2020年06月04日 10:21 弁護士ドットコム
まだプロ棋士には及ばないと考えられていた囲碁のコンピュータソフトの分野で、2016年、「アルファ碁(AlphaGo)」がいきなり世界トップレベルの棋士に勝利するなど、IT・AI分野の進歩は目覚ましいです。
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急速に進化するIT・AIは、過去に存在した「モノ」の精密な再現も可能にし、実際に文化財のデジタル復元なども行われているようですが、その対象は「物」だけでなく、「者」にまで及んでいるようです。
たとえば、2019年のNHK紅白歌合戦において、1989年に亡くなった歌手の美空ひばりさんの歌声をAIのディープラーニングにより再現したことが話題となりました。
故人の姿や声などは今後ますます洗練された形で再現されていくことが予想されますが、法的にはどんな問題が起こりうるのでしょうか。西川喜裕弁護士に聞いた。
ーー「AI美空ひばり」には様々な意見があったようです
「報道によれば、『AI美空ひばり』については、遺族など関係者の協力を得て製作されたようです。必要な権利処理はされているでしょうから、法的な問題があるとは考えていません。
したがって、AI等の新しい技術を用いて、故人の姿や声を再現する際に問題となりうる法的な問題について、一般論としてお話しします」
ーー故人の再現にはどのような法的問題が考えられますか
「様々な問題がありそうですが、著作権、肖像権、パブリシティ権との関係については検討しておく必要があります」
ーー「著作権」とはどのように関係しますか
「故人を再現するのに、生前の写真、映像、音源などを複製するのであれば、著作権や著作隣接権について検討する必要があります。
この点、故人の写真、映像、音源などをAIがディープラーニングする場合には、権利者の許諾なく、使用することができると考えます(著作権法30条の4)。
ただし、再現した故人に歌唱させる場合には、別途、楽曲や詩の著作権について権利処理は必要です」
ーー「肖像権」や「パブリシティ権」についてはどうでしょうか
「『肖像権』は、本人の許可なく、自分の容姿を撮影等されない権利で、『パブリシティ権』は、有名人の氏名や肖像に顧客誘引力があり、これを第三者に使用させない権利です。
これらは判例によって確立された権利であり、著作権のように法律上定められていないため、権利の及ぶ範囲が必ずしも明らかなわけではありません。もっとも、個人の人格的権利に基づく生前の権利であって、死後は認められないという考え方が一般的です。
死後のパブリシティ権を認めた判例は見受けられませんが、IT・AIで故人の姿や声などが再現されることによる問題が生じてくれば、今後判例によって認められる可能性もゼロではないと思います」
ーー今後の課題や注意点はどうでしょうか
「故人を再現することを良しとしない場合、生前の本人が残した希望を実現できる仕組みが必要なのではないでしょうか。
なお、再現において故人の名誉を害する行為をした場合には、遺族の人格的権利を侵害する可能性があり、注意が必要です。
故人の再現に当たっては、肯定的な意見だけでなく否定的な意見もあることを踏まえ、法的な整理とは別に、遺族・ファンなどへ配慮するとともに、関係者の了解を得ることが最も重要だと思います」
【取材協力弁護士】
西川 喜裕(にしかわ・よしひろ)弁護士
三浦法律事務所パートナー。2013年から2015年まで経済産業省知的財産政策室にて不正競争防止法の改正、営業秘密管理指針の改訂等に従事。特許、商標、意匠、著作権、不正競争防止法など知的財産案件を中心に幅広く取り扱う。
事務所名:三浦法律事務所
事務所URL:https://www.miura-partners.com/