新型コロナウイルスの影響で外出自粛が広がり、ウーバーイーツに代表される宅配サービスの需要が増えている。一方、報酬額の決め方に不透明な部分があり、昨年10月に個人事業主の配達員らによる労働組合が結成されたことは記憶に新しい。
今回は、新型コロナによる収入減少に伴い、副業として同社の配達員になったという男性に働き方や心構え、運営会社側への要望などを聞いた。(文:ふじいりょう)
本業の清掃案件が激減、4月に登録したAさんは……
都内で清掃会社を経営している36歳のAさんは、緊急事態宣言の発令以降、オフィスやホテルの清掃案件が激減したという。政府は当時、中小企業を対象とした持続化給付金の方針を打ち出していたが、「払われるまで待つよりは、何でもいいから収入の手段があった方がいい」と4月上旬にウーバーイーツの"配達パートナー"になることを決めた。
「たまたま事業で使っている屋根付きバイクがあったので、これを使えば出来る、と考えました」
4月は配達パートナーの登録者が多く、公式の保温バッグ"ウバッグ"が購入できないほどだった。配達パートナーは、配達に使用する車両を登録する必要があり、自転車、レンタサイクル、原付バイク、125cc以上のバイクと分かれているという。Aさんの場合は原付バイクのため、自転車の配達パートナーとは違った店舗が割り振られることが多いようだ。
「主要駅のチェーン店は実際需要も多いのですが、全部自転車勢に取られてしまう。バイクの依頼は個人店で、やや遠い距離のところの依頼が中心になります。ただ、ウーバーイーツを使っている人のようなリテラシーの高い人は駅周辺に住んでいることが多いので『いい仕事が残っていないな』と感じることはありますね」
「雨の日に一日中配達をしてやっと1万円超えた」
他方、Aさんは現在の報酬体系に「不満はない」という。懐事情については
「1件の配達は平均すると400~500円くらいです。私の場合は、17時頃にはじめて20時半まで配達していることが多いのですが、一日あたりだいたい4000円くらいになります」
と明かす。配達員の間には、一定期間内に配達する回数を定めた「クエスト」があり、これを達成すると追加ボーナスが入ってくるという。また、件数の多い時間帯のエリアは「ブースト」され、報酬が10%加算されるようだ。
一方、待機場所から提携店舗まで移動する時間は報酬に換算されない。一日の報酬総額が約4000円と聞くと、少ないと感じる人もいるだろう。Aさんは「雨の日に一日中配達をしてやっと1万円超えた」とのことだが、「副業としてならこれで十分」とも話す。
「私の場合、本業が少なくなったとはいえ、そこまで生活が逼迫しているわけではありません。例えば夕食を食べにラーメン屋に行くついでに配達もしようか、という気持ちでやっています」
さらに「これなら400円の配達を2回こなせばラーメン代と同じで、差し引きゼロということになる」と笑う。今の生計状況ならば"空いている時間に配達をする"という感覚で十分なこともあり、働きやすさを感じているようだった。
Aさんは、副業としてのウーバーイーツという選択に可能性を感じている。
「とりあえず配達パートナーになるのは無料なので、みんな登録だけすればいいのに、と思いますね。もう一つの仕事で食べていくという時代じゃないし、時給的な考えは古い」
例えば、友だちに会いに行った際にそこでレンタサイクルを借りて配達を行う――と誰でも気軽な働き方ができるのが魅力だという。Aさんは「今後対応エリアが拡大したなら、東海道をバイクで配達しながら旅行するというのをやってみたいですね」などと語る。これが実現すれば、"ガチノマド"のような生活が可能になる日も近いだろう。