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【スーパーGT GT500コンビ相性診断】タイトル獲得に不可欠な“ふたりのドライバーの相性”から2020年シーズンを予想する

2020年06月08日 12:11  AUTOSPORT web

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2人1組で戦うスーパーGTでは、チーム力やマシンの性能はもちろん、ドライバーの相性も重要になる。(写真は2019年第3戦鈴鹿ラウンド)
新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が遅れていたスーパーGTだが、6月4日(木)、日程や開催地を変更した再日程が発表された。全戦無観客開催が予定され、開催サーキットも限られるなど当初の予定からは大幅な変更となってしまったが、3月14、15日に行われた岡山公式テスト以来、約4カ月の時を経ていよいよ2020年シーズンが動き出す。

 今シーズンのスーパーGT GT500クラスは3メーカーとも新車が投入され、マシンのパフォーマンス面が注目を集めている。さらにドライバーラインアップも非常に興味深く、全15チーム中9チームが新規の組み合わせとなり、勢力図にも変化が起きそうだ。

 スーパーGTではフォーミュラのレースと違って2人1組で1台のマシンをシェアして戦う。もちろんマシン本来が持つパフォーマンスや勝つための戦略、ピット作業などのチーム力も重要なファクターではあるが、なかでもふたりのドライバーの“相性”は不可欠な要素だ。5月22日に発売されたオートスポーツNo.1530ではスーパーGTでタイトルを獲得するために必要な「コンビの相性」について掘り下げている。

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“相性”という言葉から誰しもが性格のことを想像するだろう。しかし、スーパーGTにおける“相性”というものにおいて性格は関係ない。ここでいう“相性”は性格ではなく、ドライビングスタイルのことを指している。

  本来、レーシングドライバーであれば自分のスタイルにあった乗りやすいマシンを好むものだ。しかし、スーパーGTのようにふたりで1台のマシンを走らせるレースでは自らの好みを優先してしまうと逆に勝利から遠ざかってしまうことがある。ゆえに、ドライバーラインアップは重要となる。

 スーパーGT GT500クラスにはご存じのとおり、トヨタ、ホンダ、ニッサンの3メーカーが参戦しており、ドライバーの組み合わせにはこのメーカーの意思が強く関わってくる。ニッサン陣営で12年間のうちに6度のタイトルを獲得した元総監督・柿元邦彦氏も「コンビを決めるのはかなり難しい作業だ」と話す。

「コンビを決める過程にはさまざまな要件がある。『ふたりのドライビングの相性』に加えて、『使用するタイヤとのマッチング』も考慮しなければなりません。一見、相反するふたりを組ませることは得策ではないように思えますが、そうならないところがややこしい。単にドライビングスタイルがあっていれば良いという話ではありません」

 スーパーGTにはタイヤのコンペティションが存在しているが、どんなに腕の良いドライバーであってもドライビングスタイルとタイヤが合わないことがあるというのだ。いくらふたりのドライビングの相性が良くても、一方のドライバーがタイヤとのマッチングに苦労すれば、結果はなかなかついてこない。そのため、ラインアップを考える各陣営の首脳陣たちは毎年頭を悩ませている。

 ドライビングスタイルについても、実に奥が深い。よく「アンダーステアの方がいい」「オーバーステアの方が乗りやすい」などというコメント耳にしたことがあるはずだ。たしかにドライビングスタイルは「アンダーステア派」と「オーバーステア派」に大別できる。しかし、もちろんそう単純なものではない。

 今年、スーパーGT参戦24年目を迎え、これまで多くのドライバーとコンビを組んできた経験を持つTGR TEAM ZENT CERUMOの立川祐路は「ニュートラルが一番」だという。

「アンダーステアも、オーバーステアもどちらも好きじゃない。どちらが好きというより、自分のニュートラルがどこにあるかが重要」

 この「ニュートラルの位置」が肝になるわけだが、一方のドライバーがニュートラルと感じていても、もう一方のドライバーはそれをアンダーステアに感じるかもしれない。つまり、ニュートラルの基準はドライバーによって微妙に異なるのだ。

 テストやレース前のフリー走行などで、セッティングの調整を重ねているのは、ふたりのドライバーが納得する「ニュートラルの位置」を探っていると言えるだろう。ただし、レースの週末は時間が限られているため、細かいところまでは突き詰められず、最終的には妥協したり運転でごまかしたりしているのが実情のようだ。

■ドライビングの好みは一緒じゃなくてもいい

 では、実際の現場でふたりのドライバーの意見を聞き、セッティングを施すエンジニアはどのように最適解を追求しているのか。TEAM IMPULの大駅俊臣氏はそのポイントを「コーナー侵入時とブレーキング時のリヤグリップにある」と言う。

 マシンはコース上のあらゆる場面でさまざまな挙動を示すが、ほとんどのドライバーはターンインの姿勢を重視する。その姿勢に対して自身のコントロール下にマシンを置いておくことができなかったとき「どうにかしてほしい」とエンジニアに訴えるのだという。そしてこのターンインの姿勢に個人差が生まれやすい。そのときの許容度合いがふたりのドライバー間で一致していると「相性が良い」と言うことになるようだ。 

 ただし、完全に一致することはないためふたりのドライバーとエンジニアを含めたチームは、そうした部分の調整でいいとこ取りができるようつねに頭を悩ませているのだ。

 2018年のチャンピオン山本尚貴/ジェンソン・バトン(TEAM KUNIMITSU)や2019年のチャンピオン大嶋和也/山下健太(LEXUS TEAM LEMANS WAKO'S)は、いいとこ取りができていた成功例と言える。もともと2チームともふたりのドライバーが好むドライビングスタイルは異なっており、シーズン開幕前に彼らがタイトルを獲るとは誰も予想できていなかった。

 しかし、彼らはドライビングスタイルの違いをアンダーステア、オーバーステアに対する許容度の広さでカバーしたり、お互いのいいとこ取りをしたマシンセッティングを施すことでレースで強いクルマを作リあげ、チャンピオンを獲ることができたのだ。

 スーパーGTにおける“相性”はもちろん一致していることがベストではあるものの、ドライビングの好みは必ずしも一致していればいいというわけでもない。こういう視点で今季のスーパーGTのコンビを見てみると、普段とは違う視点で楽しめるかもしれない。

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