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恋愛リアリティ番組の“誹謗中傷問題”にどう向き合うべきか 木村花さん逝去と『テラハ』制作中止を機に考える

2020年05月29日 07:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 5月23日、女子プロレス団体「スターダム」に所属するプロレスラー・木村花選手の逝去が公式ホームページで発表され、国内外から悲しみの声が寄せられた。


(参考:『バチェラー』の熱狂を生んだSNSの功罪 危うくも魅力的なシーズン3を振り返る


 木村花選手は、現在Netflix等で配信中の人気恋愛リアリティ番組『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演中で、視聴者からのSNS中傷に心を痛めていたことが、自身のInstagramやTwitterの書き込みからも伺える状態だった。それもあって、現在ネット上では様々な議論が巻き起こっている。


 恋愛リアリティ番組は『ねるとん紅鯨団』や『未来日記』など、古くから存在するジャンルだ。そして、番組内において「やらせ」などの倫理観については幾度どとなく議論となり、90年代末にフジテレビ系列で放送されていた『愛する二人別れる二人』は、出演者の女性が死去。その際に「やらせ」を告発する遺書を残していたことから、社会問題に発展し、番組終了に至った。


 かつてはテレビのものであった恋愛リアリティ番組だが、2010年代に入ると、ネット配信とSNSの共鳴とも呼べる形で人気を獲得していく。Netflixは『あいのり』、『TERRACE HOUSE』といった、フジテレビの人気恋愛リアリティ番組の新作を、Amazonは海外の人気恋愛リアリティ番組『バチェラー』の日本ローカライズ版『バチェラー・ジャパン』、『バチェロレッテ・ジャパン』を、AbemaTVは人狼ゲームと恋愛リアリティ番組を融合させたオリジナル番組『オオカミくんには騙されない』が大ヒット、他にも数多の恋愛リアリティ番組を配信している。もはやネット動画配信サービスにおいて、恋愛リアリティ番組は欠かすことのできないドル箱コンテンツなのだ。


 昨年、筆者は恋愛リアリティ参加者に対して、エスカレートしていくSNSバッシングに対して、警告をならす記事を本サイトに寄稿した。そちらの記事でも触れたように、「バチェラー3」のバチェラー・友永真也氏が、番組終了後即座に、エンディングで選んだ女性と別の参加者と交際していたことが発覚。SNS上でバッシングの嵐が巻き起こった(その後、ふたりはカップルユーチューバーとしてYouTubeチャンネルを開設しているのも、タフというか……)。


 また、今年4月には、AbemaTVの『今日、好きになりました ハワイ編』で誕生した現役高校生カップルが、結婚と妊娠を発表。10代、しかも女性側は16歳での妊娠ということで、SNS上では大きな反響があり、その中にはネガティヴなものも少なくはなかった。


 昨年の「2019年恋愛リアリティーショー座談会」でも述べたように、この流れは加速してしまうことを懸念する一方で、「楽しんでいる」自分がいたことは否定できない。また、これらの番組に関する記事はメディアの需要も高く、「仕事のため」に見ることも少なからずあった。そういう意味では、出演者の人格レベルに踏み込んで「考察」していたメディアや我々書き手たちも、「外野」ではない。


 恋愛リアリティ番組は、出演者にとってはある種の「登竜門」的な役割を果たす。人気番組には駆け出しの俳優、ミュージシャン、モデルが参加し、その後大きく飛躍した者も少なくはない。木村花選手も、新住人インタビュー動画内で、参加理由をたずねられると、「女子プロレスを広めたいから」と笑顔で語っていた。


 そして当然ながら出演によってSNSのフォロワーも大きく伸びる。とくに人気番組である『TERRACE HOUSE』参加前と後では、フォロワーが数万人、いや十万人単位で増加するケースも見られた。それは出演者にとってプラスにもなることだが、その重圧を「個人」で受け止めることになる。


 彼女のSNSのフォロワーも、番組参加後みるみる増加。番組内で不器用ながらひたむきに恋をする姿は、話題の的にもなった。そして、その風向きが大きく変わったのは、他のメンバーが彼女の衣装を破損させてしまい、それを激しく詰問するエピソードが配信されてからだとされる。そのタイミングで、新型コロナウイルスで撮影が滞ったため、配信が止まったのも良くなかった。彼女のSNSには誹謗中傷が殺到した。


