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劇団ロロ 三浦直之に聞く、演劇の現状と未来像 「変化に対してどう向き合っていくか」

2020年06月06日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

三浦直之(撮影:三上ナツコ)

 コロナ禍におけるエンタメ業界の現状、そしてこれからについて考えるリアルサウンドの特集企画『「コロナ以降」のカルチャー 現在地から見据える映画の未来』。第5回は劇団ロロの脚本家である三浦直之氏に、演劇界の現状や変化について、また今後の未来像を見据えた上で、今行っていることを教えてもらった(5月22日取材/編集部)。


【写真】連作短編通話劇シリーズ『窓辺』


■「演劇」は災害やウイルスにすごく弱い分野


ーー劇団や劇場は、コロナウイルによってどのような影響を受けていますか?


三浦直之(以下、三浦):劇場が閉じているので、舞台公演の予定はほとんどが延期か中止になっています。4月と5月に予定していたロロのいわき・三重公演は延期に、6月に予定していたロロの本公演は、先日中止を発表しました。ツアーに関しては劇場の主催公演で、劇場から上演料をいただいて公演をする形だったので、今のところ金銭的な負担は少ないです。劇場の方たちが、この先どうやって演劇を復活していけるかにとても尽力されていると感じます。ロロの公演もできるだけ延期や、中止だとしても今後上演の機会を探ってくださることになったので、ありがたいです。


ーー中止の場合、金銭的な負担はあるのでしょうか?


三浦:メンバーが出演していた玉田企画『今が、オールタイムベスト』(2020年3月19日~26日)が劇場で公演をやっていたギリギリの時期だったと思うんですが、それ以降は軒並み劇場が閉まってしまうということで、僕たちも稽古を始める前でしたので、負担は少なく済みました。もし美術を発注し、スタッフも稼働していて、劇場入り直前まで稽古もして中止になった場合、僕らの劇団の規模だと数百万円、人件費なども含めると1千万円近くの負債になってしまうと思います。演劇を続けられないくらいの額ですね。


ーーなるほど。公演が延期、中止になっている中、劇団メンバーの方々はどう過ごされているのでしょうか?


三浦:僕個人に関しては、ありがたいことに舞台だけではなく、他の執筆のお仕事をいただいているのですが、俳優やスタッフは仕事が全部なくなっていると聞いています。僕らのような小劇場演劇といわれる規模だと、演劇だけで食べていける俳優ばかりじゃありません。メンバーは他の仕事でも生計を立てつつ、さらに演劇があって、両軸でやっているのが基本です。本来であれば、俳優たちにはツアーと本公演でギャランティを支払う予定でしたが、今すぐに満額支払える目処が立たず、すごく難しい状況です。


ーー映画館も閉館を余儀なくされていましたが、映画と演劇におけるコロナウイルスの影響の違いはどう感じていますか?


三浦:これまでも演劇はインフルエンザで公演中止になることも度々起こっていたので、災害やウイルスにすごく弱い分野だと思います。劇場が再開しても、通常の満席の状態で演劇ができるようになるのはまだ先になるだろうし、コロナウイルスによって演劇の配信や映像化の流れが加速していくのをすごく感じていて。そのことに対してどう向き合っていくかというのを、今『窓辺』という作品を作りながら考えています。


■客席をどうデザインするかが演劇の新しい要素に


ーー『窓辺』はビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズとして、YouTube Liveで生配信されている作品ですね。


三浦:面白いものが出来た気はしているんですが、作品だけでは演劇にはならないということも痛感しています。演劇というのは、作品と観客がセットになって初めて生まれるものなので、作品だけのクオリティを上げても、それはどこまでいっても映像作品にしかならないなと……。観る側の能動性というのをどうやって作っていくか、観客がそれぞれ仮の劇場を作るとか、そういうことも試みとしてやっていかないと、これは演劇になっていかないなと思いましたね。


