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LINEエンタメCEO・舛田淳が語る“アフターコロナのエンタメ事業” 「日本の社会をアップデートさせるため尽力する」

2020年06月14日 23:11  リアルサウンド

リアルサウンド

LINEエンタメCEO・舛田淳氏

 各業界のキーパーソンに“アフターコロナ”に向けての見通しを聞く、特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」。第3弾は、LINEのエンターテイメントサービスを統括する、LINE株式会社 取締役CSMO/エンターテイメントカンパニーCEO・舛田淳氏へのインタビューをお届けする。


 あの3.11をきっかけに生まれ、人々のコミュニケーションを支えるインフラとなった「LINE」。音楽ストリーミングサービス「LINE MUSIC」、利用者数トップのマンガアプリ「LINEマンガ」、リリースが発表されたばかりの有料オンラインライブプラットフォーム「LINE LIVE-VIEWING」など、同社が展開するエンタメ系サービスは、コロナ禍によりどのような影響を受け、どんな役割を果たそうとしているのか。“アフターコロナ”に向けて、多くの分野で加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状から、人々のコミュニケーションの変化まで、横断的に話を聞いた。(編集部)


(参考:EXILEなどのライブを手がける藤本実に聞く“コロナ以降の演出”「参加型のライブがスタンダードになる」


・“オフラインの再現”から、新たな価値の創出へ
ーー今般のコロナ禍は、LINEのエンターテインメントサービスにどんな影響を与えたでしょうか。


舛田淳(以下、舛田):皆さんご存知のとおり、新型コロナウイルスは、われわれの生活自体にも、そしてエンタメ業界全体にも、かつてないほど大きな影響を与えています。エンタメ業界については、音楽ライブに象徴されるように、ここ数年「リアル/体験型」へのシフトが起こっていました。そのなかで、コロナ禍でリアルという部分がすべて遮断されてしまったことは、エンタメ業界全体としてかなり大きな打撃だったと思います。


 LINEのサービスにおいても、影響があったものは当然あります。例えば、「LINEチケット」。電子チケットにイノベーションを起こそうと考えて展開してきた事業ですが、公演自体がどんどんなくなり、しかし主催側は先が見えないなかで、ファンのため、アーティストのために販売を続け、結局は中止になって払い戻しを続ける……という負のスバイラルが回ってしまう状態になってしまいました。時期がくれば回復していくものではありますが、インパクトが出ている状態だと思います。


 一方で、ポジティブな影響を受けているサービスもあります。デジタル化しているエンターテインメントにおいては、余暇時間/消費時間が増えており、ビビッドに反応があったのは「LINEマンガ」です。もともと利用者数No.1のマンガアプリですが、ここにきてさらにユーザーの皆さんの読書時間が伸びましたし、売り上げも伸びています。また、「LINE LIVE」というライブ配信サービスも飛躍的に伸びており、これは多くの人が外出自粛で時間があり、誰かとコミュニケーションをとりたい、という需要が上がっていることが大きい。さらに、若い人たちはアルバイトもできない状態なので、ライブ配信がある種、それを代替する新しい仕事になっているという面もあります。つまり、オフラインでの経済活動が、オンラインにシフトせざるを得なかったということです。


ーー音楽ストリーミングサービスの「LINE MUSIC」についてはいかがでしょうか。


舛田:会員数、サブスクライバー自体は非常に伸びています。ただ一方で、これは予想していたことではあり、海外でも同じ状況が生じていますが、再生時間のピークがズレたり、一人当たりの再生数が4月は下がったりという影響が見られている状況です。例えば、通勤・通学時に音楽を聴いている、という方が多いと思います。しかし、コロナ禍により物理的な移動が減り、何かにじっくり取り組むことができる時間が増えた。音楽の強みのひとつは、移動中や読書中など、何かの“プラスアルファ”として楽しむことができるところですが、時間があると、例えば『あつまれ どうぶつの森』や『フォートナイト』のようなゲームだったり、YouTubeやNetflixのような動画サービスだったり、音楽が“プラスアルファ”の体験にならないエンターテインメントを楽しむことが増えます。つまり人々の関心がビジュアル側に寄る、という状況が生まれている。ただ、これは想定の範囲内で、思ったよりネガティブな影響は出ていません。会員数自体は増えており、自粛解除により徐々に視聴習慣は戻ってくるでしょうし、音楽がCDだけの時代だったらもっと大打撃だったと思いますが、音楽業界がサブスク型のストリーミングに踏み込んだことがうまくいったということかと。エンターテインメントを成長させ、守るためにも、デジタル化はやはり必要だったんだと実感しています。


