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ずとまよ、Eve、天月、まふまふ……コロナ禍におけるネット発アーティストの動向は? 視聴者との結束を高める発信方法

2020年05月30日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Eve『Smile』(通常盤)

 コロナ禍の今、ライブハウスや屋外におけるライブの中止や延期が相次ぎ、様々なアーティストがその代替策として、YouTubeをはじめとした動画共有サービスを利用した配信をするようになった。メジャーシーンで活躍するアーティストが、ネットへと活動の場を広げ、プライベート空間を映しながらおこなう配信は、エポックメイキングなものとして光が当たりやすい。一方で、もともと、主にネットを通じて楽曲や配信を公開することに長けているネット発アーティストによる配信は、その性質上、プライベート空間を公開しないことも多く、インパクトは僅かな程度にとどまりがち。それでも、ネット発アーティストによる数々の配信に共通しているのは、彼らならではの方法で視聴者を楽しませようと試みていること。そこで、本稿では、4月7日に緊急事態宣言が発動されて以来、ネット発アーティストが配信してきた内容をもとに、ネットシーンの魅力の深淵に迫ることとしたい。


(関連:Eve「いのちの食べ方」MV


●別の視点に目を向けた上サプライズ感のある演出
 とりわけ、実験的な演出で話題を呼んだのが、ずっと真夜中でいいのに。が、開催を延期したクリーニングライブ『定期連絡の業務』公演の2日目にあたる5月6日に配信したYouTube Live『お風呂場ライブ 定期連絡の業務』。タイトル通り、フロントマンであるACAねが、自身の浴室からMC含め約25分程度に渡って届けた同配信をポップに彩ったのは、ACAねの姿そのものではなく、これまでのMVではお馴染みのキャラクターが出演するアニメーション。その中から、ACAねによるエモーショナルな歌声とツインピアノの音色が織り成す歌世界が飛び出してきたのだった。ACAねと同様に、素顔を公開する習慣のないネット発アーティストによる配信は、依然として、アニメーションを徹底したものが多く、プライベート空間に欠けるところがあるのは、否めない。しかし、今回、ACAねが、部屋でも外でもない浴室をライブステージに選んだことから、生のライブで披露するのに近い歌声を実現したように、別の視点に目を向けた上で、サプライズ感のある演出を施すネット発アーティストは、少なくないのだ。


 ずっと真夜中でいいのに。のほかに、生のライブへと気持ちを寄せたのが、Eveといえる。自身の誕生日の5月23日、横浜ぴあアリーナMMで開催する予定だった初のアリーナワンマンライブ『Eve LIVE Smile』が見合わせとなってから、5月1日に、EveのスタッフがTwitterのEve公式アカウントにて、「Smileに『いのちの食べ方』という楽曲がありますが、LINE MUSICのBGMに設定して待っていて下さい。(中略)ライブが無くなってしまったのは大変残念ですが、次に進みます」と投稿(参照:https://twitter.com/nonsense_eye/status/1256165011438751744?lang=ja)。それからLINE MUSICを通して、Eveと視聴者が、「いのちの食べ方」を共有するムーブメントが起きると、22日には、Eveが、とっておきのプレゼントを贈るようにして、公式YouTubeチャンネルで「いのちの食べ方」のリアレンジver.となるミュージックビデオを公開した。音源に新味が加わった楽曲を公開するまでの間に、視聴者と1曲を通じて心をひとつにする流れを作ったことは、生のライブで体感できる楽曲の共有に少なからず、重なり合う。


●結束感を生み出す配信を通じたコミュニケーション
 TwitCasting(通称:ツイキャス)を中心として、コメント機能が搭載され、リアルタイムで配信ができるサービスは、アーティストと視聴者が別々の場所に居ても、双方向のコミュニケーションを取ることを可能とするものとして、これまで多くのネット発アーティストが用いてきた。彼らと視聴者が、フラットな関係性を構築できているのは、生のライブ以上に配信を通じた地道なコミュニケーションを積み重ねてきたことにある。それは、天月-あまつき-が、開催を延期した『天月-あまつき-10th Anniversary Live Final!!~Love&Pop/Rock&Cool~』公演の1日目にあたる4月28日に配信した『天月-あまつき-スペシャルミニライブ!~おうちにいようよ~』でも顕著に表れていた。同配信では、バンドメンバーが自宅、天月-あまつき-がスタジオから出演し、5曲を生披露。MC中、天月-あまつき-は、目の前にあるスクリーンに映ったコメントを拾う中で、リラックスした会話を繰り広げていた。また、天月-あまつき-と親交の深いまふまふも、5月15日に『【カメラ枠】まふまふと飲み会生放送【まふまふの生放送#10】』を放送。自身の作業部屋にて、スタッフの用意したお題に解答しつつも、コメントに目を配る彼は、ひとりで居るとは思えない程のはつらつとした姿を見せていた。ライブとは感覚的には異なるものの、アーティストと視聴者の間にコメントを挟むことで、見えない壁が完全に無くなる配信にあるのは、生のライブに似た結束感だ。


 このように、以前からネットシーンでは、互いが常に画面越しに存在する中でも、確かな繋がりを求める配信が、幾度となく生まれてきた。先鋭的ともいえるネット発アーティストの動向は、暗雲が漂い始めたリアルな今を乗り越えていくための微かなヒントをくれることとなるだろう。(小町碧音)