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『ハイキュー!!』が少年マンガの王道である理由ーー日向翔陽の揺るぎない“主人公”としての魅力

2020年05月24日 08:01  リアルサウンド

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 バレーボールに青春をかける高校生たちを描く『ハイキュー!!』。今回はその物語の主人公である、日向翔陽の魅力について迫っていく。


 日向翔陽。所属、烏野高校バレー部。ポジションはミドルブロッカー。人一倍の情熱と驚異的な身体能力を持っているが、身長は162.8cm(高校1年4月当時)とバレーボール選手としては低い。しかし、かつてテレビで観た「小さな巨人」に魅せられてバレーを始めた。


■少年マンガ主人公としての日向翔陽


 バレーを始めたものの、中学のバレー部は部員が少なく愛好会扱いで練習もままならない。どうにか人数を揃えて出た中学3年生での公式試合が、日向にとって中学校時代最初で最後の試合となってしまう。しかし、その試合相手がやがて相棒といえる存在となる影山飛雄を擁する強豪・北川第一だった。その試合で日向はさまざまなことに気がつく。練習、経験、指導者、練習相手……そしてひとりでは勝てないことに。勝つ試合ができるようになるために進学したのは、かつて「小さな巨人」がいた憧れの烏野高校。そこで日向は、影山と運命の再会を果たす。


 日向のバレー人生が本格的に始まったのは高校からと言ってもいいだろう。人数が少ないとは言え、チームメイトがいる。試合ができる。バレーができる喜びに打ち震える日向だったが、最初のころはというと「やる気」と「元気」「バレーが好き!」という気持ち、それから高い身体能力だけでプレーをしていた。


 バレーの基礎はめちゃくちゃだけど、人々を魅了する。何故なら、「やる気」と「元気」「バレーが好き!」という気持ちは誰しもが持てるものではないからだ。しかし、これこそ少年マンガの主人公らしい姿なのかもしれない。信念や、大切なもの、仲間、愛するもの、目指すべきもの……そのために強くなる。そして、強くなるためならひたむきにがむしゃらに努力を重ねていく。その姿を見ているうちに、読者も応援したいという気持ちがかきたてられていく。


 才能があっても、全ての人がそれを活かせるとは限らない。「才能は開花させるもの」「センスは磨くもの」というのは、烏野が春高予選準決勝で対戦した青葉城西高校のキャプテン・及川徹の言葉だ。ひたすらまっすぐ道を進んでいくことは、諦めることより難しい。


■仲間との出会い・チームの一員としての自覚


 もちろんそれだけでは戦うことはできない。チームで戦うことに慣れていなかった日向はどうしても自己本位のプレーになってしまう。エースになる!と宣言することへのためらいもない。よく言えば天真爛漫、悪く言えば周りが見えていなかった。バレーボールは、ネットの「コッチ側」にいる6人全員で強いほうが勝つということが、まだ分かっていなかったのだ。


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 日向に飛び方を教えたのは影山をはじめとする烏野のチームメイトたち、指導者、そして対戦相手。技術だけではなく、チームとして戦うことの意味、強さを学んでいく。ただボールに触れたい、スパイクを決めたいと思っていただけの日向は、やがてボールだけではなくチームを、コート全体を見ることができるように成長していく。


 仲間がいるから強くなれる。そんな姿が見られるのは少年漫画の醍醐味だ。そして強くなるのは主人公である日向だけじゃない。日向に刺激を受けるような形でチームメイトも、対戦相手さえも強くなっていく。強くなればなるほど、目の前には大きな壁が立ちはだかる。しかし、それをチームで乗り越えていく姿が、読者の胸を熱くする。


■「少しでも長くコートに立っていたい」


 『ハイキュー!!』にリアリティが感じられるのは、烏野が勝ち続けるわけではないところだ。初めてのインターハイでは地区予選を勝ち抜くことすらできなかったし、春高でも敗退。誰しもがいつかは敗者になる、それが現実なのだ。


 チームの負けだけではなく、日向自身が俯いてしまうことがある。春高出場決定後、“相棒”である影山は全日本ユース強化合宿へ、そして同じ1年の月島は宮城県1年生選抜強化合宿メンバーへと選ばれる(コミック24~25巻)。しかし、日向は選ばれなかった。


 それでも日向は「強い奴が試合以外でどんななのか どうして強いのか」知りたいと勝手に宮城県1年生選抜強化合宿場所へと乗りこんでしまう。しかし、練習に加えてもらえないどころか、「影山というセッターがいないお前に価値を感じない」とまで言われてしまう。


 自分が弱いからコートに立たせてもらえないという事実に、日向は一瞬だけれど俯く。この時から、日向の“コートに立つ”という気持ちがより強くなったように感じられた。


 日向の発した台詞に「負けたくないことに理由っている?」というものがある。どうしてそんなに頑張れるのか、というマネージャー谷地の問いに対しての答えだ。負けず嫌いの言葉のようにも聞こえるが、日向はバレーが好きだからこそ勝ちにこだわる。勝ち続ければ、コートに立ち続けることができるからだ。少しでも長くコートに立っていたい。少しでも長くプレーをしていたい。そんなひたむきさが日向をより強くしていくのだ。


(文=ふくだりょうこ)