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『TikTok』GM・佐藤陽一に聞く「コロナ禍でショート動画コンテンツがユーザーに与えた影響」

2020年06月14日 23:11  リアルサウンド

リアルサウンド

TikTokゼネラルマネージャー・佐藤陽一氏

 特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」の第2弾は、ショートムービープラットフォームTikTokのゼネラルマネージャー佐藤陽一氏が登場。新型コロナウイルス感染拡大の中、この数ヶ月の業界の動きや、自粛期間で学校が臨時休校となってしまった学生へ向けて実施した『#みんなの卒業式』、新規サービスの「TikTokライブ」そしてコロナ以降の動画コンテンツについて、デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏が話を聞いた。(編集部)


(参考:まだ遅くないTikTok入門 “かわいい/かっこいい”から“面白い”まで、人気TikToker9組を紹介


・”ホッとする瞬間”を実感できるコンテンツが人気に
ーー新型コロナウイルス感染拡大以降、TikTokさんが取ってきた動きについて教えてください。


佐藤陽一(以下、佐藤):社内的なところからいうと、テック系の中でも他社さんに先駆ける形で、在宅勤務体制に移行しました。長くこの体制で仕事をしているのですが、この状況下で幸せなことに業務量は激増しており、生産性や効率は落ちることなく勤務しています。


ーー佐藤さんは、3.11 東日本大震災の時にはGoogleに在籍されていました。その時もリモートワークを経験されたと思うのですが、いかがでしょうか?


佐藤:そうですね。あのころもリモートワークをしていて、当時はGoogleのクライシスレスポンスという災害対応チームが会社の中で自然にできたのを覚えています。僕もその中の一員として動いていたので、一時期を除き、歩いて六本木ヒルズまで通勤していました。


ーー今回の緊急事態宣言の1番特殊なところは、“先が見えない”という部分だと思います。TikTokさんの中で、ある程度固まっている今後の運営方針はありますか?


佐藤:大前提として、「先が見えない状況」という捉え方はしていないです。3.11の経験を踏まえて、どんな形であれ、遅かれ早かれ終息はしていくものだと考えています。その先で、僕らに何ができるか、どんな貢献ができるのかという話を発信しながら、社内の雰囲気をポジティブに保っています。夜はリモート飲み会飲みなど会社の仲間で結構活発にやってるみたいですし、オンオフを切り替えながらやっているスタッフもたくさんいます。こういう時期だからこそ自分たちができることに対して前向きに取り組む空気ができ上がっていて、僕自身勇気づけられています。


ーー社内で始まった、社員さんの自発的な活動などはありますか?


佐藤:お茶会と称して、昼間に1時間くらいオンラインで集まって他愛もない話をしたり、チームによっては司会者を決めて、質問を色々と割り振って話をしています。ツールを使いこなすことに関して慣れている人が多くて、リモート会議で話していると若干ディレイが起きるんですけど、その前にテキストでツッコミを入れたり、音声とテキストを組み合わせながらコミュニケーションを取っていて面白いですね。


ーーこのコロナ禍において、TikTokの使われ方はどのように変化していますか?


佐藤:まず、利用者、利用時間はともに増えています。学校が休校になったり、在宅勤務の方が増えたことによって上の年齢層の方が多くなってもいますね。また、社会的なストレスが強い中で、ペットやコメディ、流行の音楽を使った楽しげな動きが入っている動画を中心に、ほっとする瞬間だったり、何も考えないで単純に”おもしろい”と思えるコンテンツは好まれているようです。海外系のコンテンツだと、コロナで最前線で頑張っている医療者の方々が、退院する人を拍手で送り出したり、わずかな時間で看護婦さんたちがダンスをしているビデオが、人をすごくホッとさせています。そういう動画が僕らのプラットフォームでシェアされるのは、幸せなことだなと思います。消費するだけではなく、自分たちも参加する、作っていくようなモーメントも、グローバルに少し強くなっていると思います。


ーーそんな中始まったストリーミングサービス「TikTokライブ」は印象的でした。TikTokユーザーの中でも需要は高かったのでしょうか?


佐藤:実はライブ機能に関しては、ユーザーやクリエイターの方々の需要が明確に見えていたわけでないのですが、米国やイギリスでは先行して市場提供しており、日本でのローンチタイミングを含めて準備を進めている最中に、このような事態になってしまったんです。エンタメ業界の方からファンの方とコミュニケーションを取りたいというご相談を受けていたり、東京都に若い世代の方たちに対してコロナ関連の情報を届けたいとご相談いただいたりする中で、需要に応えようと実験的にスタートしました。


ーー東京都との連携など、コロナ以降に実施された具体的な例はありますか?


佐藤:小池百合子東京都知事に使っていただいたことがきっかけで、他の自治体でも使いたいというお話はいただくようになりました。また、日本財団さんとの『Stay Home! チャリティLIVE』といった取り組みや、厚生労働省さんと連携した手洗いのビデオなど、通常のコンテンツも含めて利用いただくケースも多いです。ほかにも、コブクロさんが卒業式を迎える皆さんに対して楽曲を発表したり、プロモーションビデオの中にもTikTokから募集したビデオクリップを散りばめて使ってもらいました。コロナの影響で卒業式ができなくなったので『#みんなの卒業式』という企画が立ち上がり、TikTokを使って高校生、大学生、さらに卒業生の子供をもつ親の世代の方々が一緒に楽しんでもらえる場になったのは、すごくうれしかったですね。


・ファンとのエンゲージメントを強める、ツールとしての動画コンテンツ
ーーエンタメ業界の方は、TikTokを若年層にリーチするためのプラットフォームとして見ている方が多いと思うのですが、その印象についてはどのようにお考えですか?


