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Netflix、YouTube、Amazon……大手動画プラットフォームがBlack Lives Matterで示した団結と、その戦い方

2020年06月11日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Pexelsより

 5月25日にアメリカはミネアポリスで起こったジョージ・フロイドさんの死。彼は容疑者として警官に拘束される最中に殺害され、その一部始終が撮影されて瞬く間にオンラインで拡散されました。


(参考:アメリカの「Black Lives Matter」を受け、ゲーム業界でも大規模な抗議行動


 その後の様子は連日の報道でもご存知でしょう。セレブリティを筆頭に多くの人たちが声を上げ、黒人の権利を守る「#BlackLivesMatter」が叫ばれています。


 そんななか、複数の大手ストリーミングサービスが人種差別反対の強い意思を表明しました。強い影響力を持つプラットフォームは、どのような戦い方をするのでしょうか。


・「ジョージ・フロイドさんの死」とは
 内容を進める前にまず、「ジョージ・フロイドさんの死」がどんな経緯だったのかをあらためて説明しましょう。アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんは、2020年5月25日にミネソタ州のミネアポリスのダウンタウンに位置するCup Foodsというお店で、偽の20ドル札を使用した疑いで警察に通報されました。駆けつけた警察4人のうち、白人警官のデレク・ショーヴァンがフロイドさんを取り押さえる際、頚部を膝で8分46秒間にもわたって押さえつけられたために死亡した事件です。


・声を上げたプラットフォームは
 Entertainmentによると、差別に立ち向かうと表明したプラットフォームはNetflix、Hulu、Amazon、Starzなど。Twitterに投稿された各コメントを紹介しましょう。


「私たちは人種差別と暴力に対して断固反対の姿勢です。コミュニティのメンバーが傷付けば、私たち全員が傷つきます。社会的不公正に対処する努力をサポートするために、100万ドル支援します」(YouTube)


 Netflixは、黒人コミュニティと連帯することを表明しています。


「沈黙することは加担することと同じ。Black lives matter。私たちにはプラットフォームがあり、黒人のメンバーや仲間、クリエーターやタレントのために声をあげる義務があります」(Netflix)


「黒人の命をサポートします。今日も、これからも。あなたたちのことは見えています、ちゃんと聞こえています。私たちはあなたたちとともにあります」(Hulu)


 Amazon Primeは黒い背景に白字で次のようなメッセージを送りました。


「仲間、芸術家、作家、ストーリーテラー、プロデューサー、視聴者の黒人コミュニティ、そして人種差別や不正と戦う全ての同盟者とともにあります」(Amazon Prime)


 アメリカの衛星とケーブルテレビ向けチャンネルのStarzは、次のようなコメントを出しています。


「黒人コミュニティが暴力と差別と不公正に晒されている時に、沈黙していることなどできません。Color of ChangeとNAACPは、アメリカにおける人種的正義のために戦っている団体のひとつです。私たちは彼らのミッションを支持します。あなたも彼らを支持できます」(Starz)


 Entertainmentは、上記の他にHBOやViacom、Pop TV、Quibiといったプラットフォームもサポートしていると伝えています。


・プラットフォームはどんな方法で戦えるのか
 団結を表明するだけでは、具体的に何かを変えることはできません。では具体的にどんな方法で戦うつもりなのでしょうか。


 まず、先週の月曜日にはCBSやMTV、 BETなどのプラットフォームがフロイドさんが首を押さえつけられていた時間の8分46秒画面を暗くしました。


 火曜日には、音楽業界の人たちが筆頭となって、「Black Out Tuesday」というフロイドさん追悼のための“沈黙の日”が行われました。音楽業界が黒人アーティストやブラックミュージックからどれほど恩恵を受けてきたのかを再確認することを目的としたこの運動は、多くの人たちが参加し、インスタグラムには「#blacklivesmatter」や「#showmustbepaused」が付いた黒い四角の画像が投稿されたり、著名なアーティストのウェブサイトが一時的に閉鎖されたり、音楽プラットフォームがプログラムを変更し、8分46秒の空白の時間を加えるなどしました。


