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再注目される「メタバース」ビジネスーーバーチャルライブプラットフォーム運営のWaveが計43億円調達に成功

2020年06月12日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

Wave公式サイトより

 コロナ禍により大規模なライブイベントが開催できない状況が続くなか、再注目されているのがバーチャルイベントに関連したビジネスだ。こうしたビジネスは以前からあったもののだが、注目度の上昇とともに資金が流入している。


(参考:Travis Scott × フォートナイト『Astronomical』、仮想空間から生まれる”体験”の意味を考察


・ドコモ関連会社やエイベックスも出資
 VR専門メディア『road to VR』は10日、バーチャルライブプラットフォームを運営するWaveが資金調達に成功したことを報じた。調達した資金は4,000万ドル(約43億円)に達し、出資した企業にはNTTドコモ・ベンチャーズやエイベックスといった日本企業も名を連ねている。


 Waveの強みと将来の展望については、NTTドコモ・ベンチャーズが発表したプレス資料が的確に表現している。バーチャルライブスペースを提供する企業は多数あるが、同社の強みは「アーティストがモーションキャプチャーデバイスを装着し、バーチャル空間にアバターとして登場しコンサートを開催、配信することが可能」とすることだ。この強みにより、バーチャル空間ならではの演出とリアル空間でのイベントのようなライブ感を両立できる。こうした同社のサービスを使った事例には、スウェーデン出身のエレクトロ・ユニットのGalantisが今年3月に開催したバーチャルコンサートがある。


 また、同プレス資料はバーチャルコンサートに関して「リアルコンサートと比較し、会場代等の運営コスト軽減に加え、地理的・規模的な参加者の制限を越えたコンサートを実現する新しいビジネスモデル」とその優位性を指摘している。こうした優位性をもつWaveのビジネス実績と将来性を総合的に評価した結果、今回の出資に至ったのだ。


・Party Royaleの向かう先 
 もっとも、Waveが提供するようなバーチャルスペース自体は、以前から存在していた。最も有名なのは、2003年に公開された「Second Life」であろう。プレイヤーが自由にバーチャル空間で時間を過ごすことができる同サービスは、メタバースの実現ともてはやされたものの、その後衰退した。


 この「メタバース」という言葉が最近ふたたび使われるようになってきている。そのきっかけのひとつが、今年4月に開催されたフォートナイトにおけるゲーム内ライブイベント「Astronomical」だ。このイベント開催後、同ゲームの開発元Epic Gamesはゲーム内にイベント専用バーチャルスペース「Party Royale」を追加した(詳細は既報を参照)。同スペースでは有名DJがリモート出演した音楽イベントが開催されたり、バーチャルスクリーンが設置されて映画『TENET』の予告編を上映するプロモーションが行われたりしている。


 US版Forbesは5月9日、Party Royaleを考察した記事を公開した。その記事では、Party Royaleとフォートナイトのゲームモードのひとつ「クリエイティブ」の融合の可能性が論じられている。クリエイティブとはプレイヤーが自由にゲームステージを自作・公開できるモードであり、プレイできるゲームステージが日々更新されている。もしクリエイティブとParty Royaleが融合したら、かつてSecond Lifeが提供したような自由度の高いメタバースが再び誕生するのではないか、と同記事は指摘している。この指摘は、プレイヤーのクリエイティビティを重視してきたフォートナイトの歴史をふまえると、決して絵空事ではないだろう。


・メタバースでは不死になる?
 さらにWIRED.JPは9日、『「フォートナイト」の次は? これからの「ヴァーチャルライヴ」の行方』と題した記事を公開し、最近のメタバースライブ事情を特集した。その特集で取りあげられているVRに特化したコンテンツスタジオV.A.L.I.S. Studioのピーター・マーティンCEOは、バーチャル空間内で死去したアーティストを復活させたり、若返らせたりすることに期待していると発言した。死去したアーティストを復活させる事例は日本でも「AI美空ひばり」があり、若返らせる事例にはNetflixオリジナル映画『アイリッシュマン』がある。これらはディスプレイを介した体験だが、バーチャル空間で体験すれば、よりリアルなものとなるだろう。


 死者を“復活”させる技術は視覚面だけではなく、聴覚面でも進んでいる。AI技術研究機関のOpen AIは4月30日、楽曲生成AI「Jukebox」を公開した。同AIを使うと、歌手の名前とジャンル、歌詞を入力するだけで楽曲を生成できる。同AIが画期的なのは、物故した歌手も選べ、また歌手が一度も歌ったことがないようなジャンルを指定できるところだ。


 以上のようなアイデアや技術を使えば、将来的にはバーチャルライブ会場で物故した歌手と存命の歌手のデュエット、さらには歌手が若返った自身とデュエットする「セルフデュエット」も体験できるようになるかも知れない。もっとも、こうした体験をビジネス化するには、復活したアーティストの著作権をめぐる問題を解決する必要があるだろう。


(吉本幸記)