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伊藤健太郎×カンチ、石橋静河×リカの見事なアレンジ 『東京ラブストーリー』平成版との違いは?

2020年06月04日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

FODオリジナルドラマ『東京ラブストーリー』(c)柴門ふみ/小学館 フジテレビジョン

 動画配信サービス「FOD」とAmazon Prime Videoで配信されている伊藤健太郎と石橋静河主演のドラマ『東京ラブストーリー』が6月3日に全11話で最終回を迎えた。1991年にも織田裕二と鈴木保奈美でドラマ化された通称“東ラブ”は、80年代から90年代にかけて一世を風靡した、『同・級・生』『あすなろ白書』(フジテレビ系)など、様々なトレンディドラマの生みの親、柴門ふみの漫画を原作としている。


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 「月曜日の夜9時は、街から女性たちが消えた」というエピソードを持つ恋愛ドラマの金字塔、通称“東ラブ”がリメイクされるということで、製作発表当初からキャストや時代性の反映など、平成版と現代版の違いが注目されていた。今回は29年の時を経て物語がどのようにアップデートされたのか、東ラブの主要人物から考察していきたい。
 まずは、平成版で今や日本を代表する俳優の織田裕二が務めた永尾完治(カンチ)役から。現代版は2019年9月から翌年3月まで放送されたNHK連続テレビ小説『スカーレット』で戸田恵梨香演じる主人公の息子役を務めた伊藤健太郎が起用された。伊藤は、2014年にフジテレビ系ドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』で俳優デビュー(当時は「健太郎」名義)を果たし、その後は『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』『コーヒーが冷めないうちに』など、いずれもヒットした映画に出演。現在再放送中の『アシガール』(NHK総合)や、2018年のドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)で演じたコメディな役柄で注目を集めた。東ラブでは、愛媛から上京したばかりで都会での新生活に戸惑う初々しい役柄を熱演。赤名リカ目線で物語が進行する平成版とは対照的に、現代版は原作同様に完治目線で描かれたこともあり、リカのペースにどんどんと巻き込まれながら成長していく完治の姿が印象的だった。


 物語序盤、リカは和賀部長(眞島秀和)から頼まれて東京本社に配属した完治の面倒を見ることに。そんなリカに完治は敬語を使い、会社そして恋愛の先輩として敬っていた。平成版の完治は最初からリカにフレンドリーで、2人は同志のような関係だったが、年下感のある現代版の完治も女性の視聴者から“可愛い”と評判だったようだ。


 2人が結ばれたばかりの頃こそ、自由奔放で永遠に自分のものにならない相手だと思っていたリカに矢も盾も堪らず、余計な一言でリカを傷つけてしまっていた完治。しかし、徐々にリカの信念や生き方を尊重し、優柔不断な一面はあれど、さとみ(石井杏奈)に心が傾いてからも筋を通そうとした伊藤演じる完治は誰か見ても好青年だった。リカはそんな完治を“白いご飯”みたいだと繰り返し語っていたが、この表現はまだ22歳ながら不良から好青年まで幅広い役柄に馴染む伊藤自身にも当てはまる。東ラブをきっかけにデビュー4年目で大ブレイクした織田と同じく、伊藤の今ままで以上の飛躍を思わずにはいられない。


 そして29年ぶりに織田裕二と共演を果たし、2020年4月からスタートした『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)に出演中の鈴木保奈美からバトンを受け取ったのが、ヒロイン・赤名リカ役を演じる石橋静河だ。俳優の石橋凌と原田美枝子の次女である彼女は、2015年から女優活動をスタートし、舞台や映画に出演。NHK連続テレビ小説 『半分、青い。』では、佐藤健の気が強い妻役を演じて存在感を放った。また数々の受賞歴を持ち、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』では第60回ブルーリボン賞で新人賞を受賞、『きみの鳥はうたえる』でも第28回日本映画批評家大賞で主演女優賞を受賞するなど、その自然体な演技には定評がある。


 今回石橋はプレッシャーの中、周囲に感情を惜しむことなく曝け出す東ラブの象徴、赤名リカ役に体当たりで挑んだ。広告代理店のクリエイティブ部門でバリバリ活躍する現代版のリカ。平成版のリカも帰国子女で優秀な社員だったが、より仕事に対して意欲的で、働く女性が増加してきた時代背景が反映された形となった。


 両者の違いとして際立ったのが、リカの恋愛観だ。平成版では転勤、現代版では転職という形でリカに海外での就業話が持ち上がるところは共通しているが、現代版のリカは完治に相談することなく、自分の意思で渡航を決める。「一番重要なのは、お互いの心がぴったり離れないこと」。距離や一緒にいる時間の長さは愛する2人にとって何も問題ではないと自信を持って、自分がやりたいことに重きを置くリカの言葉は、コロナウイルスの影響による外出自粛で会いたい人に会えなかった視聴者の心に刺さったのではないだろうか。他にも、原作にあった「言えるわけないじゃない、この赤名リカが!」や、「自分が愛してない男と生きるのも自分を愛してない男と生きるのも、私の生き方じゃない」など、リカのプライドが垣間見える台詞が次々と飛び出した。平成版から最もアップデートされた先進的で自立したリカは、自身も15歳でボストンやカルガリーにバレエ留学した経験を持ち、コンテンポラリーダンサーとしても活躍する石橋だからこそ演じられたのではないだろうか。


 また完治とリカの関係に影響を与える、三上健一と関口さとみの存在も見逃せない。三上を演じたのは、NHK連続テレビ小説『なつぞら』をはじめ、さまざま作品で存在感を放つ清原翔が担当。歩くだけで注目され、好きになった女性には積極的にアプローチするモテ男を演じ、毎放送女性の視聴者をドキドキさせた。最終回で高田里穂が演じる尚子の結婚式に乗り込み、手を繋いで花嫁を連れ去る『卒業』(1967年)のような名シーンも話題に。


 そんな三上と付き合っている時に、浮気を疑って三上のスマホを見てしまったり、SNSで尚子の存在を特定する現代的な関口さとみの姿も注目を浴びた。さとみは三上と喧嘩するたびに完治を呼び出して惑わせる、視聴者を悶々とさせてしまう存在で、平成版のさとみを演じた有森也実の事務所には番組終了後に視聴者から脅迫状が届いたという。そんなさとみ役に、現代版はE-girlsのメンバーである石井杏奈が挑んだ。普段はパワフルで本格的なパフォーマンスをステージで披露している石井だが、ドラマの中では表情が一変。完治と三上にとってマドンナ的な存在でありながら影のあるさとみを、憂いを帯びた表情と喋り方で見事演じきった。反感を買いやすい役どころだが、リメイクされたさとみは前よりも親しみやすさがアップしていたように思える。特に恋人に対して疑心暗鬼になり、自分でも嫌になるほど依存してしまう恋愛あるあるには、思わず共感してしまう視聴者もいたのではないだろうか。


 多くの人が携帯やスマホを持つようになったこの時代に完治とリカはすれ違えるのか、という疑問が挙がっていた現代版。その壁を逆手に取り、現代版はいつでも離れた人と繋がれるからこそ、“心”がすれ違ってしまう可能性を提示してくれた。ただし時代は移り変わっても、恋する人たちの葛藤や喜びは変わらない。『東京ラブストーリー』現代版はただのリメイクではなく、時代性の反映と都会的な演出、若者のセンスに刺さる主題歌「灯火」(Vaundy)の起用によって、幅広い年齢層の視聴者から反響を呼ぶドラマとなった。(苫とり子)