2020年06月09日 10:11 弁護士ドットコム
彼からのプロポーズ。めでたく結婚に進むかと思いきや、「邪魔」が入ることもある。弁護士ドットコムには、「彼の母親が猛反対したために、婚約破棄となった」という女性が相談を寄せている。
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相談者は彼からのプロポーズを受け、婚約。結婚の準備に向けて歩み始めていた。しかし、彼の母親は結婚に反対し続け、相談者に嫌がらせをするようになった。
母親からの圧力がかかったのか、最終的に彼からは「親が反対している」ことを理由に婚約を破棄されてしまった。
婚約を破棄された理由や、彼の母親にされてきた嫌がらせの数々を思うと、相談者はとても納得できないという。婚約者と彼の母親の両方に損害賠償を請求することはできるのだろうか。川見未華弁護士に聞いた。
ーー婚約者に損害賠償を請求することはできるのだろうか。
「婚約が成立しているにもかかわらず、正当な理由なく婚約を破棄した者に対しては、他方当事者は、債務不履行を理由として、あるいは婚約者としての地位を侵害した不法行為として、損害賠償を請求することができます。
たとえば、婚約者の一方が婚約を破棄したとしても、その他方当事者が第三者と肉体関係を持ったり、社会常識を逸脱した言動をしたりしたことが原因となった場合であれば、婚約破棄をする『正当な理由』があると認められやすいでしょう。
他方で、今回のケースのように『自身の母親が反対している』という理由だけでは、婚約解消の正当な理由があるとは認められない可能性が高いでしょう。婚約破棄をする正当な理由が認められない場合は、相談者は彼に対して、損害賠償を請求できます」
ーー相談者は、婚約者だけではなく、彼の母親に対しても損害賠償を請求したいと考えている。婚約者の母親に対しても請求することはできるのだろうか。
「当事者の親などの第三者であっても、婚約の履行を不当に干渉、妨害して解消に至らせた場合には、婚約解消に関し、不法行為責任を負います(最判昭和38年2月1日民集17巻1号160頁)。
たとえば、母親が自分の息子に対して、事実と異なることを告げたり、脅迫したりする等の不法な手段を用いて婚姻を断念させた場合には、不法行為責任を負うと考えられます。
今回のケースでは、彼の母親が結婚に反対し続け、相談者に嫌がらせをしたり、息子に対して圧をかけたりした可能性もあるとのことですが、こうした事情が『不当に干渉、妨害して婚約解消に至らせた』と認められる場合には、母親に対して、損害賠償請求ができます」
ーー結婚式直前の婚約破棄を不法行為と認め、婚約当事者の実母をその共同不法行為者と認めた裁判例(徳島地裁判決・昭和57年6月21日)がある。このような裁判例は稀なのだろうか。
「婚約破棄に関し、親の不法行為責任を認めた裁判例は、あまり多くはないようです。
本裁判例では、まず、息子(婚約当事者)の婚約破棄に正当な理由はないとして、息子の不法行為責任を認めています。
息子の母親については、息子が婚姻を迷いながらも婚約破棄までの決意には至っていなかったところ、婚姻反対の働きかけをし、相手女性の欠点を指摘し、婚約解消の依頼のため仲人宅に息子と一緒に出向くなどしたとされています。
これらの母親の行為は、一体となって、息子の婚約破棄の決意を誘発させ、決意の形成に寄与したことが認められるとされています。
以上より、本裁判例では、息子と母親が共同不法行為者として、婚約破棄によって生じた損害について、連帯して賠償義務を負うと判断されました。
母親の行為が『婚約の履行を不当に干渉、妨害して解消に至らせた場合』であることが認められたものといえるでしょう。
ただし、婚約の履行は、最終的には当事者が自由意思で決断すべきものという点に照らせば、親が、単に婚姻に反対の意見を述べることだけでは『婚約の履行を不当に干渉、妨害して解消に至らせた場合』とはいえない場合が多いでしょう。
親の関与を不法行為と言い得るためには、単なる親としての干渉を超え、当事者の自由意思の遂行を阻害するような『不当な干渉・妨害』である必要があると考えられます」
【取材協力弁護士】
川見 未華(かわみ・みはる)弁護士
東京弁護士会所属。家事事件(離婚、DV案件、親子問題、相続等)及び医療過誤事件を業務の柱としながら、より広い分野の実務経験を重ねるとともに、夫婦同氏制度の問題や福島原発問題等、社会問題に関する弁護団にも積極的に取り組んでいます。
事務所名:樫の木総合法律事務所
事務所URL:http://kashinoki-law.jp/