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『エール』裕一が応援歌の作曲に悩む “最大の幸福”である音の存在

2020年05月19日 12:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『エール』写真提供=NHK

 応援歌の作曲を依頼された裕一(窪田正孝)は思うような曲が書けずに悩んでいた。行き詰まりの原因は明白で、裕一は「自分の音楽」にこだわるあまり、ありきたりな曲調で満足できなくなっていた。


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 『エール』(NHK総合)第37話では、迷走する裕一を周囲の人々がそれぞれのやり方で見守る。喫茶バンブーのマスター・保(野間口徹)や久志(山崎育三郎)は、独学で音楽を習得した裕一の欠点を見抜いていた。音(二階堂ふみ)は廿日市(古田新太)の評価を伝える。裕一の曲は「鼻につく」もので、「こざかしい知識をひけらかして曲を台無しにしとる」ということだった。


 廿日市の言葉を聞かされた裕一は猛反発し、思わず本音をもらしてしまう。本当なら今頃イギリスに留学していたはずなのに「東京の隅っこで応援団と大衆曲作ってんだよ」。裕一からすれば目いっぱい努力しているのに、これ以上変われと言われても、責められているように感じてしまうのだろう。


 聞き分けのない裕一に、音は「明日からごはんは作りません。勝手にやってください」と通告。夫婦はまたもや冷戦状態に突入する。しかし、音の思いと裏腹に、裕一はますます自分の世界に没頭。「反逆の詩」と名付けた自作を携えて小山田(志村けん)の元に赴くのだった。


 裕一も音も言い出したら聞かない頑固な性格で、ある意味正直とも言えるが、本音をぶつけ合える関係ができている証拠でもある。繊細でなかなか自分の殻を破れない裕一にとって、凝り固まった頭を愛情をもってかち割ってくれる音の存在は大きい。久志の音に対する「裕一の最大の幸福は君だ」という賞賛は、そんな2人の関係性を指すものと思われる。


 内へ、内へと向かう裕一のパッションを外につなぎ止める存在が音であると言えるが、音も決して好き放題に言っているのではなく、陰では同郷の徳川家康の言葉を噛み締めて耐え忍ぶ一面もある。音は、ただただ裕一に「才能を無駄にして後悔しながら生きてほしくない」のだ。


 一方で、親友の久志の思いは、音とは若干ベクトルが異なる。裕一と早稲田大学応援部団長の田中(三浦貴大)を引き合わせた久志は、応援歌を作らせることで裕一の中で起きる変化を期待していた。その期待はなかば的中しつつあったが……。


 タイムリミットの早慶戦まであとわずか。応援歌の完成に暗雲が立ち込める中、今にも大御所の雷が落ちそうな空模様で終わった第37話。はたして紺碧の空にエールは轟くのだろうか?


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。