2000年代に20代を過ごしていた就職氷河期世代は「いつまでも自分探しをしている」と批判的な見方をされることがあった。40代を迎えた現在ですら、なお「やりたい仕事が見つからない」という声は大きい。
だが、果たしてこの"やりたいことが見つからない"は本当だろうか。実は、やりたいことがあるけれど"できない"が実情に近いのではなかろうか。今回は、筆者の実体験を踏まえて考察してみたい。(文:ふじいりょう)
転職の繰り返しが"自分探し"とみられた時代
Indeed Japanが19年12月に実施したインターネット調査によると、就職氷河期世代で3年以内に転職を考えている人(215人)が、転職の課題や不満として挙げたのは、「年齢や性別が理由で採用されない(採用されにくい)」が34.9%でトップ。そして、それに続くのが、「やりたい仕事が見つからない/探し方がわからない」(29.3%)と「どんな仕事が自分に合うのかわからない」(27.4%)だった。
同調査では、就職氷河期世代は、契約社員・派遣社員などの非正規雇用で働いたことのある割合がバブル世代やゆとり世代に比べて高い数字になっているが、それは複数の職場を経験していることも意味している。「若者が3年で辞める」ことが問題視されたのもこの頃だが、それを「自分探し」と揶揄した見方があったことも確かだ。
"フリーター"という言葉は、1990年代初めごろにはまだ「自分のペースで自分の働きたいように働く」というワークスタイルの象徴のように捉えられていた。その後、就職氷河期が到来すると、新卒で採用されず、やむを得ず「フリーター」として働かざるを得ない人が大量発生する。
言い換えれば、少しでも賃金のいい仕事にあり付けるようにもがいた世代だ。中には、将来の"夢"を胸に働いていた人もいたかもしれないが、現実問題としては正社員になるのが難しかったという時代背景がなくては語れない。
語弊を恐れずに言うならば、当時多くの人が抱えていた"人並みの稼ぎが見込めない"という現実からの逃避策として、夢を追うことを選択した人もいたはずだ。
また、正規雇用にありつけたとしても、そこからキャリアアップを望むのは茨の道だった。筆者は出版社でウェブサイトの運営を担当し、ホームページやブログを立ち上げた経験があったため、多少のhtmlの知識を有していた。
しかし、2007年に約3年間働いた出版社を辞め、家具ベンチャーに転職するまでには半年以上の期間を要した。理由は、複数回の転職で"履歴書が汚れていた"ことだろう。異業種へのジョブチェンジの難しさを痛感させられる経験だった。
その後の転職でも、必ず同様の困難が伴った。さらには、リーマンショック以降の不況で、転職先がない状況にまで陥ったこともある。今、ライターとして食べていけているのは、運がよかったのに過ぎない。
"自分探し"をしている余裕なんかなかった
世間では、「やりたい仕事がわからない」という就職氷河期世代に対して、「条件や制限にとらわれずにもっと視野を広くして見てみる」「自分の得意なスキルを活かす仕事を探してみる」といったアドバイスをする向きもある。
しかし、それをやっても駄目だったから困っている、というのが実際のところだろう。就職氷河期世代は"自分探し"にいそしんで、現状の勤務形態に甘んじている人が多いわけではない。
そして今、新型コロナウイルスの感染拡大で、派遣社員の雇い止めや、倒産件数が増え始めている。当然、影響は非正規雇用の就職氷河期世代にも及ぶ。"自分探し"をしている余裕など、この世代には一度だってありはしなかったのだ。