ーー観る側がそれぞれ自宅に仮の劇場を作って、環境を整えることも必要だと。


三浦:ZoomやYouTubeで配信をすると、観客は画面を観るだけで、どうしても眼差しが一方的になってしまうんです。舞台だと俳優からも観客は見えていて、舞台上では“見る”“見られる”という関係が曖昧な状態で、人がいることを感じられる中で作っていくので。稽古に関しても、Zoomでやると監視のようになってしまっています。今、コロナウイルス用のアプリが開発されて、監視社会が進んでいる国などもある中で、演劇は監視だと成立しない。眼差しが往復し合うというのは、稽古の段階でも完成した作品でも重要なことで、眼差しの複数化みたいなことが起こらないと、なかなか難しいんじゃないかなと。


ーー『窓辺』が配信されるまで、自粛期間に突入してからとても短いスパンでしたが、どのように構想を練っていったのでしょう?


三浦:3月の末に今後についてロロのメンバーとリモート会議をしたときに、今は人と会ってないから、誰かとちょっと話すだけでも気が楽になったと言っていたメンバーがいて。僕は集まったり、コミュニケーションの場所を作るというのも演劇の役割だと思っているので、メンバーたちとコミュニケーションをとる場所を作りたいなと。だったら作品を作るのが1番早いなと思って、『窓辺』の企画を始めました。


ーー2月には『四角い2つのさみしい窓』の東京公演を開催されていましたが、その作品との繋がりもあるのでしょうか?


三浦:『四角い2つのさみしい窓』は、舞台上と客席の間に透明な壁が存在しているのが普通になった世界を描いていました。観客と舞台が完全に分けられて、セパレートされていると、演劇は成立しないんじゃないかと思いながら作っていて。なぜなら、演劇は観客に自由が与えられているもので、観客は眠っても席を離れてもいい、舞台に上がることもできてしまう、言ってしまえば観客は舞台に上がって舞台を破壊する権利を持っている。演劇は根本にそういう暴力性があって、それに対してどう向き合っていくかが、演劇を作るということだと僕は思っています。だから、舞台と客席が壁で隔てられると、それは演劇じゃないと思っていたんです。VR演劇とかも、どんなにリアルになったとしてもVRは実体ではないから、演劇といえるのだろうかと考えていました。その後、コロナウイルスでソーシャルディスタンスをとる生活が推進されて、今はコンビニやスーパーに行くと本当に透明な壁で隔てられている状況です。『四角い2つのさみしい窓』のときに考えていた理屈で「演劇できない」とか言ってないで、「どうすれば演劇になるかを考えてみよう」と思ったのも、『窓辺』を始めたきっかけでした。


ーー実際にオンラインで稽古や作品を作る上で、通常の創作との違いを一番感じるのはどんなところでしょう?


三浦:稽古と言うより観察しているような感じが強くなってしまうのと、無駄な時間がすごく少なくなりました。稽古って悩んだり雑談したり無駄な作業があって、余白が多いんです。リモートだと画面にグッと集中しなきゃいけないから、必要最低限のことだけをやっていく流れになって、効率はすごく上がるんですけど、演劇ってそもそも効率が悪いものだとも考えたり。あとは単純にコミュニケーションの作り方が変わりますね。


ーー限られた条件の中で実際に配信して、いかがでしたか?


三浦:観客をどうやって能動的にさせていくかを考えるすごくいい機会になっています。劇場が再開されたとしても客席は全部埋められないとなると、客席をどうデザインするかというのも、演劇を作る中に組み込まれてくると思うので、それを考えるのは面白いです。


ーー第3回の配信も予定している『窓辺』ですが、今後の構想は?


三浦:6月に配信する3話で、一旦一区切りと考えてます。この先もシリーズを完結させるわけではなくて、時期を見ながら続ける可能性もあります。劇場公演の計画を立てるのが難しい中で、演劇ができないときにどういう場所を用意しておけるか、ロロを続けていくために考えていかなければならないと思っています。


ーーこの創作を通して新しく得たものはありますか?


