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5人に1人の割合で存在ーー敏感すぎて辛い「HSP」が人生を楽しむための『53の幸せリスト』

2020年06月13日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 小学生の頃、通知表にはずっと「感受性が豊か」と書かれていた。その感受性が長所ではなく、生きづらさのもとになったのは一体いつだったのだろう。自分の身の回りにはいつも、理解されない恐怖や悲しみがたくさんある。


 例えば、電車。周りの視線や飛び交う言葉が気になりすぎて携帯電話を見るふりをしながら、イヤホンをしないと乗っていられない。車を運転している時には後続車に迷惑がかかっていないか不安になるし、他人の愚痴を聞くと、その人の感情が自分の中に流れ込んできて心が侵食されてしまう感覚がある。


 「気にしすぎだよ」と周りから指摘されても、「気にしない」はどうすればできるのかとまた深く悩んでしまい、悪いループに陥ってしまう。なんでもないことに敏感に反応してしまう自分が嫌でたまらなかった。


 だから『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(武田友紀/飛鳥新社)で自分がHSPかもしれないと知れた時、号泣した。自分でもよく分からない生きづらさを言語化してくれたことや、似た悩みを持つ仲間がいることが分かって嬉しかったのだ。


関連:【画像】『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』書影


 HSPとは、生まれつき繊細な気質を持った人のこと。アメリカの心理学者エレイン・アーロン博士が提唱した概念がベースになっており、5人に1人の割合で存在することが調査によって判明している。日本では「敏感すぎる人」や「とても敏感な人」などと訳され、ロンドンブーツ1号2号の田村淳がSNSにてHSPであることを告白したことも大きな話題となった。


 著者の武田氏はHSPを「繊細さん」と呼び、同書内では刺激から身を守る工夫や繊細さを活かしながら生きる術を具体的に紹介。武田氏自身も実はHSPで、現在はHSP専門カウンセラーをしているからこそ、作中に記されている生きづらさは的確。なぜ、この気持ちが分かるんだろうと驚かされた。


 また、目からウロコだったのがHSPではない「非・繊細さん」との感じ方の比較。今まで、「どうして言っても分かってもらえないんだろう」と思い、相手の分からないという感覚が逆に分からなかったからこそ、自分が当たり前だと思っている感覚がない人もいることを知れたのは大きな発見だった。


 こうした気づきを経て、筆者の心に芽生えたのが「自分らしい幸せの見つけ方を知りたい」という想い。『今日も明日も「いいこと」がみつかる 「繊細さん」の幸せリスト』(ダイヤモンド社)はまさしく、そんな願いを叶えてくれる一冊だった。本書は前作よりもさらに、”悩みの先”に着目し、繊細な感性を克服すべき課題として捉えるのではなく、活すことで日常の中にある「いいこと」をキャッチして幸せになろうと訴えかけている。


 繊細さを「いいもの」として大切にし、幸せを増やすためには2つのポイントを意識。


1) 成果主義から一歩外に出て、自分のためだけに感じたり味わったりする時間をとる
2) 繊細さを、まずは自分の幸せのために活かす


 本書内ではこの2つのポイントをどう意識し、生活の中に取り入れていけばいいのかを全6章に分け、解説している。


■成果主義をやめて「主観の世界」で生きる


 成果主義から一歩、外に出る。……そう聞くと、なんだか難しく思えるかもしれないが、これは言い換えれば、自分が感じた小さな幸せをじっくりと噛みしめようということ。小さな違いにも気づける繊細さんの「感じる力」はストレスのもとになる一方で、ちょっとしたことを深く味わえる「幸せの源」にもなる。そこで、武田氏は自分を後回しにしない「繊細さの活かし方」を知り、成果という客観の世界ではなく、主観の世界に目を向けることで幸せを掴もうと提唱している。


 成果主義は他者からの評価があってこそ、成り立つもの。繊細さんは人のために自己犠牲しやすいため、こうした環境の中に身を置いたり成果主義をポリシーにしたりすると、生きづらさを感じ、心身ともに疲労困憊しやすい。


 だから、まずは成果主義をやめ、自分ためにもっと時間を使ってもいいのだと自分自身に許可を下すこと必要がある。ごはんがおいしい、晴れて嬉しいなど心にじんわりと湧いてくる幸せをじっくりと噛みしめ、繊細さをポジティブな方向に伸していくのだ。


 このアドバイスは、仕事に忙殺され、生産性のない時間に目を向けず生きている筆者の心に、特に染みた。隙間時間ができても休んではいけない。生産性のない時間は作ってはいけない。そんな見えない呪縛が心のどこかにあることに気づき、生き方を見直したくなった


 また、繊細さんはインプットする情報量が多いからこそ、感じすぎたらアウトプットして刺激を流すことも重要だと武田氏は語る。たとえ楽しいことであってもいつもと違うことは刺激となるため、自分の気持ちを文字や絵にしたり、歌ったりして心身に溜まった感情を吐き出すとよいのだそう。こうしたアドバイスの数々は、もやがかかった心を照らしてくれるようだった。


 本書に記された全53の幸せのコツ。それは、自分にとって、なぜフリーライターという職業がこれほどまでにしっくりきているのかも教えてくれた。自分しかいない空間で、深く掘り下げた想いや本音を紡ぐ時だけは誰かのためではなく、私ファーストになれ、ありのままの自分で呼吸できているような気がする。文字に感情を込めて、記事を生み出すこと。それは生きづらさに苦しむ自分が見つけた、生命を維持するための作業だったのかもしれない。


 時折、持ち前の成果主義が顔をのぞかせ、アクセス数やクライアントの反応、読者の反響などが気になって文の中で死にそうになってしまうこともある。けれど、そんな時は本書を読み返し、「書きたいものを書く」という気持ちを心の中で伸ばしてあげたい。ウケ狙いではなく、自分の感情を詰め込みながら、誰かの心になんとなく染みる文を書き続けていこう。そう素直に思えもした。


 大嫌いな自分の気質。それを「自分の武器」だと言える日が来るよう、「繊細さん」を楽しんでいきたい。


(文=古川諭香)