2020年06月08日 10:21 弁護士ドットコム
「なんで同じところに2つも?」。街を歩いていて、仲良く並ぶ2つのポストに出くわした。見た目は一緒。どっちに出しても、ちゃんと届くみたいだが――。
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日本郵便によると、ポストの「横並び」は珍しいようだ。全国にある約18万本(2019年3月末時点)のうち、横並びは数十箇所。3つ並んだものになると激レアで、3箇所しかないという。
しかし、同じ場所にあるなら、大きなポスト1つで事足りるんじゃ…。一見ムダのように見える横並びポストの謎に迫った。
小田急線新百合ヶ丘駅(神奈川県川崎市)の南口に「2つの横並びポスト」を発見した。ポスト間はたったの約4メートルだ。
横並びということなら、記者はかつて、JR博多駅前(福岡県福岡市)で「3つ」並んでいるポストを見かけたこともある。
しかし、これはルール上おかしいはずだ。ポストの設置基準は、日本郵便の内規で原則、「近隣ポストとの距離は250メートル以上」と決められているからだ。
「これは2本のポストですが、カウントは1本です」
こう答えるのは、日本郵便の担当者。「1本でもにんじん」。そんな数え歌をなんとなく思い出してしまう。
「1本では容量が足りない場所には複数のポストを置く。2本でも、1本として数えるんです。特大のポストをつくればいいのですが、コストがかかるし、置ける場所も限られてしまうので」
郵便ポストのサイズは基本的に「号数」が増えるほど大きくなる。新百合ヶ丘のポストは現行最大の「十二号」。それでも、容量が足りないとなれば、新しく増やすしかないというわけだ。
「新百合ヶ丘のうち1本はもともと小さなポストだったんです。郵便物の量が増えたり、レターパックなど大きなサイズの郵便物が増えたりしたので、2019年6月に別の場所から大きなポストを持ってきて入れ替えました」
全国的にも大型の郵便物が増えているといい、ポストに求められる容量が増えているそうだ。
しかし、真横につくらなくても、周辺エリアに分散させるというやり方もあるのではないか。
「ポストを1本作ると、取集めの作業が増えます。既存のルートを見て、支障がなければ、原則の数字に少し満たなくても設置することはありますが、基本的には厳格に原則を守っています」
このような横並びのポストは全国に数十カ所ある。東京でいえば、新宿や渋谷、市ヶ谷など人通りの多い場所にある。
「3本ポスト」はレアで、冒頭でも取り上げたJR博多駅筑紫口のほか、大阪府の「御堂筋本町ビル前」と「地下鉄天満橋駅前」の3箇所しかないようだ。
「私どもで確認できたのは、この3エリアだけでした。4本ポスト? わかりませんが、おそらくないと思います」
取材に当たって、福岡在住の読者に写真を撮ってもらった。
「博多駅の出入り口に一番近いポストの投函が一番人気で、たくさん郵便物を入れられていました」(読者)
新百合ヶ丘駅の2つのポストも、「数字を集計していませんが、実際に取集めしている者の感覚では、駅側に近いポストのほうが投函数は多いそうです」
以上は、日本郵便が設置した「公設ポスト」の話だ。
「民営化したので、『公』の文字が正しいのかわかりませんが、誰でもお使いいただける『公(おおやけ)』という意味で、公設ポストと呼んでもよいと思います」(同社担当者)
郵便法では「公設」のほか、日本郵便の承認があれば、基本的に誰でもポストをつくれるとされている。世の中には、そんな「私設ポスト」も1000本ほど存在する。
設置基準は、郵便法によって定められた「内国郵便約款」で決まっており、日本郵便はこれに則して承認するかどうか判断する。
「取集めに支障のない場所で、1日の平均差出見込みが10通以上であることを設置基準として、判断することになります」
「取集めに支障のない場所」とはどんなところなのか。
郵便物の配達には二輪車が主に使われている。一方、取集めは四輪車がメイン。管轄エリアの郵便ポストに番号をつけて、「一筆書き」で取集めをしている。
「『順番から離れてしまう場所』や『付近に取り集めを行う車両の駐車スペースがない場所』。これらのケースを『支障がある』と想定しています」
なお、私設ポストの設置費用は自己負担。さらに毎年の「取集料」がかかる。
取集料は、1日の取集めの回数や設置場所によって年間8万3810円~25万1430円。道路や近接する場所なら安いが、そうでなければ高くなる。
1日の平均差出数との関係もあって、個人で施設ポストを設置することはほぼなく、ほとんどが企業や団体だという。
なお、たまに間違えられることもあるが、コンビニ店内にあるポストは私設ではなく、日本郵便が設置した公設ポストだそうだ。