2020年05月20日 23:11 弁護士ドットコム
「私たち、働く妊婦を守って」。新型コロナウイルスの感染リスクの不安の中で働く妊婦たちが5月20日、オンライン会見で声をあげた。
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政府は、妊娠した従業員を雇う事業主に対して、妊婦から申し出があった場合、出勤制限などの措置を講ずる必要があるとしている。だが、経済的不安など様々な理由で休めない妊婦が存在する。
会見に先立って、日本労働弁護団(労弁)が5月15日に発表した声明」では、妊婦が安心して休業を選択できるように、休業手当を妊婦に支給した事業主に対する助成金等の整備を政府に求めている。
これまで労弁には多数の妊婦たちから「コロナ禍で働くこと」に対する不安が寄せられてきた。今回の会見では、当事者である妊婦たちから「生の声」が発信された。そのどれもが切実さにあふれている。
賛同者が4万人を超えた「妊娠中の医療従事者をCOVID-19から守ってください!」のオンライン署名を呼びかけた妊婦でもある医師の高橋美由紀さん(仮名・20代)ら、妊婦の出席者は計3人。
高橋さんは都内の救急病院に勤務。診断の付いていない様々な患者の受け入れに対応しながら、マスクなどの防護具の不足もあいまって、まさに感染リスクの高い環境で働いていた。
「(お腹の)子どもの命を危険に晒す行為に罪悪感」を感じる一方で、自分が休業することによる同僚への負担も懸念していた。
医療現場では、使用者から妊娠中の医療従事者に対して、リスクの低い業務への配置転換や在宅の提案はないという。「キャリアを投げ出して完全に休むか、不安の中で働くかしかない」。そんな状態に疑問を感じ、署名活動を始めた。
ただ、問題はコロナにあるわけではなく、これまで常態化していた長時間労働や人手不足の問題が、コロナによって浮き彫りになったと話す。
人手が足りないのに妊婦を休ませるなという心無い批判もあるが「自己犠牲のうえに成りたつ奉仕には持続性がない。寝ずに手術することが常態化するのは医療過誤につながる。コロナにかかわらず、きっかけとして見直すべき問題だと思います」と訴えた。
Aさん(30代、首都圏在住)は病院で相談業務を担当している医療関係従事者で、妊娠22週目の妊婦だ。2月ころからつわりがひどくなり、5月までは病欠扱いで休んでいた。
密室空間で患者と面談する必要のある仕事だ。毎朝の電車通勤も不安。体調不良とあわせて、新型コロナの様々な不安が積もっていた。
職場に在宅勤務の要望を出したものの、「医療従事者に在宅での仕事を認めるわけにはいかない」として、休みを選ぶしかなかったという。
大阪府の公立学校で教員をしているBさん(30代)は20週の妊婦。5月になって体調がすぐれなくなり、特別休業を申請するために、かかりつけのクリニックで主治医に母健連絡カードへの記入を求めた。
5月7日には、厚労省による母性健康管理措置の適用が始まった。妊婦は母健連絡カードを職場に提出して、休業や在宅勤務など必要な措置を講じさせることができる。そのためには主治医等からカードに指導事項を記載してもらう必要がある。
しかし、医師の口から出た言葉は信じられないものだった。「切迫流産や切迫早産の症状がないから書けない。措置はできたけど、これで妊婦が全員働けなくなったら社会が回らなくなる。どうするの」
結局、体調が良くならないまま、5月は自宅での研修扱いとして、実質的に軽い作業を行なっている。
労弁の嶋崎量弁護士は医師がカードに指導事項を書かない行為について、「医師の話した内容は不適切で、通達の趣旨を踏まえていない」とする。
労弁の事務局次長を務める新村響子弁護士も「権利制度を阻害するマタハラ」と糾弾する。 「日本の女性や妊婦さんに権利は保障されているけど、使えないし、阻害する医師や会社があるとお分かりになったと思う」