ーーLINEのサービスは、エンターテインメント事業においてもコミュニケーションを軸にしています。その点で、今回あらためて考えたことはありますか。


舛田:LINEのコーポレートミッションとして、「CLOSING THE DISTANCE」という言葉があります。そのまま読むと「距離を縮めましょう」ということですが、そのなかで「その人にとって心地よい距離感にする」ことが重要だと。一方的に与えられるものでなく、お互いにとって価値を持つのがコミュニケーションであり、それをどう作っていくか。例えば、LINE MUSICのプロフィールBGM(好きな楽曲をLINEのプロフィールに設定できる機能)をとっても、そこにはコミュニケーションをとる相手がいて、さらに伝える側の意思、表現というものが伴っているんです。具体的には、大学に入学したり、新しいゼミやサークルに入ったり、というタイミングで、最初に相手のプロフィールBGMを見て会話の糸口を探ったり、彼氏・彼女という関係で、相手にしかわからないメッセージとなる楽曲を設定したり、気落ちしている/いいことがあったなど、自分のステータスを誰かに表現したり。特に日本のユーザーの皆さんの傾向を見ていると、トーク画面でいきなり曲をドンと送るより、「伝わってくれたらいいな」という微妙な距離感が向いているのではと。


 そういう感覚は、LINE LIVEなどの“エンターテイメントとコミュニケーションが融合したサービス”においても大事だと考えています。単に多くの人に観てもらうというより、ライバーさんとファンの方々のエンゲージメントを強め、深めていくことが重要ですし、だからこそ広告モデルより、ギフティングモデルを採用しています。ライバーには夢があり、ファンのみんなはそれを応援する。それは、外から見たらよくわからない世界ですが、ライバーとファンの関係においては、「心地いい」距離感なんです。LINE LIVEはそうしたコミュニケーションを後押しして、夢を叶える機会を提供しているんだと思います。


ーー「心地よい距離感」というのは、コロナ前後で変わり得る概念だと思います。


舛田:そうですね。まだ“アフターコロナ”になり切っていないので難しいところですが、ひとつ感じているのは、オンライン上のコミュニケーションは密になっており、この状況はコロナ禍が収束してもなくならないだろうということ。家族も、恋人も、仲間同士でも、ソーシャルディスタンスを取ることが求められ、まだまだ一定の距離感を保たなければいけないので、例えば対面して話す回数が減るとか、名刺交換がなくなるとか、リアルの距離感は開くと思うんです。


 私はデジタルだけが素晴らしいとはまったく思いませんが、デジタルの分野が整備されることで、これまでリアルありきで構築されていた価値観や制度の構造が変わり、今度はTPOに合わせて選択できるようになる。もちろん、コロナ禍自体は非常にネガティブなものですし、経済的なものも含めて大変な状況です。ただ、社会構造としてアップデートしたのは間違いないでしょう。本来なら10年、20年かかって変わっていくところが、この状況下で大きく前倒しになって進化のタイミングを迎えており、LINEとしてはその一翼を担っていると自負しています。


ーーイノベーションが促進され、不可逆的に変わる部分もあるということですね。コミュニケーションサービス全般においては、コロナ禍で促進された状況の変化としてどんな例が挙げられるでしょうか。


舛田:コミュニケーションサービスは、音声のほかテキスト、そこに画像がつけられるようになり、スタンプで細かなニュアンスも伝えられるようになり、という進化を遂げてきました。そのなかで、越えられなかった壁が「動画」だったと思います。なぜ顔出しでオンラインのコミュニケーションを取らなければいけないのか、という意識がありましたが、コロナ禍でその壁を100%越えたと思うんです。


ーー確かに“テレビ電話”は流行りませんでしたが、いまはオンライン会議も飲み会も、顔出しでコミュニケーションをとることが増えていますね。


舛田:そうなんです。LINEのビデオ通話も、これまでそれなりに使われてはいましたが、ここにきての利用の増加率はすごいです。従来のプロモーションを続けただけではあり得ない伸び方で、やはり何年もかかるだろうところを越えてきた。動画で顔を見ながらコミュニケーションすることが一気にスタンダードになりましたから、例えばライブ配信サービスにおいても、「配信者は動画で、視聴者はテキストで」という前提条件すら変わっていくのではないでしょうか。


