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竹内結子と貫地谷しほりが現代の闇に切り込む 『ミス・シャーロック』は映像美にも注目

2020年06月05日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』(c)2018 HJ HOLDINGS, INC & HBO PACIFIC PARTNERS, V.O.F

 「史上最も美しいシャーロック・ホームズ」が帰ってくる。


 2018年にHuluで配信された連続ドラマ『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』第1話・第2話が、6月5日に『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で特別放送される。本作はHuluとHBO Asiaが国際共同製作し、世界19カ国で展開。東京ドラマアウォード2018の衛星・配信ドラマ部門優秀賞やAsian Academy Creative Awards 2018の最優秀作品賞(Best Drama Series)を受賞するなど高い評価を得た。


参考:『シャーロック』最終回に残った“モリアーティ”の謎 原作の『最後の事件』をなぞる形に?


 史上初の女性によるホームズとワトソンを演じるのは、竹内結子と貫地谷しほり。外科医の橘和都(貫地谷しほり)は、とある事件をきっかけに捜査コンサルタントのシャーロック(竹内結子)と同居する。「ある問題から全てのありえない事柄を排除すれば、自ずと真相は見えてくる」が信条のシャーロックは、犯人の裏をかく推理で難事件を解決へと導く。各話のエピソードには原作ファンもうなる通好みの作品をセレクトし、テロやPTSD、犯罪心理学等の現代的なトピックを盛り込んだ。


 ジェレミー・ブレットやロバート・ダウニー・Jr.ら多くの俳優が演じてきたシャーロック・ホームズだが、女性版のホームズはスタイリッシュで美的感覚に秀でた人物として描かれている。出会ったばかりの和都にエルメスのコートを投げつけ、コスメの調合をたしなむなど、変人で天才という典型的な名探偵のフォルムに現代的なひねりが加えられている。犯罪者の心の闇に切り込む鋭利なナイフのようなシャーロックに対して、パートナーの和都は医師らしい温情と共感能力の持ち主。こだわりの強いシャーロックと常識人の和都の対照的なバディには女の友情という側面もあり、ドラマ終盤ではそれが2人の関係に決定的な影響を及ぼす。


 世代を代表する女優2人の共演で注目を集める『ミス・シャーロック』では、脇を固める俳優陣も充実している。捜査一課の警部・礼紋元太郎を演じる滝藤賢一をはじめ、礼紋の部下でシャーロックと犬猿の仲の巡査部長・柴田達也を中村倫也が演じており、シャーロックと和都が住む屋敷221Bのオーナー役で伊藤蘭が出演。各話のゲストも水川あさみや木南晴夏、菊地凛子ら実力派が名を連ねており、『ゲーム・オブ・スローンズ』など大ヒットを手がけたHBOとHuluの本気度を感じさせる。


 名探偵の代名詞になっているシャーロック・ホームズの歴史は、映像作品の歴史とそのまま重なる。映画、ドラマからアニメまで多彩な翻案がなされてきた中でも、『シャーロック』(フジテレビ系)との対比は興味深い。「アントールドストーリーズ」と呼ばれ、原作の本文で言及される“語られざる事件”をモチーフに、ディーン・フジオカと岩田剛典が現代の東京を疾走する同作は、「もしシャーロック・ホームズが生きていたら」という空想を具現化するものだった。


 ディーン演じる誉獅子雄は“ミス・シャーロック”と同じく犯罪捜査専門のコンサルタント。通常人と異なる倫理観を持つがかろうじて犯罪を憎むミス・シャーロックに対して、自身の内なる犯罪衝動を隠さない獅子雄はより犯罪者に親近感を抱いており、その違いがテーマにも反映されている。サイコサスペンスの要素を持つ両作は終盤で根源的な「悪」と対峙するが、エンターテインメントに振り切った『ミス・シャーロック』と最終的に答えを視聴者に委ねた『シャーロック』の違いとも言える。


 以上を抜きにして、竹内・貫地谷による本作がこれまでのホームズ関連作品の中でも圧倒的に華のある作品であることは間違いない。主役2人の演技だけでなく、衣装や室内装飾の映像美も目を楽しませてくれる。名探偵にふさわしいこだわりの詰まった『ミス・シャーロック』をぜひ見届けてほしい。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。