2020年06月05日 10:11 弁護士ドットコム
仲が悪くても、子どもが成人するまでは離婚せずにいたいと考える夫婦もいる。しかし、離婚しないと決めていても、夫または妻の行動にストレスを抱えている人も少なくない。
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弁護士ドットコムにも、買い物が多い夫に悩んでいるという女性から「今私にできることはありますか」と相談を寄せている。
相談者によると、夫はネット通販を頻繁に利用。食品や生活必需品以外に、衣類やアウトドア用品なども多く注文しており、家計が圧迫されているという。月によっては、利用額が10万円近くになることもあるようだ。
夫婦仲も悪い状態が続いているが、お互いに子どものために離婚しないと決めているという。
実は裁判所には、「夫婦円満調停」という制度がある。相談者のケースでもこの制度を利用することはできるのだろうか。鶴岡大輔弁護士は、次のように説明する。
「夫婦円満調停は、夫婦間の話し合いで問題が解決しないときに、裁判所で調停委員という第三者が間に入って、夫婦間の問題について話し合う制度です。
そのため、相談者のように、夫がお金をたくさん使ってしまって、家計状況が苦しいという状況でも利用できます。
円満調停の意義としては、物理的に話し合いの場所が『家庭内』から『裁判所』という公の場所に移ること、調停委員という第三者の助言があることから、家庭内で話し合うよりも冷静に話し合える、客観性が保てるということにあります。
ただ、話し合う場が裁判所に移るからといって、必ずしも問題が解決するわけではありません。話し合いが平行線を辿ることも多いでしょう。加えて、互いに感情的になると、話が脱線したり、悪口合戦になったりして、本来の問題が解決せず、離婚問題に発展してしまいます。
そのため、相談者が離婚をしないと決めているのであれば、ネット通販の問題だけを話し合うという意識を強く持って、円満調停に臨むといいでしょう。そうすれば冷静な話し合いの場として活用できるのではないかと思います」
相談者は「この状態が続けば、子どもたちが自立後は離婚するかもしれない」といっている。その場合、離婚裁判において、夫のネット通販の利用は相談者に「有利な事情」として考慮されるのだろうか。
鶴岡弁護士によると、ネット通販の過剰利用については、(1)離婚ができるのか、(2)財産分与がどうなるか、(3)慰謝料が認められるのか、の3点が争点になることが予想されるという。
「(1)の離婚は、『婚姻を継続し難い重大な事由』がある場合に認められます。夫がネット通販で月に10万円近く利用していることだけでは『婚姻を継続し難い重大な事由』があると認められるのは難しいでしょう。同居し、それなりに生活が成り立っていれば、裁判で離婚させるほどではないと評価されるからです。
ただし、何度もネット通販の利用を控えてほしいと夫に求めても長期間止めない、収入と比べてネット通販利用料の割合が多すぎる、家計が回らなくなり借金をしている、結果として夫婦仲が非常に険悪になっている、離婚を切り出しても夫が一向に行動を変える気がない、などといった事情が重なれば、『婚姻を継続し難い重大な事由』ありと認められる可能性が出てきます。
(2)財産分与については、裁判所では、夫婦で財産を2分の1ずつ分けるという『2分の1ルール』が厳格に運用されています。
『2分の1ルール』が修正されることは少ないですが、一方の浪費が激しく、収入、家事育児などへの貢献が一切ない場合は、修正される可能性も出てきます。
相談者の場合、夫がネット通販の利用で浪費を繰り返し、借金を作ったり、家事育児だけでなく仕事もしていなかったりするような状態にまでなれば、修正できる可能性があります。
(3)慰謝料は、夫のネット通販の利用が多かったために、相談者が多額の借金をせざるをえなかった、自己破産までした、という事情があれば、認められる可能性があります。
裁判をするのは先になると思いますので、自宅に郵送されてきたクレジットカードの利用履歴や銀行の預金通帳を保管しておくなど、証拠を残しておくことが大切です」
【取材協力弁護士】
鶴岡 大輔(つるおか・だいすけ)弁護士
代表を務める弁護士法人とびら法律事務所は、千葉市にて累計3000件以上の離婚相談を実施。離婚、慰謝料、親権、養育費、面会交流、子の引渡し、婚姻費用など、夫婦親子に関する問題を得意とする。
事務所名:弁護士法人とびら法律事務所
事務所URL:https://www.tobira-rikon.com