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「24H労働、手取り月10万円」住み込みの“名ばかり支配人”、スーパーホテルを提訴

2020年05月28日 18:11  弁護士ドットコム

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女性は涙ながらに「被害者がたくさんいると思います。声をあげたことをきっかけに、被害を受けたかたがたも声をあげられたら」と語った。


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全国で130店舗以上を展開するビジネスホテルチェーン「スーパーホテル」(本社:大阪府大阪市)の支配人だった男女が、未払いの残業代など計約6200万円を求め、5月28日、東京地裁に提訴した。



同ホテルの「支配人」「副支配人」の多くが業務委託契約で働いているが、その実態は「裁量の全くない24時間365日働かせ放題の奴隷労働」だと主張する。



●そこに「ドリーム」はなかった

賃金の支払いと契約解除の無効を求めて裁判を起こしたのは、「スーパーホテルJR上野入谷口」で支配人として勤めていた男性Sさんと、副支配人だった女性渡邉亜佐美さん。



2018年9月19日から2人で年間約1000万円(2年目からは約1200万円)の委託料で業務委託契約を結び、2020年3月24日に同社から追い出されるまでホテルを運営してきた。9月まで契約が残る中、4月15日に契約を一方的に解除された。



同社のウェブサイトには、「例えば、4年間お二人で3,250万円以上の報酬が手に入る!」などとして、同居住み込みで働ける男女を募集している。Sさんらも、このプロジェクト「Super Dream Project」にひかれて働くことになったが、実態は全く異なるものだった。



アルバイトを雇う人件費なども引かれると、月の手取りは1人あたりわずか10万円程度。本部の支配人代行サービスの利用には1日3万円かかるため、休みたくてもおちおち休めない。「事実上24時間業務」に追われているという。



渡邉さんらは2020年1月に首都圏青年ユニオンに加盟し、自分たちが労働者であることを認めさせ、働き方の改善を求めて交渉を続けてきた。しかし、同社がそれを認めることはなく、そればかりか、業績悪化等を理由として契約解除を通告してきた。



4月10日には上野労働基準監督署に未払い残業代の発生などを申告している。現在も調査中であるが、同社の対応に変化がないため、今回の提訴に踏み切ることとした。



●業務委託契約は名ばかり

業務委託契約であっても、2人に労働基準法上の労働者性が認められるかどうかが裁判の争点となる。



あらゆる業務内容は1400ページにも及ぶマニュアルで規定されていた。また、ホテル内の居住スペースには、フロントの監視カメラの映像が常時流れており、緊急時対応用の電話がある。これによって、客のトラブルなどにいつでも対応して出動しなければならなかった。



Sさんらが暮らしていた部屋は、フロントまでの移動に10秒しかかからない。心休まることがなかったため、耳鳴りや動悸がひどく、「頭痛によって精神病院に救急搬送され、緊急入院した。過労は死に至ると実感した」と話す。



住民票をホテルに移すという契約条件もあった。時間、場所ともに職場に拘束される状況から、代理人弁護士らは「労基法上の労働者性が認められることが明白だと思う」と主張する。



●暴行罪で告訴も

今年3月24日、渡邉さんが1人で勤務している際に、社員らによって職場兼住居であるホテルから無理やり追い出された(4月10日に暴行罪で刑事告訴)。



渡邉さんは「3月24日に起きたことは今でも覚えています」と涙で嗚咽まじりに「副社長を務める男性らがホテルに押し入り、私を事務所まで高圧的に追いやりました」と話した。



その様子をうつした映像も残されている。「やめてください」「無理やり事務所に入ろうとしています。男5~6人です」などSさんが通報する生々しい様子が会見で紹介された。



●全国の支配人からも悲鳴

ユニオンには全国のスーパーホテルの支配人らから同様の相談が寄せられているという。 執行委員長の原田仁希氏は「偽装業務委託契約での働かせ放題が社会に広がることは問題。政府は雇用によらない働き方を推奨しているが、こんな内実では崩壊してしまう」と話した。



●スーパーホテルのコメント

会見後の14時ごろ、編集部は株式会社スーパーホテルにコメントを求めた。担当者からの折り返しを待っている。



5月29日午前、株式会社スーパーホテルは「訴状が届いていないので、現段階ではコメントを差し控えさせていただきます」と編集部の取材に回答した。(5月29日午前11時25分追記)