画像提供:マイナビニュース 三菱自動車工業が5月19日に発表した2020年3月期(2019年度)連結決算は、最終損益が258億円の赤字に転落した。決算発表の電話会見に臨んだ同社の加藤隆雄CEOは「2019年度は大変、厳しいものとなった。世界需要が減少する中で、コアマーケットのASEANが軟調であったことに加え、2020年に入り顕在化した新型コロナウイルス感染拡大の影響で収益環境の悪化は想定以上となった」と総括した。
○ASEANへの集中加速、固定費は20%削減へ
中期経営計画「Drive for Growth」を進めていた三菱自動車はこの間、日産自動車との資本提携をテコに、計画の最終年度となる2019年度の営業利益で1,500億円を目指していた。しかし、2019年度の営業利益は128億円、営業利益率は0.6%にとどまり、計画は未達に終わった。すでに4月24日には2019年度業績を下方修正し、最終損益の赤字計上と期末配当ゼロ、役員報酬減額・返納を発表していた。加藤CEOは「コロナの出口は見通せず著しく不透明であり、足元が見極めきれず、今期業績予想は未定」とした。
さらに、「三菱自動車としては、コロナ危機対応に向け選択と集中を加速する。得意とするASEAN市場に特化するとともに、2020年度、2021年度で固定費を20%削減し、収益体質を向上させる。次期中計は2020年度第1四半期の決算発表までに策定するが、コスト構造改革が骨子となる」とし、ASEAN地域に経営資源を集中するとともに、コスト構造の抜本的見直しで収益力を向上させる方針を強調した。
○日産・ルノーとの3社連合をいかせるか
三菱自動車は1990年代末から、再三にわたる業績不振で厳しい経営をしいられてきた。リコール隠しによって独ダイムラーの傘下となった際には、ダイムラーは三菱ふそうを子会社化し、三菱自から離れていった。その後は三菱重工、三菱商事、三菱UFJ銀行を主体とする「スリーダイヤグループ」の支援を受けたものの、2017年3月期には燃費不正に関連した損失で赤字に転落。2017年秋には日産からの34%の出資を受け入れ、同社の傘下に入った。
日産との提携により、三菱自動車はルノーを含めた国際3社連合の一員となり、日産主導によるV字回復を目指していた。2018年度業績は営業利益1,118億円、当期純利益1,328億円と黒字化するなど順調な様子を示していたものの、2019年度決算ではまたも赤字計上となってしまった。
「メガマーケットを志向した全方位拡大戦略の中計だったが、計画の途中から競争激化や環境規制強化などで固定費全体が大幅に上昇してしまった。三菱自の規模を考えると、コロナの影響には大きな危機感を持ってコスト構造改革を加速させ、ASEANに特化集中する戦略へと抜本的に変更していかねばならない」。加藤CEOは収益の低い地域で事業を縮小し、特定の地域に集中して絞り込んでいくことでアフターコロナの競争に勝ち残る経営へと戦略を転換していく姿勢を示した。
タイ、インドネシア、フィリピンなど、ASEAN地域に強い三菱自動車は、この特性をさらに活用すべく、経営資源の集中を進めていくことになる。
一方、固定費削減については「前中期経営計画で固定費が1.3倍にふくらんでしまった。これを今期と来期の2年間で20%削減する。研究・開発費も1,300億円規模で300億円増加し、間接人員も国内で2,000人増加した。この中で、最も効果のあるところに踏み込んでいく」とし、開発・商品の集中化と人員削減の可能性も示唆した。
また、日産・ルノーとの3社連合については、連携を強化する方針について5月27日に共同で発表するとした。日産とは軽自動車の共同開発・生産に加え、新世代技術の自動運転やコネクティッドでアライアンスの活用を進めていくことにしている。
国内については「日本はホームマーケットであり、しっかりと収益を上げられる体制を築いていく。販売体制の見直しや固定費の削減を図り、コロナの影響はあるが新車計画もしっかり進めていく」とする。国内では主力の軽自動車工場である水島製作所(岡山県)がある岡山地区に300社ほどのサプライヤーが存在するが、取引先への万全な支援に向け、資金調達も進める構えだ。
○著者情報:佃義夫(ツクダ・ヨシオ)
1970年に日刊自動車新聞社入社、編集局に配属となる。編集局長、取締役、常務、専務、主筆(編集・出版総括)を歴任し、同社代表取締役社長に就任。2014年6月の退任後は佃モビリティ総研代表として執筆や講演活動などを行う。『NEXT MOBILITY』主筆、東京オートサロン実行委員なども務める。主な著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)、「この激動期、トヨタだけがなぜ大増益なのか」(すばる舎)など。(佃義夫)