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花嫁いまも納得できず 結婚式キャンセル料に不満「コロナ防止のため。自己都合じゃない」

2020年05月26日 10:11  弁護士ドットコム

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「私たちにとっては『自己都合』じゃありません。感染拡大防止のための中止です」。新型コロナウイルスの感染拡大により、結婚式の延期・キャンセルを決めた新郎新婦が式場から請求されたキャンセル料金に頭を悩ませています。


【関連記事:花嫁に水ぶっかけ、「きれいじゃねえ」と暴言…結婚式ぶち壊しの招待客に慰謝料請求したい!】



緊急事態宣言発令の約10日前、3月末日に挙式予定だった花嫁は、現在も式場との間でキャンセル料金について交渉を続けています。感染リスクを考慮したキャンセルでも、「自己都合」とされてしまうのでしょうか。



(こちらは2部構成の記事です。前編は新婦インタビュー。後編は弁護士による詳しい解説を掲載しています)



●30代女性の場合

都内に住む30代女性Aさんは、東京・南青山の式場で3月末日に挙げる予定だった結婚式を中止した。すでに2019年7月、契約した日に予約金として10万円を式場に支払っていた。



式場と交わした契約書には、このように書かれている。



「ご予約頂いたご婚礼をご契約者の都合でキャンセルまたは日程の変更をされる場合は、それぞれ下記のとおりキャンセル料・日程変更料を申し受けますので、あらかじめご了承ください」



ただし、Aさんは「契約者都合のキャンセルではない」と一貫して主張している。



●最初の話し合い。式場対応に愕然

感染報道が盛んになるにつれ、ゲストからも開催を不安がる声が寄せられるように。3月上旬、延期・中止の可能性も含めた式場との打ち合わせを初めておこなった。



キャンセルした場合、中止だと約61万円(見積金額の30%)、延期だと「日程変更料」として30万円かかると告げられた。



だが、まだ注文していない「料理代」「花代」「ドレスのレンタル代」なども見積もりの項目に含まれたままでAさんは不満を持っていた。





●どんな対策をしてくれるのですか? 式場のコロナ対応にア然

この時点ではまだ予定通りの開催も見据えていたが、式場のコロナ対策はAさんにとっては満足いくものではなかったようだ。



「空気清浄機8台とアルコール消毒を設置する」 「予定していたデザートビュッフェはテーブルに届けることにする」



この対策に不安を感じて欠席を告げてきたゲストがいただけでなく、東北に住むAさんの母親からも「そんな危険な場所には行けない。ばあちゃん(80歳になるAさんの祖母)も連れていけない」と言われてしまった。



●各地で相次ぐ感染情報

そんな中、感染者数は増加の一途をたどる。「でも、多くのゲストが暮らす東北ではまだ感染者は少なかったんです。東京に呼んで、万が一のことがあれば…。悩みに悩みました」



開催予定日10日前の3月19日、式場の対応について改めて確認するとともに、「実行しても、安全を保証できるのですか? 式場のスタッフだけでも簡易PCR検査を受けてくれませんか」と思いをぶつけてみたが、



「インフルエンザや食中毒と同様に安全の保証は100%出来ない」「PCR検査も費用がかかるためにできない」



など、夫婦の不安を解消できる答えは返ってこなかった。



「式場側から延期や中止を持ちかけると、新郎新婦の自己都合キャンセルに出来ないから絶対口にしません。私たちが式を中止することで、式場から感染者を出さずに済むし、感染拡大のリスクを減少させています。



自己都合ではなく、感染拡大防止のための中止なので、キャンセル料の負担は痛み分けにしてほしいと伝えました」(Aさん)



その要求は通らず、「料理代」なども含んだ約61万円のキャンセル料金が請求された。





●減額交渉の始まり

2度の減額交渉によって約56万円までキャンセル料金は下がったが、プランナーからは「これ以降の金額についての問い合わせは私の手を離れ、弁護士を挟んでの話となってくる」とメールを受けた。



Aさん夫婦が求めるのはいくらの減額なのだろうか。この点、夫婦でも考えは異なる。夫は「式場に与えた損害はない。招待状も外注だった。2人で参加した1万2000円の試食会の費用だけは払うべきだ」として、キャンセル料金はほぼ「ゼロ」と考えている。



Aさんはキャンセル料金よりも、謝罪を求めている。「人を大切にするという理念を掲げる式場だから選んだのに、『危険だから延期をしましょう』と提案もされず、裏切られました。謝ってほしいけど、謝罪のほうが難しいと思うので、1円でも減額して態度を見せてほしい」







コロナ禍がなければ、今ごろは楽しい新婚生活を送っていたであろう2人。不満があるのは理解できる。



一方で、ウェディング業界もこのコロナ禍で窮地におちいっている。すでに倒産した企業もあり、気を利かせて無料にできるほどの余裕もないはずだ。



●緊急事態宣言を受けて式場は休業した

政府から緊急事態宣言が出た直後の4月8日になって、式場が営業自粛を始めた。さらに、4月17日には宣言が全国に拡大したことを受けて、系列の式場が5月末までの営業中止をサイトで発表した。



減額請求の過程で、Aさん夫婦は運営会社や式場とメールで複数回やりとりしている。式場の責任者から得られた緊急事態宣言の以前以後の方針はこうだ。



・緊急事態宣言発令前の方針 「予防策を講じた上で営業準備を整えて、実施を希望する新郎新婦の婚礼を実施する。延期・キャンセルをご希望のお客様と話をして対応する形をとっていた」



・緊急事態宣言後の方針 「緊急事態宣言(法的な要素も含む発令)を受け、それまでと同様の営業はできないと企業として決議を行い判断の上、自粛営業に変更することになった」



●SNSでつながった悩める花嫁

Aさんは同じ系列の式場で挙式予定だった花嫁たちとSNSでつながった。金額に幅はあるものの、同じようにキャンセル料金の対応で悩んでいた。なかには100万円を超える請求を受けた新郎新婦もいたという。



つながった新婦から「キャンセル料金に消費税はかからないはずだ」という情報ももたらされた。



「私たちも『消費税をかけないでキャンセル料金を計算してください』と式場に求めてきましたが、要領を得ない回答に終始しています。ですが、消費税の問題は多くの新郎新婦が気になっています」(Aさん)



今も交渉は続いている。



●弁護士回答

消費者問題に詳しい金田万作弁護士によると、緊急事態宣言後であれば、キャンセル料金がかからない可能性が高いという。



一方、今回のような宣言前であれば、結婚式の規模や内容によっては、「開催の余地がある」と考えられ、ケースバイケースだそうだ。



なお、キャンセル料には消費税はかからないと考えられる。損害賠償金に消費税はかからないからだ。



後編ではこれらについて詳説する。



取材協力:ウェディングニュース




【取材協力弁護士】
金田 万作(かなだ・まんさく)弁護士
第二東京弁護士会消費者問題対策委員会(電子情報部会・金融部会)に所属。複数の消費者問題に関する弁護団・研究会に参加。ベネッセの情報漏えい事件では自ら原告となり訴訟提起するとともに弁護団も結成している。
事務所名:笠井・金田法律事務所
事務所URL:http://kasai-law.com