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『ハイキュー!!』月島蛍はいかにしてブロックの要となった? 冷笑していた少年がガッツポーズを見せるまで

2020年06月14日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 バレーボールに青春をかける高校生たちを描く『ハイキュー!!』。今回ピックアップするのは、日向や影山の同期で、のちに烏野のブロックの要として活躍することになる月島蛍だ。


 烏野でチームイチの身長を誇るミドルブロッカー。しかし、その態度はどこか冷めたもので、日向にも「月島はバレーやりたいのかわかんねーもん」とさえ言われている。しかし、最終章ではVリーガーとしての道を選んだことが明らかにされた。


 月島がバレー選手となるとことを選ぶまでにはどのような道程があったのだろうか。


屈折したバレーへの想い

 「小さな巨人」を擁し、バレー強豪校だったかつての烏野高校でエースとして活躍する7歳年上の兄・明光に憧れていた月島は、その影響でバレーを始めた。しかし、こっそり試合を見に行った月島は、実は兄がエースどころか控えの選手でもなかったということを知ってしまう。


 毎日のようにバレーの話をして、「たかが部活」のことなのに、それが兄のすべてのように思い、結果的に兄を追い詰め、嘘をつかせた。それが小学生だった月島の心に影を落とすことになる。絶対に1番になれない。がんばってもいつかは必ず負ける。


 それでも、月島はバレーを辞めなかった。「たかが部活」と思いながらも、バレーへの気持ちを捨てきれずにいた月島は兄と同じ烏野高校に進学。そこで月島の人生を変える、バレーのことしか考えられないバレー馬鹿たちに出会うこととなる。


バレーが楽しくないのはへたくそだからじゃない?

 日向と影山に触発されるようにして、烏野のチームメイトたちはぐんぐんと成長していく。インターハイ予選で及川率いる青葉城西高校に負けてからは、それが顕著だ。夏に実施された、関東の強豪校との合宿で、烏野のメンバーは「自分たちはこの中で一番弱い」と自覚し、相手から吸収すべきことはたくさんあるとひたむきに練習試合に取り組んだ。


 しかし、その中で月島だけは変わらぬままだ。他校のコーチも、キャプテン陣も月島に「変化がない」ことに気付いていた。


 そんなとき、音駒高校のキャプテンであり、月島と同じミドルブロッカーである黒尾が自主練に誘う。



「君、MBならも少しブロック練習した方が良いんじゃない?」



 月島も相手を挑発して煽るタイプだが、黒尾も煽り上手である。冷めているように見えて、根が負けず嫌いな月島は、まんまと術中にはまり黒尾の自主練に付き合うことに。そして全国で5本指に入ると言われている梟谷学園のエース・木兎のスパイクを受けることになる。


 しかし実際にブロックせんと飛んだのは数本だけ。黒尾に日向と比べられ挑発されると、「日向と僕じゃ元の才能が違いますからね」と自分を卑下する。月島はそれまでにも何度か自分より日向のほうがセンスがあると認めるようなセリフを吐いたことがある(もちろん、ストレートには褒めないのだが……)。そんなふうに言う月島に黒尾は疑問を持つ。



「身長も頭脳も持ち合わせてるメガネ君が チビちゃんを対等どころか敵わない存在として見てるなんてさ」



 月島はバレーに対する熱い気持ちと裏腹に、一生懸命になってもどうにもならないとその気持ちにストッパーかけてしまい、心がバラバラだったのかもしれない。月島は、黒尾たちに聞く「どうしてそんなに必死にやるんですか? たかが部活に」。それに対して木兎は投げかける。



「バレーボール楽しい?」「(楽しくないのは)へたくそだからじゃない?」



 この一言が、月島が成長するきっかけのひとつなる。この時点でコミックが10巻まで進んでいることを考えると、月島の成長をいかに丁寧に描いているのかが分かる。


月島がバレーボールにハマる瞬間
19巻の帯には「月島、覚醒。」と描かれた

 夏合宿をきっかけに月島は、鳥飼コーチにも自ら教えを乞うようになるなど少しずつ変化を見せる。もともとの経験と、頭脳、身長。そして冷静さ。それらを活かして、月島は次第に烏野のブロックの要となっていく。


 決定的だったのは、春高予選決勝。白鳥沢学園との対戦で、主砲・牛若を止めたときだった。対牛若のブロックを試合中に研究し即実践、そしてついに美しいブロックを決めた。「たかが部活」と事あるごとに呟き、たとえ自分がブロックを決めても「25点中の1点にしか過ぎない」と考えていた月島が、初めて見せたガッツポーズ。


 自分のプレーが決まったこの瞬間、プレーすることに快感を覚えた月島が深くバレーボールにハマッた瞬間でもあった。


 部活を一生懸命やってどうするんだと斜に構えていた月島が高校を卒業してからもバレーボールを続け、Vリーグで活躍をする。もし烏野に進学していなかったら、月島の運命は大きく違っていただろう。


 春高、音駒高校との対戦。黒尾から「最近のバレーはどうだい」と問われた月島はこう応える。



「おかげさまで極たまにおもしろいです」



 静かに情熱を燃やす、月島のバレーへの探求はいつまでも続く。


(文=ふくだりょうこ(@pukuryo))


■書籍情報
『ハイキュー!!』(ジャンプ・コミックス)既刊43巻
著者:古舘春一
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/haikyu.html