三浦:宮城県から上京してきて、最初に小劇場でポツドールという劇団を観たときに、舞台上にこんなに生々しい体が現れるんだと、そのリアルさに衝撃を受けた体験が僕にはありました。同じように、オンライン上の会話だから生まれるリアリティというのも、きっと存在するはずだと思っていて。コミュニケーションの質が変わらざるを得ないときに生まれる、今までとは違うリアリティってなんだろうということを、役者と一緒に考えるのがすごく楽しかったです。


ーー『窓辺』は今後の演劇を考える上で、実験的な場でもあったんですね。


三浦:劇場に戻ったときのために、ちゃんと武器を増やしていきたいなと思っていますし、僕個人としてはこの窓辺シリーズの完結、最終話は舞台でやりたいなと思いますね。


■コロナウイルスを経て変わった創作のビジョン


ーー劇場が再開された場合、どのような形で公演はスタートしていくのでしょうか?


三浦:先日目にしたとあるガイドラインでは、出来る限り稽古も本番中もマスクを着用することが推奨されていましたね。外を歩いているときにちょっと咳き込む音が聞こえるだけで、過敏になってしまう自分もいる。その過敏さは観客も絶対に感じて、ちょっとでも触れ合ったら「今触れた」と敏感に反応してしまう。でも、演劇は触れ合うものだと思っているので、そこをどう作っていくかはすごく考えています。


ーー演劇ビジネスの面では、今後どんな問題点が出てくるのでしょうか?


三浦:ソーシャルディスタンスを確保するために、劇場の50%の客席数を満席とした場合、採算が取れる公演はないと思います。客席は1席ずつ空けて50%の状態にして、あとは映像にして販売して、残りの分をどうやってペイするか。そういう形で回していく劇団が増えていくのかなと思います。


ーー今回のコロナウイルスを経てビジョンは変わりましたか?


三浦:6月に予定していた『ロマンティックコメディ』という作品は、恋愛至上主義の社会から解放した上でもう一度どうやって恋愛を描くかを、なるべくロマコメとして楽しく描きたいなと思っていたんです。そのときにやっぱり性愛というものが入ってくるし、性愛というのは触れ合うことですが、触れ合うこと自体を描くのがすごく難しい。この作品もいつか上演したいですが、そのときはコロナの前に考えていた性愛の描き方も、たぶん意識として変わらざるを得ないんじゃないかなとは思ってます。


ーー三浦さんはドラマなどで映像の作品も手掛けていますが、映像においての変化はどうなっていくと思いますか?


三浦:映像作品は脚本で関わらせてもらっていますが、食事シーンを撮るのが難しいようですね。感染リスクが高まる食事シーンは今後描きづらいかもしれないと言われていたりするので、すごく大変だなと。


ーー自粛生活などコロナウイルスの影響を受けた生活を体験して、作家として今後描いていきたいテーマなどもできたのでしょうか?


三浦:ずっと考えているのは、暴力と眼差しです。演劇って客席から舞台をまなざす、舞台からも客席をまなざすみたいに、眼差しを複数化するものだと思うんです。今、監視や管理が強まっていくのはすごく怖いなと思っているので、そのことはいつかちゃんとテーマにしてみたいなと思っています。


ーー最後に演劇ファンの方に向けてメッセージをお願いします。


三浦:今回のことを通じて1番感じたのは、演劇は観客がいないと成立しないというとても当たり前のことでした。言ってしまえば、俳優がいなくても観客がいれば演劇は成立する。観客がいてくれればなんでも演劇にできるとも言えます。今までたくさん観にきてくださった方たちのことを思い出しながら『窓辺』に取り組んでいるので、また劇場で再会できたときに、そのことをフィードバックして届けられたらいいなと思っています。


(取材=島田怜於/構成=大和田茉椰)