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SNSの誹謗中傷「電話番号も開示対象にすべき」に賛同多数、総務省の有識者会議

2020年06月04日 16:31  弁護士ドットコム

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総務省の有識者会議「発信者情報開示の在り方に関する研究会」第2回会合が6月4日、ウェブ会議で開かれた。


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最初に、電話番号を発信者情報へ追加することについて議論がおこなわれ、構成員からはおおむね賛同が得られた。



発信者情報開示請求権の開示要件である「権利侵害の明白性」については、緩めるのは慎重になるべきだという意見が複数上がった。



今後、誹謗中傷された人が被害回復をしやすい訴訟手続きと発信者の表現の自由や通信の秘密の保護をどのように両立させるかが焦点となる。



●電話番号を開示対象に、賛同あつまる

発信者情報開示の対象となる情報は、プロバイダ責任制限法第4条第1項において「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう」と規定されている。



今の省令で電話番号は開示対象とされていないが、最近はSMS(ショートメッセージサービス)による本人認証や二段階認証などにより、SNS事業者などのコンテンツプロバイダが携帯電話番号を保有するケースが増えている。



電話番号が開示対象に含まれると、弁護士法にもとづく弁護士会照会を使い、事業者に契約者情報を照会できるため、より確実に発信者を特定できることが期待される。



北澤一樹弁護士は「今の制度では、IPアドレスの保存期間のタイムリミットの問題があるが、電話番号が開示対象に入ればこの問題もクリアできる。手続きをスムーズにするために賛成」と述べた。



「他人の電話番号である可能性はないと理解していいのか」(大谷和子氏)との質問に対し、事務局は「SNS事業者の類型を考えると、ユーザー登録時や二段階認証に基づく電話番号の登録は、一般的には本人である蓋然性は高いと考えている」と回答した。



清水陽平弁護士は、賛成の立場から「電話番号を保有しているのは主に海外の企業で、普通の裁判手続だと半年以上かかるリスクがある。電話番号などの開示手続についても、保全の可能性を満たすような手当ができないか検討してもらいたい」と要望した。



議論の中で、電話番号は固定電話も含むのかどうかという指摘が上がり、北條孝佳弁護士は「認証した場合のみという限定が必要。固定電話は適当に他人の番号が書けてしまうためめ、二段階認証時の電話番号とする必要があると思う」と話した。



●2回の裁判、手続きは簡略化できるか

電話番号以外の論点についても、第1回会合を踏まえ事務局が用意した検討課題案を元に、構成員からさまざまな意見が出された。



<開示要件を緩めるかについて>



現在の発信者情報開示請求権の開示要件である「権利侵害の明白性」を緩めるか。



構成員からは「要件は堅持すべきではないか」(大谷氏)、「緩和は慎重に議論しなければならないと思う」(栗田昌裕教授)、「緩和はあまり賛成できない」(上沼紫野弁護士)など、複数の反対の声が上がった。



<制度濫用の危険性について>



発信者情報開示請求の手続きが簡単になることで、悪用される懸念も出ている。



北澤弁護士は「行き過ぎた任意開示を防止するための方策や、発信者情報開示請求権の悪用を防止するための方策は必須」とした上で、「取得した開示情報を悪用されないことをいかに保障するのか。罰則化も一つの選択肢だとは思う」と話した。



上沼弁護士は「乱用の危険性は問題だと思うが、被害者側も被害回復ができない現状もある。そこに焦点を当てすぎず、バランスを取ることが必要」と話した。



<プロバイダの任意開示について>



今の制度では、プロバイダが任意開示することが少なく、裁判を2回おこなわなければならない。



垣内秀介教授は「権利侵害の明白性について、裁判手続き上2回審理しなければならないというのは、当事者の負担となっているが、発信者側の手続き保証の問題もある。1回の手続きで整備されることが望ましい」と話した。



大谷氏は裁判手続きを簡素化すべきだとしつつ、「任意開示を急げというのは本末転倒。プライバシーや通信の秘密の観点から、裁判所の判断を得なければいけない局面は出てくる」と指摘した。



上沼弁護士は「直接の利害関係があるのはコンテンツプロバイダ側なので、仮処分で権利侵害の明白性が甘く判断されることはおかしい。コンテンツプロバイダに関する訴える段階で、本来的には権利侵害の明白性がきちんと判断される立て付けになるべきだと思う」と述べた。



事業者側は、あとから投稿者から責任追及されるリスクを避けるため、投稿者の同意がない限り、裁判手続きによらない「任意開示」に応じないという側面がある。



北澤弁護士は「任意開示の判断基準について、ガイドラインで具体的に示せれば使いやすい制度になると思う」と提案。



若江雅子氏は「アクセスプロバイダの段階では任意開示が少ないかもしれないが、コンテンツプロバイダでは任意開示していると聞いているので、どのような判断でおこなわれているのか確認する必要があるのではないか」と現状把握の必要性を指摘した。



<ログの保存期間について>



保存期間はSNSの場合に使用されることが多い携帯電話では90日程度のため、被害から法的手続きをとるまでに時間がかかると、ログの保存期間が過ぎ、相手を特定できなくなるケースがある。



北澤弁護士は「コンテンツプロバイダに最初に開示請求があった段階で、アクセスプロバイダに対して通信の保存要請をしてもらうことで、仮処分手続きの間にログがなくなることを防げるのではないか」と紛争化しているログについて保存できるような措置を提案した。



<海外送達について>



TwitterやInstagram、Facebookなど主要なSNSは多くが海外事業者であることから、訴状の送達手続きに時間がかかり、被害者の負担となっている。



垣内教授は「送達全般の問題となると、民事訴訟法の改正も視野に入ると思うが、中長期的には考慮に値する問題。ピンポイントで何か措置を講じることも検討に値する」と述べた。



事務局は「現行法上、国内の営業拠点が送達先としてありうるのかは、検討して参りたい」と話した。



●構成員名簿(五十音順・敬称略)

上沼紫野 虎ノ門南法律事務所 弁護士
大谷和子 株式会社日本総合研究所 執行役員 法務部長
垣内秀介 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
北澤一樹 英知法律事務所 弁護士
栗田昌裕 名古屋大学大学院 法学研究科 教授
(座長代理)鎮目征樹 学習院大学 法学部 教授
(座長)曽我部真裕 京都大学大学院 法学研究科 教授
前田健 神戸大学大学院 法学研究科 准教授
丸橋透 明治大学法学部 教授
若江雅子 株式会社読売新聞 東京本社 編集委員



第2回会合には、清水陽平弁護士と北條孝佳弁護士も参加した。