SUBARU(スバル)の2020年3月期(2019年度)連結決算は売上高3兆3,341億円(前期比6%増)、営業利益2,103億円(同15.7%増)で2期ぶりの増収、4期ぶりの増益となった。自動車各社が新型コロナウイルス感染拡大の影響で厳しい業績となっているのに対し、世界販売の7割が北米のスバルでは、2019年度のコロナの影響が軽微にとどまった。
○米国市場の減速で今期は厳しい情勢
2019年度の連結販売台数は前期比3.3%増の103万3,900台(そのうち米国市場は70万台強)。スバルの中村知美社長は決算発表の電話会見で「2019年度の連結業績は、世界販売が米国を中心に伸びて増収増益となったが、米国の自動車市場へのコロナの影響は3月中旬以降になったことから減速を最小限にとどめることができた。だが、むしろ今期(2021年3月期、2020年度)が大変な影響を受けることになる」との見方を示した。
スバルのグローバル販売において、北米は最大の市場だ。そういった姿を「米国一本足打法」といわれることもあるほどである。それだけに、コロナウイルスの感染拡大による米国市場の動向は気になるところだ。
新型コロナウイルスの感染者数が世界最多となっている米国では、コロナの影響による自動車市場の減速が2020年3月中旬から表面化し、4月以降の米国市場は「半減」しているとのこと。中村社長は「コロナ収束の見通しは不透明で、今期の業績予想の算定は現状で困難であり未定」とする。
スバルにとって、今期は厳しいコロナ危機に直面することになる。この危機感を持ちながら、工場の一部操業停止に伴う従業員の一時帰休(レイオフ)や資金需要の高まりに備えた執行役員全員の報酬一部返納などに踏み切る。
○2025年ビジョンの行方は
北米市場での高い収益性により、以前はトヨタ自動車を上回る10%以上の営業利益率を誇っていたスバル。ここ数年は完成検査不正問題やリコール問題などで品質向上・全品質対応を問われ、業績を低下させていた。今回の決算ではようやくのことで増収増益に反転できたが、そこへきてのコロナ危機となる。最大かつ主力の米国市場は、コロナ危機で販売台数が大幅に減りそうな情勢。今期のスバルの連結損益は、どのくらい落ち込むか予想できない。
スバルでは、2018年6月に就任した中村知美社長の下、2025年までを対象とする新たな中期経営ビジョン「STEP」を策定し、組織風土改革や品質向上、「SUBARUづくりの刷新」(中村社長)、トヨタとの提携強化などを打ち出している。このビジョンに基づく中期経営計画は、今期が3カ年の最終年度となる。この中計では売上高10兆円、営業利益率9.5%などを掲げていたが、中村社長は会見で「掲げた目標には遠い状況になっているが、コロナの影響を見定め、その中でも進むべき道、改革をしっかりと進める。若干の遅れはあっても商品計画の変更はしない」とした。
スバルは昨年、トヨタとの資本提携を強化。トヨタからの出資比率を20%、トヨタへの出資比率を5%とし、トヨタの持分法適用会社(関係会社)となった。トヨタとの提携による次世代技術への投資について中村社長は、「コロナをきっかけとし、効率化を進めながらやるべきことをやっていく」と述べた。コロナ対策と事業見通しについては、「米国一本足打法の構図はそう簡単に変えられないが、スバルの商品にマッチした中国市場などでも、時間はかかるが力を入れていく」と脱・米国依存の考えを示唆した。
コロナ危機対応として、中村社長は「グローバルの動向、サプライヤーの供給状況、米国市場動向を注視し、できるだけ早期に今期の生産・販売計画をくみ取っていきたい」とも述べたが、中計ビジョン「STEP」の推進には少なからず影響が出そうだ。
○著者情報:佃義夫(ツクダ・ヨシオ)
1970年に日刊自動車新聞社入社、編集局に配属となる。編集局長、取締役、常務、専務、主筆(編集・出版総括)を歴任し、同社代表取締役社長に就任。2014年6月の退任後は佃モビリティ総研代表として執筆や講演活動などを行う。『NEXT MOBILITY』主筆、東京オートサロン実行委員なども務める。主な著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)、「この激動期、トヨタだけがなぜ大増益なのか」(すばる舎)など。(佃義夫)