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EXILEなどのライブを手がける藤本実に聞く“コロナ以降の演出”「参加型のライブがスタンダードになる」

2020年06月12日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」の第一弾は、EXILEや三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEなどのライブで活躍するLEDダンスパフォーマンスチーム「SAMURIZE from EXILE TRIBE」のシステムや光り方の構築や、4600個のLEDを使った旗「LED VISION FLAG」を開発するなどテクノロジーを用いたライブ演出を手がけるクリエイティブカンパニー・mplusplus株式会社の代表・藤本実氏が登場。


 先日noteに投稿した「ライブ演出会社の現状」(https://note.com/minoru_fujimoto/n/n9061cefe516d)が話題を呼ぶなど、コロナ禍において大きな打撃を受け、そのうえで次への一歩を踏み出し始めた藤本氏に、ここ数ヶ月の業界の動きやコロナ以降のライブ演出のあり方などについて語ってもらった。(編集部)


(参考:テクノロジー×ライブ演出の最前線で起きていること


・「『どこかで絶対に立ち行かなくなる』と思うようになった」
ーーまずは、新型コロナウイルスの感染拡大から、現在に至るまでの状況を聞かせてください。


藤本実(以下、藤本):会社として、2019年から準備をしていた仕事ーー2020年内に行われるはずだった、アーティストのドームツアーとアリーナツアー、スポーツイベントやオリンピック関連のセレモニーなどがすべてキャンセルになってしまいました。EXILEさんとPerfumeさんがコンサートを中止すると発表した日(2月26日)から、本日まで仕事は全くありません。


ーードームやアリーナのツアー、オリンピック関連など、大きなイベントが多かったんですね。


藤本:基本的に一つの仕事が大きいので数は出来なくて。その割に、常に3案件くらいをパラレルで動かしていてかなり慌ただしかったのですが、一気にそれらが消えてしまいました。あと、中国の工場に依頼していたLEDやデバイスの部品が届かなくなりました。


ーー世界的にも、中国に製造拠点を置いている企業は真っ先に打撃を受けています。


藤本:僕らの場合、春節の時期には仕事をお願いしないようにしていて、1月頭にまとめて納品してもらって、向こう1~2ヶ月は頼まなくても良いような状態にはしていたのですが、春節の終わりと同時に工場が動かなくなりました。


ーーイベントやライブがなくなった場合、mplusplusとしては開発にシフトするという手もあったと思いますが、そういった理由で開発もできなかったと。


藤本:はい。4月頭からようやく届き始めました。


ーー想像以上に、色んなものが突然なくなっていて驚きました。そこまで多くのことが重なると、精神的にも厳しいものがあったのでは。


藤本:中国の状況を見ていて、世界的なイベントであるオリンピックは延期か中止になるだろうと覚悟してはいましたが、日本国内のライブやイベントについては、3月は中止になったとしても、4月以降には動けるようになるだろうと楽観視していました。オリンピックの延期が決まったときも、会場が空いて延期になったライブができるようになるから、頑張れば何とかなるだろうと前向きな気持ちでいました。潮目が変わったのは4月1~2週目ですね。


ーー緊急事態宣言が出た、4月7日以降ということですか。


藤本:そうです。緊急事態宣言が出た直後も「1ヶ月しっかり休もう」というくらいでしたが、1日ごとに目まぐるしく状況が変わってきて「これはしばらく元に戻らないな。最悪、年内いっぱいは覚悟しないといけない」と社員と話し合うようになりました。


ーーそこから藤本さんの中で、どのように思考が変わっていったのでしょう。


藤本:そもそも短期間で元に戻る前提で、自分を含め社員の休養期間にしようと考えていたんですよ。会社を設立してからこれまで、かなりの速度感で突っ走ってきたところもあったので、ゆっくり思考する時間があってもいいんじゃないかなと。でも、年内は難しいかもと覚悟した瞬間に「どこかで絶対に立ち行かなくなる」と思うようになりました。それは自分たちだけでなく、ライブ業界全体を含めてのことです。


ーー公演の開催自粛によって、キャンセル費用を負担するライブ制作会社も大打撃を受けますが、それ以上に音響や照明、機材による演出を手がける会社も含めた“業界全体”の存続が危うくなると。