 この運動、特にインスタグラムの黒い四角の画像に「#blacklivesmatter」のハッシュタグをつけた投稿に関しては、「本来の活動に関する意味ある投稿を埋もれさせてしまう」といったことで反対する意見もありました。なかでもビリー・アイリッシュは「黒い画像や沈黙を投稿するのではなく、今こそ沈黙ではなく発言を!」と運動そのものに反対する意見を投稿し、声を上げることの重要性を訴えています。


 ちなみにio9は、Twitterで黒背景に白文字で団結を表明したプラットフォーム企業に対して、具体的にどんな支援をするのか質問しています。返答を得られたのは数社だそうですが、以下のことがわかったそうです。


 Disneyは実際に変化するまで声を上げ続けることと、NAACPをはじめとする社会正義推進のための非営利団体に500万ドル寄付することを発表。


 ViacomCBSは、従業員に対して「Minnesota Freedom Fund」などのグループにあてて、寄付を呼びかけているそうです。


 WarnerMediaは、オンラインと放送時間の両方でColor of ChangeとNAACPにアクセスできるようにするほか、OneFiftyプログラムに50万ドル寄付すると返事があったそうです。


 そんな中、日本のNetflixが日本のビューワーのために密かに次のようなアプローチをしていることに気がつきました。


・Netflixの戦い方
 6月1日、日本のNetflixは『アメリカンヒストリーX』と『チェンジリング 』を配信開始しました。『アメリカン・ヒストリーX』とは、ロスアンゼルスのベニスビーチ界隈を舞台に、ネオナチの男性が服役を経て改心するという1998年の映画で、アメリカが抱える差別や人種問題、格差社会を生々しく描いた作品です。主人公デレクのネオナチ時代の発言は、トランプ大統領の「make America great again」を思い起こさせますし、ストーリーの中には、フロイドさんの「I can’t breath」というセリフまで登場します。この映画を見れば、アメリカの分断が根強いことや、差別意識の種は植え付けられること、そして今のリーダーでは事態の収束に時間がかかってしまうであろうことがわかります。


 『チェンジリング 』は、クリント・イーストウッド監督による20年代に起こった実話をもとにしたサスペンス映画です。当時のロスアンゼルス警察の不正や杜撰な捜査、捜査ミスの隠蔽などを描いた問題作です。


 このふたつのタイトルをこの時期に日本のNetflixが配信したのは、今現在アメリカで起こっていることを伝えるためにほかならないでしょう。Netflixには他にも黒人差別や黒人を取り巻く環境に焦点をあてた作品が沢山配信されていますが、そういった真っ向からの問題提起ドキュメンタリー作品ではなく、あえて登場人物視点の作品を見てもらうことで、情報としてではなく、主観的に物事をとらえてもらいたかったはず。歴史的背景を説明するより、はるかに効果的で人の意識を変える可能性が高いと感じました。


・プラットフォームの可能性
 いま起こっている抗議運動について、根本を理解することは簡単でないと思います。私は様々な国に住んだ経験から、日本人として差別も恩恵も受けてきました。しかし、その差別経験と黒人差別は同じレベルで決して語ることはできません。アメリカに住んでいても、“イエロー差別”と“ブラック差別”は別物だと考えています。しかし、私たちはコンテンツを通して自分と重ね合わせて考えたり、投影することは可能です。


 Netflixのトップページに行くと、いま見ておくべきタイトルが高確率で表示されます。今日は誘拐され12年間も奴隷として働かされた黒人男性の体験記をもとにした『それでも世は明ける』が出てきました。静かに、しかし確実に戦う姿勢を感じます。


 最後に、Netflixで配信されている作品でアメリカの黒人差別歴史を知れるタイトルを置いておきます。


『13TH 憲法修正13条』
『投獄 カリーフ・ブラウダーの失われた瞬間』
『LA92』
『ストロングアイランド』
『ディア・ホワイト・ピープル』
『フリントタウン』
『ボクらを見る目』
『アメリカの息子』
『デトロイト』


 また、Amazon Prime videoでは、白人至上主義集団のKKKに潜入捜査した実話をもとにした『ブラック・クランズマン』を視聴することができます。上記の作品と比べると軽めですが、KKKや黒人というだけでレッテルを貼られる様子が分かります。


 この運動の終着点がどこなのかはまだ分かりません。しかし、日本に住む私たちにも何かができるはず。私は、対岸の火事と思わずに学び、当事者意識を持って声を上げ続けることが大切だと思っています。


(中川真知子)