められていますか



過去の裁判例においても、ハンドルネームや源氏名に対する書込みであっても、特定性を肯定して名誉毀損等を認めたものがあります。



ただ、源氏名は、比較的シンプルな名前の場合があり、他の店舗のキャストと源氏名が被ることがあります。



そのような場合、問題となっている書込みだけでなく、前後の他の書込みや、その書込みがされたスレッドのタイトルなどの情報から、どこの店舗に所属するキャストのことであるか説明が必要になるケースがあるため注意が必要です。



また、Twitterのユーザー名(@以下の文字列)であっても、そのIDが特定の人物を示すものと閲覧者から見て分かれば、特定性が認められて名誉毀損等が成立する余地はあるかと思います。



●名誉毀損が成立するかが問題

ーー今回のような書き込みは、名誉毀損になるのでしょうか



今回の事案では、まず、源氏名から、書込みをされた女性についての書込みだと特定できるかが問題になりますが、これは先程説明したように、源氏名であっても被害女性のことだと特定することができます。



次に、本番行為をしていることが、被害女性の社会的評価を低下させるかが問題になります。



本番行為をしている事実を示すことは、性風俗店の業務において、法令上禁止されている性行為を行っている事実を示すことであり、被害女性の社会的評価を低下させるといえます。



裁判例でも、「基盤」(本番行為の隠語)が書き込まれた事案において、同様の理由により、名誉毀損の成立を認めたものがあります。



以上のとおり、被害女性が本番行為を行っていることを示す今回の事案の書込みについては、名誉毀損が成立すると考えられます。



●まずは書き込みの削除依頼を

ーー書き込みに対し、どのような対応を取ることができますか



まずは、書込みがされた掲示板の削除フォームにおいて、問題の書込みの削除を試みる方法が考えられます。



それでも、同様の書込みが止まらないような場合は、同じ人物が繰り返し書込みをしている可能性があることから、直接法的措置をおこなって、書込みを止めさせる必要があります。



そのため、書込みをした人物を特定するため、発信者情報開示請求をおこなうことになります。



ここで注意する必要があるのが、発信者情報開示請求では、基本的に、掲示板全体やスレッド全体の書込みについて、まとめて投稿者の開示をすることはできません。



1つ1つの書込みについて、それぞれ発信情報開示請求を行っていくことになります。



発信者情報開示請求は、次の図のように2段階に分かれています。





第1段階では、掲示板の運営者(コンテンツプロバイダ)に対し、問題の書込みに関するIPアドレス等の開示請求をします。



このコンテンツプロバイダが任意に開示に応じない場合は、発信者情報開示請求の仮処分を行います。



第2段階では、コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレス等をもとに、アクセスプロバイダ(電話会社など)に対して発信者の氏名や住所の開示請求をします。



ただ、アクセスプロバイダは、基本的に裁判所の判決がなければ開示しない方針ですので、発信者情報開示請求の裁判を起こす必要があります。



裁判の結果、勝訴した場合は、発信者の氏名や住所を書いた書類が郵送されてきます。



ここでやっと書込みをした人物に対して損害賠償請求といった法的措置をとることができるようになります。



●総務省で発信者情報開示制度について議論されている

ーー相手を特定するまでには、2段階の法的手続きが必要だということですね



そうですね。



ただ、今までご説明したように、インターネット上で匿名により誹謗中傷を受けた場合、書込みをされた側にとって様々なハードルがあります。



こういった現状を受け、現在、総務省において、発信者情報開示の在り方に関する研究会が開かれ、発信者情報開示請求の制度について議論されており、その動向が注目されます。



インターネット上の問題は、誹謗中傷に限らず、著作権侵害といったネット上で起こりうる権利の侵害全てに共通する問題ですので、被害者が泣き寝入りすることがないように制度が改善していくことを期待したいです。




【取材協力弁護士】
田中 伸顕(たなか・のぶあき)弁護士
秋田弁護士会所属。交通事故、離婚、債務整理から、インターネット上の誹謗中傷まで扱う。「住む地域にかかわらず、悩みを解決できるようにしたいです。事件には、大きいも小さいもないと考えています。そのため、どのようなご相談・事件についても一所懸命、全力で取り組みたいと思いますので、お気軽にご相談ください」
Twitter:https://twitter.com/n_tanaka_akita
事務所名:田中法律事務所
事務所URL:https://tanakalawoffice.com/