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「嫌です!」拒まれても、女性の肩を引き寄せて逮捕…「迷惑防止条例」適用に疑問の声

2020年05月21日 09:51  弁護士ドットコム

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病院内で、拒まれたにもかかわらず、知人女性の両肩をつかんで引き寄せたとして、岐阜県の30代男性が5月中旬、県迷惑行為防止条例違反の疑いで県警に逮捕された。しかし、全国47都道府県の迷惑行為防止条例にくわしい鐘ケ江啓司弁護士は疑問を呈している。


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●改正条例が初適用された

岐阜中署によると、男性は5月16日17時半ごろ、岐阜市内の病院内で、知人の20代女性が「嫌です。訴えます」と拒んだにもかかわらず、服の上から、両肩をつかみ、引き寄せた疑いが持たれている。



男性は、「両肩に手をのせたことは間違いないが、引き寄せてはいない」と容疑を一部否認しているという。



4月1日に改正された条例が初めて適用されたかたちだ。



これまでの条例では、電車など「公共空間」で他人の身体に触れる行為が規制されていた。改正条例は、学校や病院、カラオケボックスなど「準公共空間」まで規制場所を広げていた。



●「卑わいな行為」にあたらない?

岐阜中署によると、今回の事件は、県迷惑行為防止条例3条2項1号(6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金)で立件したという。



だが、鐘ケ江弁護士は「あくまで報道だけでの判断ですが、暴行罪(刑法208条・2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)の成否が問題になる事例であり、同条例3条2項1号の問題ではないと思います」と指摘する。



どういうことだろうか。



「同条例3条の冒頭には、『卑わいな行為の禁止』と見出しがつけられています。『人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で』拒まれたにも関わらず人の身体にふれる行為を規制しており、刑法に規定する『強制わいせつ』(刑法176条)に至らない程度のいわゆる『痴漢』行為を規制するものと考えられます。



そして、『卑わいな行為』の該当性については、行為自体やそれを取り巻く客観的、外形的事情によって判断すべきと考えられるところ、両肩をつかんで引き寄せたというだけで『卑わいな行為』といえる場合は少ないと思います(大阪高判令和元年8月8日[清水庸平(法務省刑事局付検事)]「判例評釈Case299」警察公論2020年3月号85頁〕参照)」



鐘ケ江弁護士によると、ただし、両肩をつかんで引き寄せただけでなく、自分の体に密着させていたという事情があれば、同条例が適用されることが考えられるという。



(岐阜県迷惑行為防止条例)
卑わいな行為の禁止
3条2項:何人も、正当な理由がないのに、学校、事務所その他の不特定もしくは多数の者が利用し、もしくは出入りする場所にいる者またはタクシーその他の不特定もしくは多数の者が利用する乗物に乗つている者(前項に規定する者を除く)に対し、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号のいずれかに掲げる行為をしてはならない。



1号:拒まれたにもかかわらず、衣服等の上から、または直接人の身体に触れること。



(刑法)
176条:13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。



208条:暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する。




【取材協力弁護士】
鐘ケ江 啓司(かねがえ・けいじ)弁護士
刑事弁護、中小企業法務(労働問題、知的財産権問題、契約トラブル等)、交通事故、借地借家、相続・遺言、後見、離婚、犯罪被害者支援、等々幅広い事件を取り扱っている。執務のかたわら、条例による盗撮規制の研究をしており、全国47都道府県の警察本部が作成した迷惑行為防止条例の逐条解説を保有している。
事務所名:薬院法律事務所
事務所URL:http://yakuin-lawoffice.com/