ーー顔を合わせてのコミュニケーションということで、ある意味ではよりリアルに近づき、また利便性や手軽さ、ギフティングなど含めて、デジタルならではの進化も続いていくと。


舛田:そうですね。LINEのエンターテイメントサービス全般に言えることですが、まず、オフラインにあったものについて、それに近しい状態をオンラインで再現するのが第一フェーズです。例えば、LINEのトークはオフラインでのやりとりを意識してほしかったし、「既読」がつくのは安否確認もありますが、リアルに近い、速いスピードでのコミュニケーションを促進するためで。スタンプは、表情を補完するためですね。そこに、リアルだとできなかったことを乗せていくのが第二フェーズで、我々のようなデジタルのプラットフォーマーがやるべきことです。そして今度は、リアルとデジタルをどう結びつけて、新しい価値を生み出すか、という第三フェーズに来ているのだと思います。


 エンターテインメント業界全体を見ると、まだ「オフラインのイベントをどうオンラインに置き換えるか」という第一フェーズで、ここからデジタルならではの価値を出していく段階でしょう。例えば、紙のチケットではなく、電子チケットだからできることは山ほどある。これまでの制約や呪縛を一つひとつアップデートしたり、デジタルシフトさせていったり、乱暴に言ってしまうと、壊して再構築するのが、新しいプレイヤーである私たちの役割だと思っています。それはきっと、産業全体を活性化するひとつのエンジンになるだろうと。


 もちろん、これまで積み上げられてきたシステムは重要ですが、そのビジネスは普遍的なものではなく、変わらずに存在するのはニーズであって、それを取り巻く環境は常に変わっています。現状も、当たり前だと思われていたものに対して先人たちがイノベーションを起こしてきた結果、成り立っているものであって、それを先にどう進めるか。いまはあらゆる業界が大打撃を受けていますが、やり方を切り替えるチャンスであり、新しい秩序、ルール、常識というものを選べる状況にあると思います。どれが正解かはわかりませんが、少なくともデジタル化という選択肢ができることは、不正解なわけがない。我々はトライ&エラーを繰り返しながら、皆さんと一緒にそういう場を作っていきたいと考えています。


・ニューノーマルに向けて、社会をアップデートさせるために
ーーオフラインの再現からデジタルならではの強みを活かし、そしてリアルとの相乗効果で新しいものを。その流れのなかで、今後生まれていくサービスについて教えてください。


舛田:先日発表した、有料オンラインライブプラットフォーム「LINE LIVE-VIEWING」が大きいですね。これまで、いくつも無観客ライブのお手伝いをさせていただきましたが、無観客/無料のライブはサステナブルではない。当然、無観客ライブはこの状況でファンのために行われたことで、私たちもそれをサポートしたいと思いましたし、ファンの皆さんにも喜んでいただけましたが、アーティストはものを作り、感動や楽しさを届けて、それがビジネスにならないと、活動を続けていくことができません。こちらも、単にオフラインでできないことの代替ではなく、これまではライブに行きたくても行けなかった人が、日本全国どこにいてもアクセスできるようになるし、チケットの価格自体も手軽に、いろいろと変化させることができます。また、日本のアーティストが海外のユーザーに対してコンテンツを出していく、ということに対するハードルも下がる。無料で配信することもできるし、ギフティングや応援グッズの販売でマネタイズすることもできるし、チケットを販売することもできる。そういう新しい時代のライブの提供をサポートすることができると考えており、準備を進めているところです。


ーーオンライン上で好きなアーティストやアイドルと1対1で話せるライブサービス「LINE Face2Face」も発表になりました。


舛田:オンライン握手会のようなものですね。変わろうとしているアイドルビジネスのデジタルトランスフォーメーション(DX)も進めるべきだと考えていますし、これはチケット購入だけでなく、例えばCDに付属するコードでアンロックできるようにするのもいいだろうと。時間制限により、いわゆる“剥がし”も簡単ですし、スムーズかつ平等に、アーティストやアイドルとの会話の機会を提供できるようになります。