 事件の理由は当事者以外は知る由もない。ただ、くりかえすが、SNSに残された書き込みから、中傷が大きな負担になっていたことが伺えるのでは……という憶測しかできない。


 また、同じく『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』出演中の“社長”こと新野俊幸氏も、過剰なボディタッチや強引にキスを迫る様子から視聴者からSNS上で大きな批判を浴びており、中には批判のレベルを越えた、人格否定のような中傷も続いていた。


 そんな現状を止めるにはどうしたらいいのか。極論をいえば、ただ見ているだけの視聴者も含めて、全員加担していたかもしれない。そこに加えて、「番組や視聴者を批判している者」も、恋愛リアリティ番組の参加者として取り込まれてしまうのが、SNSの厄介なところだ。ただ、「全員悪い、反省しましょう」では、今後の問題解決の糸口にもならないと筆者は考える(当然ながら、具体的な中傷経験に心当たりのある者は、反省していただきたいし、度合いによっては法による然るべき対処が行われてほしい)。


 この件を受けて、にわかに「ネット中傷への法整備」の議論も盛り上がっている。


 筆者も十年くらい前にネット中傷で警察や弁護士へ相談に行った経験がある(自分ごとではないのだが)。しかしながらかなり悪質な中傷や個人情報がさらされていても、「表現の自由」を理由に、思うような結果を得ることができなかった。そして、当時の警察や弁護士のネット知識が曖昧だったことも印象に残っている(「学校裏サイト」すら知らないケースもあったのは流石に驚いたが)。


 当時の自分たちとしては納得いかなかったが、たしかに「表現の自由」や、「通信の秘密」は安易に手を加えてよいものではない。それに、これはあくまで体感的な話だが、十年前よりはネット中傷に強い弁護士も増えているように思うし、現行法で対応できるものも少なくないはずだ。この件から法整備をとなえる政治家の声もみられるが、国家検閲にも発展しかねないため、慎重な議論を重ねて欲しい。


 恋愛リアリティ番組と、SNSと相性がいい。しかしながら、少しでも風向きが変われば、それが諸刃の剣となる。しかも直接的なバッシングが、番組ではなく出演者に寄せられてしまう。今回は『TERRACE HOUSE』だったが、どの番組でも起こりうるリスクだ。いち視聴者から見る限り、SNSまわりの対策はどの番組でも、あまりとられていないように感じる(『TERRACE HOUSE』に関しては、新型コロナウイルス問題で撮影が中断するなど、スタッフ間でも予想外のことが続き、さまざまなことが手薄になっていたのかもしれない)。


 リアリティ番組は、多少の演出はあるにせよ、番組内容と出演者の「リアル」は地続きであることは動かせない。番組の造り手には、どうか出演者を守る方法を模索してほしい。


 そして、「観ているだけ」だった私たちには、ただ「反省」をSNS上で表明すればよいのだろうか。これまで楽しんでいた自分たちの「うしろめたさ」は、それで洗い流せるかもしれない。それでも私たちの「欲望」そのものは消えることはなし、「自分は冷静に見ている、自分の欲望だけは別」と線引きするのも傲慢だ(繰り返すが、当然メディアも例外ではない)。


 「恋愛リアリティ番組」がなくなったとて、生身の人間をキャラクターとして扱うエンターテイメントが存在し、SNSやインターネットを通して直接悪意をぶつける構造が続くのであれば、ユーチューバーやインフルエンサーが的となるだけだ(現にプライバシーを侵害される人気YouTuberは多い)。激増している芸能人YouTubeチャンネルも、今後さらに競争過多になれば、視聴者の望むままに私生活を晒す者が出てくる可能性もはらんでいる。


 とはいえ、この構造から降りることも難しい。『TERRACE HOUSE』の制作中止が発表されたが、夏にはアマゾンプライム・ビデオの『バチェロレッテ・ジャパン』の配信が決定しているし、AbemaTVの恋愛リアリティ番組の新作だって把握できないほど配信されている。今も世界中で作られている恋愛リアリティ番組が、「全て終了する」ことは現実的ではないだろう。


 私たちは「おかしい」と感じたことに対して、制作側に疑問を呈するなど、地道な議論を重ねていくしかないのだ。


(藤谷千明)