藤本:自分たちは他の会社と違って、機材を貸して運用するのではなく、今までないものを開発して運用するというのが特徴です。ですから、すぐに考え方を変えて「これから何を開発しようか」と前向きな気持ちになれたところはありますね。ただ、元々開発しようと考えていたものから方向性は変わり、社員全員で今まで見たことない様なものに挑戦している状況です。


ーーもともと作ろうとしていたのは、イベントやライブ演出の中で動かす“ウェアラブルな何か”ですよね。


藤本:これまでの延長線上で「100人でこれを持ったらおもしろいな」とか、ある程度の人数が集まるなかでのパフォーマンスを演出するもの、という考え方でしたが、それをいったん止めました。公演の自粛要請が段階的に解除していく期間と、終息してからでは求められるものが違うと思うんです。終息して規模感や観客数が元通りになった世界に関しては、あまり心配していません。ただ、段階的に解除されるまでの期間は、ライブは実施できても制限があることを前提に何ができるかを考えています。


ーーオンラインでの開催や、同一空間でも観客同士がソーシャルディスタンスを守る前提だったり。


藤本:そうですね。生で体感してもらうことを前提に演出していたことが難しくなっていますが、世界を見渡して見るとTravis Scottが『フォートナイト』で行ったライブのように、ゲーム業界やVR業界と手を組むという流れは生まれています。ただ、自分たちがそこで戦うのは違うのかなと思っています。


ーー“そこ”というと?


藤本:例に挙げたTravis Scottの取り組みやその他のライブ配信は、あくまで“ディスプレイの中の表現”として考えられたものですし、多数の人はその制約のなかで何か新しいことををやろうとしています。


ーーなるほど。先日Twitterに投稿して反響があった「家のディスプレイの周囲につけたLEDテープが、ライブ映像と同期して光る」という動画は、確かにディスプレイの外を演出するものでした。


藤本:あのデモはほんの一部なのですが、ライブの良さである“同じ空間を共有して繋がる”という体験を、今回のようなデバイスを通すことで、リアルに感じられるんじゃないかと。


ーー画面の中で起こっていることはバーチャルに体験したと捉えがちですが、ディスプレイの外のものを動かすことで”現実を拡張する行為”にシフトするわけですね。


藤本:まさに。まだ簡単な実験をしただけですが、ディスプレイの中で起こっていることと、その外で起きることでは、感じ方が全く違うなと気づかされました。単に音楽を楽しむためというより、自分のいる空間で何かが起きるというのが、ライブに足を運ぶ意味でもあるんだよなと。


ーーnoteにも「LEDがあるだけで高揚感が全然違ったり、ライブの非日常感や臨場感にLEDがすごく重要な役割を果たしていたと気づいた」とありました。


藤本:ライブにおけるLED照明の演出とディスプレイって、一般の方からすれば一緒だと思うんです。開発・演出してる僕自身も、そんなに変わらないと思っていましたから(笑)。わかりやすく言うと、もし、照明やレーザーが存在していなくて、ディスプレイだけがあるライブで満足できるなら、ライブに照明なんて必要ないはずですよね。でも実際は、アーティストの後ろにディスプレイがあって、アーティストにピンスポが当たってるだけでは成立しなくて、すごい数の照明がアーティストだけでなくお客さんに向いていたり、ストロボやLED、レーザーと多くの演出があって、臨場感や非日常感が生まれるわけです。そんななかで、「家だとディスプレイに映ったアーティストを見ているだけなのが当たり前」という前提条件を取っ払って、ほかに出来ることがあるんだとわかってもらえたら嬉しいです。


・「コロナによって、同じ空間を共有できるのが当たり前じゃないと知った」
ーーありがとうございます。ここからはもう少し大枠の話も聞いていきたいのですが、先ほど話してもらった「段階的に解除していく」シナリオが大前提だとしても、世界全体が不可逆的な変化を迫られた結果、その形がニューノーマルとして定着する可能性もありますよね。それを踏まえて、藤本さんのなかで「コロナ以降のライブ演出とテクノロジー」はどのように変わっていくと考えますか?