ーー今回のコロナ禍で、DXの速度が上がったというお話もありました。LINEの事業においても、早まったり、逆に予定通りできなくなったりしたこともあると思いますが、社内の意識やバランスを整える上で、どんな取り組みがあったでしょうか。


舛田:ビジョン自体に変更はないのですが、インパクトが大きかったのは、我々も問題の渦中にいたということです。当然、家から出られず、みなさんと同じようにZoomで会議をしたり。そのなかで、上からの意識統一というより、ボトムアップで「これをやったほうがいい」という声が上がってくることが多く、例えば今後さらに需要が高まるだろう遠隔教育の分野など、アフターコロナに向けて注力すべきところは明確にしていきました。そこでリソースの配分は変わりましたし、働き方も当然、変わっています。我々全員が等しく、コロナ禍を体験していることは、我々自身がアップデートされるきかっけにもなっており、提供するサービスも、社会がこれから進むべき方向に寄り添ったものになっていっていると思います。


 誤解を恐れずに言えば、LINEが生まれるきっかけになった、3.11と近い状況だと思うんです。いま自分にできること、しなければならないことが自ずと問われ、集中すべきポイントが明確になった。医療においても、フードデリバリーにおいても、我々が進めてきたDXをしなくてもいいなんてことはあり得ませんし、社会全体がニューノーマルに向けて進もうとしているなかで、今後振り返ったときに、「あそこがターニングポイントだった」と言われることに、間違いなくなると思います。


ーーあらためて、このコロナ禍を経て、中長期的に注力していくこと、その理念について聞かせてください。


舛田:我々は先ほど申し上げた「CLOSING THE DISTANCE」とともに、戦略として「Life on LINE」という言葉を掲げています。「ユーザーの生活すべてをサポートし、ライフスタイルを革新していく」ということですが、社会環境によってライフスタイルは変わり、10年前とはまったく違う状況になっています。そのなかで、2030年に向けて我々が目指すのは、どんなサービスであるべきか。やはり、これまでDXできていない領域をことごとくデジタル化すべきだと考えています。


 コロナ禍のなか、これまでは障壁があった医療の遠隔化も進んでいますし、今後はヘルスケア全体が変わっていくでしょう。また医療だけでなく、さまざまなエキスパート、スペシャリストとのコミニケーションの幅が広がっており、「検索」よりはるかに信頼性の高いオピニオンを簡単に受けられるようになっていく。またローカルサービスにおいても、決済方法も含めたデジタル化で商圏が大きく広がり、新しい環境が生まれていきます。


 またTo Government(対政府)という面も、今回のコロナ禍で大きく進みましたし、今後もさらに進展すると考えています。例えば「学生支援緊急給付金」について、LINEから申し込みできるようにするという英断をいただきました。行政機関と市民をつなぐインターフェイスがまだまだデジタル化し切れていないなかで、LINEとして、日本の社会をアップデートさせるために、尽力することを惜しみません。


ーー最後に、エンターテインメント領域におけるサービスの見通しも聞かせてください。


舛田:これはずっと言われていることですが、今後はより個人が力を持ち、活躍できる人が増えていくはずです。活躍する人が増えれば、コンテンツが増える。万人に愛されるコンテンツは素晴らしいですが、そうではなく、ユーザーとコンテンツ/クリエイター/アーティストのマッチングがより、重要になっていきます。その仕組みを作り、マネタイズするという、新しい経済圏を作っていくことが、この10年、LINEがエンターテインメントという領域でやるべきことだと考えています。その第一弾が、現在も展開しているLINEマンガであり、LINE MUSICであり、LINE LIVEというもので、そこからもう一歩進んだのがLINE LIVE-VIEWINGであり、LINE Face2Faceだということです。


 もっとも、コロナ禍が収束したら人に会いたいし、ライブに行きたいですよね。DXというと無機質で冷たい、人の気持ちをわかっていない、というイメージもあると思います。ただ、日本人がライブイベントに行く回数は、平均すると年間一人当たり1.2とか1.4という数字なんです。そうであるなら、まずはハードルの低いデジタルの領域で、もっとリーチさせるべきではないかと。そこできちんとファンダムを作ることで、リアルの場に足を運びたくなる、つまりはリアルな場が、より価値を持つようになる。そういうエンターテイメントのエコシステムを回すことに、貢献していきたいと考えています。


(橋川良寛)