佐藤:このような状況もあってのことだと思うのですが、ファンの方にいかにして楽しんでもらえるか、つながりを維持できるかという所に対する危機意識のある音楽業界やアーティストの方から注目いただいたと思います。同時にTikTok発のアーティストの例が出てきてたタイミングとうまく合致したこともあり、新規へのリーチや新しいことに挑戦する時に選んでもらえるプラットフォームでいられたことの強みを感じました。


ーーもう少し広いテーマで、動画コンテンツ自体についても聞かせてください。中長期的に考えて、今回の新型コロナウルスは、動画プラットフォームという領域において、どのような影響を及ぼすと思いますか?


佐藤:動画系のコンテンツは、(メインストリームに)何かほかのものに付加価値をプラスするものという位置付けが多かったと思うのですが、このような状況以降は、オフラインとオンラインのサービスが不可分に一体化していくようなサービス設計に変わっていくのではないかと思います。例えば、オフラインで集まるライブと同時に配信が行われるようになるのではないか、といったような。


 前職で電子書籍を担当していた時に、オライリーという出版社がテクノロジーの技術書を目次レベルから作家が作っていく過程を読者に見せて、そのフィードバックを元にインタラクティブに本を作り上げていくトライアルを見たことがあったのですが、そうなると「自分が作っている過程に加わったこと」を踏まえて本を買ってくれたことがあって。そんな体験を踏まえて、アーティストの方が自分のクリエイションする過程そのものについて、動画やライブ配信を通じてファンやコミュニティとインタラクションしながら、作り上げていくことがあってもおかしくないのではと思います。


 いずれにせよ、オンラインとオフラインのサービスが不可分に一体化して設計されていく中で、作っていく過程の中で動画が活躍したり、ファンとのエンゲージメントを強めるツールとして、より重要になってくるでしょう。


ーーアーティストとファンがコミュニケーションを取るためのツールとして動画コンテンツは有効的なツールですが、“ながら聴き”のように、流しっぱなしで動画を視聴するユーザーにも変化が起こると思いますか?


佐藤:それに関しては、僕らにとっても難しいテーマです。世界的に見ると、日本は実際に動画を作ってアップロードしていただく方の割合が高い国ではありません。昔でいうROM(Read Only Member)といいますか、消費することがメインの人と、作り出す人との間のバーをどうやったら流動的かつ能動的に動かせるんだろう、というのはすごく大きな課題ですね。とはいえ、そのなかでもショートビデオという形式を取っているからこそ、そのバーを動かせる可能性は高いだろうと思っています。「これだったら自分もできるかも」とか、日本人特有の「顔出ししたくない」「プライバシーは出したくないけど何か面白いものを作りたい」という気持ちに入っていける切り口は大事なポイントで、僕らも日々頭を悩ませているところです。短期的には消費するだけの人と、作る人の割合は簡単には変わるとは思っていないのですが、少しずつクリエイションのきっかけになってくれるといいなという思いはあります。


ーークリエイションのきっかけの具体例とは、例えばどういうことが考えられるのでしょうか。


佐藤:ある人から言われて「ああ!」と思ったのは、「学校の体育の授業でダンスをやってきた人たちと、その経験がない人って違いますよね」という話でした。僕はダンスを授業で習っていなかったので、撮影してアップするという感覚がないですし、世代的には、ダンスの代わりにバンドをやりたいという感覚の世代です。 だからこそ、その感覚を世代に応じて、もしくはオーディエンスに応じて見つけなきゃいけないと感じていますね。


ーースマートフォン普及率も、そのきっかけに影響しそうですね。


佐藤:スマートフォン普及率もそうなんですけど、今回のインタビューのようにリモート会議通じて行うような環境になって初めて、「5Gが早く来ないかな」と思うようになりました。やや何百msの遅れがリズム感を損なう時があるじゃないですか。それが5Gで解消されると、よりオンラインでやりとりするという形式の需要も高まるんじゃないかと。


ーー5GになったらTikTokにはどういう影響があると予想されたりはしますか?


佐藤:5Gになると通信スピードや帯域の制限がほとんど無くなるのだとすれば、いろんなエフェクトやスタンプ、例えばARに近いことなど、面白いクリエイションをするためのツールが制限なく提供できるようになるだろうと思っています。


ーー最後に今後のTikTokの方向性について、聞かせてください。


佐藤:幸いなことに多くの方に使っていただけるアプリとして成長してきていますので、この成長を止めないように維持するというのが僕の第1の役割で、大事なポイントだと思っています。その上で、より多くの世代、多くの人に楽しんでもらえるプラットフォームに育てていくのが2番目です。これも今までやってきていることではあるのですが、その一環として、エンターテインメントという定義を広めに考えたいなと思っています。


 例えば、「Do It Yourself」といった分野のように、学びや、興味、趣味も言ってみればエンターテインメントのひとつであるだろうし、いま僕らが思いつかないようなものがあっても良いと思います。年齢層が上の方が自分で何か作り出そうと思った時に、ビデオは難しいけど写真だったらできることもあると思うんです。なので、静止画がもっと楽しめるサービス、もしくはスタンプ的なツール的があっても良いと思います。つまり「TikTokのエンターテインメントは動画だけである」と可能性を狭めたくない。いろんなものを包含できるような柔軟さは兼ね備えつつ、成長をしっかりと維持していきたいですね。


(ジェイ・コウガミ)