藤本:ライブビジネスに関しては、ある程度元通りになるとは思っています。ただ、価値観自体はこれまでと大きく変化すると思います。コロナによって、同じ空間を共有できるということが当たり前ではないことを知ってしまった。お客さん自体も、収束後にようやくライブに行けるとなったときには「すごいものを見る」感覚になっているはずです。ここ数年のライブ業界の演出は、後ろにディスプレイがあって、照明があって、その前で歌うという同じフォーマットでしたが、そのフォーマットが根底から覆されるタイミングにもなるのかなと思います。アーティストもお客さんも「ただ同じフォーマットでやるなら配信でもいいじゃん」という気持ちが芽生えていると思います。だからこそ「同じ空間を共有するってどういうことなんだろう」という原点にもう一度立ち返って、それぞれにできることと向き合ったうえで、次の表現が生みだされるのかなと。


ーーなるほど。「次の表現」というのは、具体的にどんなものが想像できるのでしょう。


藤本:“観客参加型”の需要は、より高まるでしょうね。今まではライブのメインテーマとは別のところで、ライブ中に1つだけそういう演出を入れるか入れないか、という感じでしたが、1年後にはその演出を核としたライブがスタンダードになる気がします。ちょうど5Gのサービスがスタートしたこともあって、大会場で高速かつ低遅延・大容量・多接続の環境がデフォルトになり、夢物語だった演出も可能になっているはずです。例えばライブ中のMCで「アンコールの曲どうしますかー?」とアーティストが呼びかけたら、お客さんの携帯にバーっと曲の一覧が出てきて、リアルタイムの投票が表示され「ああ、この曲がいいんだね」とコミュニケーションが取れたり、すぐにパフォーマンスができるとか。あとは、数万人の観客全員が携帯をアーティストに向けて撮影することで、アーティストが一番大きく映っているカメラを判定し、そのカメラの映像だけをリアルタイムでディスプレイに表示したり、機械学習を使って自動編集されたライブ映像がすぐに配信されて、「私が撮ったやつも映ってる!」と感動してもらうことも不可能ではないと思います。


ーー確かに、5Gの普及と同時期だと考えると、テクノロジーを介した全く違う表現が生まれるというのは、すごく現実的に思えてきました。


藤本:一般的な大会場のライブで、ギリギリ実現しているインタラクティブな技術って、ペンライトの光が同期するくらいなんですが、それが大きくアップデートされていくことは間違いないです。5万人がペンライトを持っているとして、制御する端末の数は5万個ですが、持っているものがペンライトではなくLEDの100個付いたデバイスーー500万個のLEDを制御できたとしたら、演出としてもやれることが全く違いますし、ただ「光が綺麗だな」という感想にもならないと思います。


ーーざっくりとした光と色の制御だけではなく、もう少し緻密かつ具体的な描き方ができる。


藤本:そうです。本当の意味で、空間のすべてを演出に使うことができるようになると思います。今はまだ、空間のなかでドット絵的に光と色を制御して演出に仕上げているんですが、空間全部が高精細なディスプレイになったと考えると、ゲーム機で例えるとファミコンからプレステに変わったくらいの衝撃はあるんじゃないでしょうか。


ーー「段階的に解除していく」シナリオでいうと、人と人との間隔をある程度取った状態での再開というものも考えられると思います。これについてはどうでしょう?


藤本:ソーシャルディスタンスを意識した状態で再開されるとすると、その間隔を演出に使うことを考えていく必要があると思います。先日、りそな銀行でソーシャルディスタンスを守るために、待合の椅子に一定間隔でぬいぐるみを置いたところ気持ちがなごんだ、というニュースを見たんです。これって、ぬいぐるみを使うことでソーシャルディスタンスを有効に使っている良い例だなと思ったのと同時に、面白い演出ができるかもしれないと思いました。これまで、ライブ会場は人と人との間隔が近すぎてやれなかった演出というのもかなりあるような気がします。


ーーぬいぐるみのように空いたところに何かしらのデバイスを置くのでもよし、光を当てるのでもよし、人を動かすでもよし、というわけですね。


藤本:お客さん全員が両手を自由に広げたり、ペンライトもライブの演出に合わせて剣くらいの長さに変えてみたり、めちゃくちゃデカいうちわを持ち込めるようになったり、と色んなことが考えられます。


ーー少なくとも一年後がそうなった前提として、技術的な課題を挙げるとすると?


