トップへ

『過保護のカホコ』の高畑充希はなぜ愛される? 新たなヒロイン像を生んだ原点を振り返る

2020年06月06日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『過保護のカホコ』(c)日本テレビ

 『過保護のカホコ』特別編が、日本テレビ(関東ローカル)にて放送中だ。遊川和彦の脚本、高畑充希と竹内涼真の初々しい恋愛模様が話題を呼び、未だ根強いファンが多い本作は、高畑の現在の代表作の一つとも言える。『過保護のカホコ』の高畑演じるカホコはなぜこんなにも愛され続けるのだろうか?


参考:ほか場面写真はこちらから


 舞台で培った確かな演技力で、若手女優の中でも演技派として数々の作品を彩ってきた女優・高畑充希。最近では、「変な人三部作」と高畑自身も言う『過保護のカホコ』、『忘却のサチコ』(テレビ東京系)、『同期のサクラ』(日本テレビ系)と、ピュア過ぎて真っすぐな変人役が多く、高畑にしか演じることができない唯一無二の存在感を見せている。そのきっかけとなる役がカホコだ。高畑は2016年にNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で連続ドラマ初主演を務め、大ブレイクを果たし、その翌年に本作で民放連続ドラマ初主演となった。


 駅への送迎や弁当作り、服のコーディネートなど、何から何まで親の庇護のもと、温々と生きてきた奇跡の“純粋培養人間”の女子大生・根本加穂子(カホコ・高畑充希)。そんな史上最強の箱入り娘の前に現れたのが、カホコとは真逆の環境で人生を送ってきた青年・麦野初(竹内涼真)だ。麦野に「お前みたいな過保護が日本をダメにするんだ」と告げられて以降、カホコの「自分探し」が始まり、様々な経験を通して、家族や親戚が抱える問題を次々と解決していくのが本作の主なプロット。


 このドラマの魅力は、何と言ってもカホコの愛くるしいキャラクターだ。猪突猛進型のピュアな性格で、未経験のバイトをさせれば、「カホコ人の幸せのために働きたい!」と最後まで一生懸命にやり通す。冗談で金を要求されれば、真に受けて高額の金を用意するなど、不器用ながらもまるで忠犬ハチ公のような健気さが、視聴者の心を掴んで離さない。カホコは、他人の痛みに敏感でもある。チェリストの従姉妹・糸(久保田紗友)に自分や家族を否定された際にも、それに対し言い返さず、家族に心配させないよう1人悩み苦しむ姿から、単に「天然の子」ではないことに気づかされる。


 そんなカホコの魅力をさらに引き出しているのが、竹内演じる麦野の存在だ。麦野が視聴者目線で、ある種“ボケ”のカホコにツッコミを入れ、バイトなどの試練を与えることで、カホコのピュアさを応援したくなるものに変えていく。一方で、麦野自身が抱える心の痛みは、カホコのピュアさによって癒されていく。そのお互いを補完し合い、徐々に惹かれ合っていく関係性が実に心地良く、カホコの「愛される」力が視聴者にも伝わる。


 そしてもちろん、カホコは高畑の演技力があってこそ成立するキャラクターだ。これまで培った高畑の自然な演技を封印して、何もできないと言うより、何も知らないピュアな女子大生をデフォルメして演じる面白さがコメディとして本作を成立させている。一方で、「なぜ仕事をするのか?」「なぜ結婚するのか?」など、普遍的な社会の疑問をストレートに投げかけ、視聴者の価値観を揺さぶる怖さもある。


 そうしたデフォルメにとどまらず、演技の細やかさも光る。これまで厳しい言葉をかけられたことないカホコが、自分を否定される言葉に、ショックで頭の中が混乱したり、感極まった際に、必死に思いを伝えるときのふと見せる「人間らしい」表情が本作をよりエモーショナルなものにしている。極端な演技だけでなく、人とは違う「間」であったり、会話のズレでその内面を見せるテクニックが求められるカホコ。それを見事に演じ、コメディ的作品である本作を感動へ誘うのは、高畑だからこそできることだろう。後の『忘却のサチコ』や『同期のサクラ』に引き継がれる、新たなヒロイン像を生んだ原点の作品を、この機会に改めて堪能したい。視聴者もきっと愛くるしいカホコの姿に思わず、「過保護」になってしまうはずだ。 (文=本 手)