2020年05月25日 11:42 弁護士ドットコム
きょうにも緊急事態宣言が全面的に解除されると報じられている。
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こうした状況のもと、慶応大学の竹森俊平教授(国際経済学)が提唱する「国内パスポート」が話題になった。
5月20日の衆院予算委員会では、緊急事態宣言解除後の経済活動について、専門家への質疑がおこなわれた。この中で、竹森教授は次のような持論を展開した。
「環境が打撃を受けている。感染が広がるから、県をまたいで人が動くことを抑えているのを解除すれば、需要はあると思う。問題は、その安全性をどうやって宣言するか。一種の『パスポート』を考えていて、まず『国内パスポート』、『手形』みたいなものをどう作るのか、というのがひとつ」
要するに、新型コロナ感染拡大の防止と経済活動の両立をいかに図っていくか、という観点からのアイデアだ。
この「国内パスポート」をめぐって、ネット上では、映画『翔んで埼玉』のようだと広がった。埼玉県民が東京都に入るためには「通行手形」が必要になるという設定の作品だったからだ。
実際に、「国内パスポート」や「通行手形」がないと、県をまたいでの移動ができない、というような規制は、法的に問題ないのだろうか。作花知志弁護士に聞いた。
憲法は「何人も、公共の福祉に反しない限り、移転の自由を有する」と規定しています(22条1項)。
「移転の自由」は、人の自由な移転を保障することで、自由な労働者を形成し、その結果近代資本主義社会が成立する前提となりました。その意味で、「経済的自由」の側面を有します。
さらに近ごろでは、人が移転することで、人格が形成されたり、新しい表現が生まれたりするなど、「精神的自由」の側面があることが注目されるようになりました。いわば複合的な権利といえます。
ただし、「移転の自由」が、基本的人権として保障されるとしても、それは無制限なものではないとされています。
新型コロナウイルスの感染拡大予防という目的の下で、人の「移転の自由」が制限されるような法律が制定された場合、それでも「移転の自由」が基本的人権である以上、必要な限度を超えて制限してはなりません。
今回の「国内パスポート」も、移転の必要性と移転をおこなっても安全である保障がある場合に、例外的に制限下の中で移転を認める措置、という位置づけで言われているのだと思います。
そうであれば、その目的が憲法の容認する正当なものかという違憲審査とともに、仮に目的が正当であるとされたとしても、手段として、「移転の自由」が全面的に制限されるのか、それとも例外的には「国内パスポート」による移転という手段が設けられているのかで、違憲審査の結論は変わってくる可能性があると思います。
そして、その結論は、制度が法律で実施されるのか、今回のような事実上の宣言と措置でおこなわれるのか、その中で「国内パスポート」制度がどのように位置づけられるのかによっても、評価は変わってくると思います。
ただ、冒頭で申し上げましたように、今日では、「移転の自由」は「経済的自由」としての側面だけでなく、「精神的自由」としての側面があると指摘されています。すると、「移転の自由」に対して制限がおこなわれる場合の違憲審査は、やはり厳格な評価がおこなわれると思います。
【取材協力弁護士】
作花 知志(さっか・ともし)弁護士
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。
事務所名:作花法律事務所
事務所URL:http://sakka-law-office.jp/