藤本:どれだけデータ量を少なくしてリアルタイムで制御するか、位置制御をどうするか、といった点が課題になってくるでしょうね。あと、先ほどは大会場でのライブを前提に話しましたが、100人キャパのライブハウスにしかできないことも生まれると思いますし、逆にプラットフォームを作ってしまえば、4万人でも100人でも同じ様に使うことが可能になり、サーバーのデータ量的に100人規模ならかなりの安価でサービスを使えることになります。先ほどお話したリアルタイムで映像が切り替わるシステムも仕組みさえ作ってしまえば、ライブハウスの観客にQRコードを配り、全員のカメラをタイムコードでタイミングを同期させて映像が撮れるなんてことも可能かなと。


ーーお話を聞いていると、2020年後半から2021年中にかけては、誰が最初に次世代のプラットフォームを作るのかという技術的競争が、当初想定されていたものよりもさらに激化しそうな気がします。


藤本:そうですね。それによって、今までとは違う業種が生まれてくることもあると思います。自分たちも、世界が元に戻ったとして、これまでと同じ“LED衣装“がライブに出てくるのかな、と考えたりするので。気持ち的には、一度これまで作ってきたものをなかったことにするくらいの覚悟をしています。


・「ディスプレイを越えた繋がりをどう作るかが重要」
ーーオンラインでのライブについては、現状かなりニーズが高まっていますが、このあたりは今後どうなると思いますか?


藤本:いくつもライブ配信を見ているのですが、まだまだお金を取れるようなプラットフォームではないし、ライブができないことによる代替案にしかなっていないと思います。逆に、配信でしか感じられない感動を生み出すことができれば、主軸になるプラットフォームだとも思います。例えば先ほど話した技術の延長線上で、アーティストが「今日は照明をどうしようかな」と手元の機械を動かしたら、見ている自分の部屋の照明が変化して、インタラクティブなコミュニケーションが生まれるとか。ライブ会場でそういう演出をしても、たとえアーティストが自分に向いてくれていても全員にやっている感が強いと思うのですが、配信だと閉鎖空間だし、自分のためだけにやってくれているように感じるわけです。そういった配信でしか出来ない良さを生み出すために、ディスプレイを越えた繋がりをどう作るかが重要だと考えています。


ーートーク系のライブ配信においても、観ている人が一番興奮するのはリアルタイムで双方向的にコミュニケーションが取れた瞬間ですからね。


藤本:そういう形態だと、コメント機能で質問して、何個かに1個反応が返ってくるわけなので、1万人中の数人だけがその興奮を体感できるじゃないですか。でも「アーティストが自分のためにやってくれている」と思わせられる仕組みを作ることができたら、配信を見ている全員が味わえると思うんです。ほかにも、アーティストが配信先で何かを投げたら、視聴者の空間に何らかの形で干渉するとか。作っている本人さえ、ある種わかりやすいトリック感があるにも関わらずなぜか感動できるんですよ(笑)。


ーーテーマパークと原理的には似ているのかもしれません。作り物だと分かっていても感動するというか。


藤本:確かに。気付きやすいトリックでも、丁寧に演出されていれば人は感動できるんだなと実感しました。これは空間演出にも言えるこですし、音響面でもまだまだチャンスがあると思います。


ーー個人的には音のほうが難しいという印象があります。全員が均一の環境になりづらいというか。


藤本:そうですね。そこはまだまだ課題がありそうです。noteにも書いたのですが、ライブでちょっと気持ち悪くなるくらいの低音を感じられることにも、実は意味があったんだと改めて気づかされました。


ーー少なくとも2020年から2021年中は、そういったテーマや演出が試される時期にもなりそうですね。


藤本:間違いないと思います。オリンピックに関しても、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長である森(喜朗)元首相が「当初考えていたものとは全く異なるものになる。コロナに打ち勝った後、といった演出になる」と発言しておられますが、届ける側もそれを受け取る側も、伝えたい想いや感動するポイントが以前と異なるものになっているはずなので、演出側としては前向きにそこをしっかり考えて、新しい表現を生み出していきたいです。


(中村拓海)