2020年06月01日 10:31 弁護士ドットコム
「コロナの感染リスク以上に、自宅以外の居場所を失って命を落としてしまう子もいるんです」。コロナによって、こども食堂の活動が見直されている。感染防止で「食べる場所」としての機能は休止していたが、食料や弁当を配布する「フードパントリー」の活動で存在感を示してきた。コロナ禍のこども食堂の課題は何か。(編集部・塚田賢慎)
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3月に入って、小中学校等の休校によって給食がなくなった。様々な事情で「給食がなくなると困る」という家庭の受け皿になったのが、こども食堂だった。
NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」のアンケート(35都道府県231団体のこども食堂が4月13日~17日回答)によると、4月段階でも「通常通り開催(通常よりも多く開催)」している食堂(10%)と、食材・食事の受け渡しや配達をする「フードパントリー」として活動継続している食堂(46.3%)を合わせて、全体の約56%が支援を続けていることがわかった。
「こども食堂も悩んで悩んで、それでも過半数が動き続けてくれました」
むすびえの統括マネージャー三島理恵さんは「自粛の空気のなか、食堂のボランティアも『やるべき』『閉鎖すべき』と意見が割れました。運営側も応援者も『安心安全のためには、やらない選択肢が正しい』とは理解していながら、それでも地域のためにやめられない実態があります」と話す。
感染リスクを感じながら運営を続けていくには苦労もある。調査には、「ボランティアには高齢者も多い。感染には不安がある」「食材不足、資金不足」「活動場所がない」という現場の悩みが寄せられた。
「一度に50人にカレーを作ってふるまうのと、50人分の食材を各自に渡すのでは、倍以上のコストがかかります。公的施設の休業にともなって、会場に公民館などを利用していた食堂も活動できなくなりました」(三島さん)
現場からの求めに、資金面でなんとかできることを解決しようと、むすびえでも食材提供・寄付を募ることにした。助成金制度「むすびえ・こども食堂基金」を立ち上げたほか、いまもクラウドファンディングで活動支援資金を募っている。
食材だけでなく、消毒用アルコール液や、弁当の容器などの物資も不足している。
国や自治体からの資金的な援助も必要だ。熊本県など、子ども食堂に助成金を支給する自治体もあるが、まだ十分ではない。ただし、自治体と地域のこども食堂の連携が生まれたことは成果だという。
「助けを求めてきた家庭を自治体からこども食堂に紹介する流れもできました。自治体と食堂の情報提供がスムーズに回れば、補助金や助成金の具体的な支援メニューにまで話が進みやすい」
宣言は解除されたが、収入減で助けが必要な家庭がなくなるわけではない。継続的な活動が求められている。
こども食堂のコロナ禍での活動が国から認められる出来事が最近あった。
5月26日、これまで学校給食などに限られていた政府備蓄米の無償提供の対象として、子ども食堂やフードバンク(寄付された食材を支援団体に届ける活動、または組織)も選ばれたのだ。
農水省は「学校が休校を余儀なくされる中、⼦ども⾷堂等における⾷事の提供が学校給食の補完機能を果たすなど、あらためてその役割が再認識された」とし、食育の一環として1施設につき年60キロまでの玄米を提供することを決めた。
三島さんは「素晴らしいことだと思っています。ただし。今回の備蓄米は、こども食堂とフードバンクは対象になるけど、フードパントリーは対象にならないんです」と説明する。
備蓄米で作った食事を、その場で食べることはできるが、備蓄米で作ったお弁当を配ったり、調理前の備蓄米をそのまま配布することはできない。
「緊急事態宣言が解除されて間もない時期ですので、ほとんどの食堂では『会食』への懸念もまだ拭えず、食材配布や宅食になっているのは先ほどもお話しした通りです。食材使途を限定するのは現場の実態にふさわしくないと思います」
提供の上限が玄米60キロにされているのも、不十分なところがあるという。「60キロですと、ほとんど回数を持たずに消費される量だと思います。すでに持ち出しがかさむ団体もあり、もっとたくさんの量のご支援が届くとうれしいです。
農水省の『食育』の観点も大切ですが、まずは食糧支援として実施していただければと思います」
そのような運用になった理由について、農水省の穀物課は「食育の一環として、共食していただき、その場でご飯食のおいしさや、食育の大切さを伝えること」が目的のため、「食材としてのお米を配ることはできない」と説明した。
また、提供対象はフードバンクも含まれるが、「フードバンクであっても、こども食堂と同じようにご飯食を提供するところがありますので、そういう施設であれば交付いたします」ということだ。
運用の変更や、提供量の変更への検討については「現時点ではなんとも言えません」とした。
宣言が解除されても、「前と同じ生活」に戻るわけでない。「新しい生活様式」に応じた子ども食堂を作り直す必要がある。
そんななかで、2月末にも取材した「まいにち子ども食堂高島平」(東京都板橋区)では宣言解除後の5月26日に食堂としての機能を再開した。それまでは弁当の配布を行なってきた。
運営する「NPO法人ワンダフルキッズ」の理事長・六郷伸司さんは「それまでは弁当の配布や、近所の家庭には届けに行っていた。うちに対して批判的な声はなく、よくやってくれていると言ってもらっていました」と話す。
「家庭の事情で自宅にいられない子もいる。コロナのリスク以上に、居場所を失って命を落としてしまう子もいるんです。なので、私も大変悩みましたが、続けることにしました。そういう恐れのある小学校高学年の子が、弁当をほぼ毎日取りに来てくれて、晴れている日は食堂近くの公園で食べていました」
多くの食材の寄付が届いた。大手チェーン、小さな個人経営を問わず活動自粛のしわ寄せを受けた居酒屋から食材の提供があった。
「うちはもう商売できないから。店を畳む。これが全部です」と言って、大量の食材を置いていった居酒屋の経営者もいたそうだ。「いつもは寄付を受けるとうれしい気持ちになりますが、このときばかりはありがたいし切ない気持ちになりました」
また、コロナで多くの批判を浴びたパチンコ屋からも景品のお菓子やジュースなどを受けとった。「そのパチンコ屋さんは自粛を守っていました」
今後は「新しい生活様式」に対応していく必要がある。正直、3密で守れるのは「換気だけ」と話す。マンションの1部屋を借りて運営中だが、さらに部屋を借りようと考えている。「今のままでは人数制限しなければいけません。ご飯を食べる場所と、遊ぶための場所を分けるため、部屋を借りるための資金が必要です」
寄付や善意だけでは、ウィズコロナのこども食堂の運営は難しい。新たな課題に国や自治体も手を差し伸べるべきだ。