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編集部の週末オススメ番外編 『アンカット・ダイヤモンド』で感じる、痛切なリアリティ

2020年05月15日 17:22  リアルサウンド

リアルサウンド

『アンカット・ダイヤモンド』 Netflixにて独占配信中

 毎週末に編集スタッフが週替りでオススメ映画・特集上映を紹介する「週末映画館でこれ観よう!」番外編。今週もオススメの配信作品をご紹介いたします。


参考:場面写真はこちらから


 今週は、Uber Eatsの請求額がとんでもないことになったテレワーク島田が、Netflix映画『アンカット・ダイヤモンド』をプッシュします。


・『アンカット・ダイヤモンド』
 今を輝くA24とNetflixの共同配給作品となる『アンカット・ダイヤモンド』。Netflixオリジナル作品をそこまで熱心に追っていない自分でしたが、これはもう観ようと決めていたのでした。なんたってサフディ兄弟の新作なわけですから。そして、本作の制作総指揮にはマーティン・スコセッシまで。


 『神様なんかくそくらえ』で(日本で)鮮烈なデビューを果たし、次作『グッド・タイム』(本作のエンドクレジットの時点で、すでにスコセッシへの謝辞が綴られていました)ではよりクライム・サスペンスとしての風格を増し、その次の作品……ということで否応無く期待は高まります。サフディ兄弟、国内ではどうも過小評価されているような印象を受けますが、正直それも頷けます。とにかく彼らの作品は常に騒がしく、登場人物たちは下品な言葉を連呼、そしてドラッグや犯罪、ギャンブルに溺れる人物が多く登場します。言ってしまえば、不快感を催す人も多いのではないでしょうか? 好き嫌いはかなり別れるかと思います。個人的には、ハーモニー・コリン、ダルデンヌ兄弟などと近い系譜を感じています。


 そんな兄弟の新作『アンカット・ダイヤモンド』。今回もやっぱりどうしようもない人間が主人公に。スポーツギャンブルのことになると後先が全く考えられなくなる宝石商のハワード・ラトナーが、借金取りに追われながら、商品の宝石とそれに代わる金集めに奔走する……というのが本作のプロットの主軸です。これまでの主人公と同様、本作でもハワードは行きあったりばったりで、その場をなんとかやり過ごしながら、疲弊し、わめき立てています。


 引っ切りなしに鳴る電話、いきなり現れてドアを鳴らす人間、そしてダニエル・ロパティン(a.k.a Oneohtrix Point Never)のけたたましい劇伴……。休ませてくれる瞬間はありません。否応なしに観客もハワードと同じようなストレスを味わう羽目になります。ここが好き嫌い別れるポイントかとも思います。しかし、逆を言ってしまえば、そこまで圧倒させてしまう、映画のパワーを実感させてくれる作品とも言えるのではないでしょうか。


 海外で、本作においてとにかく評価されているのがアダム・サンドラーの演技。『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』や『マーダー・ミステリー』と数多くのNetflix作品に出演、今や「Netflix俳優」とも言えるサンドラーですが、普段のパブリックイメージを覆すような、ギャンブル狂の演技が話題を呼びました。ここまで人は「小物感」を演出できるのか?と思ってしまうほどです。本作の成功に、サンドラーの存在は必要不可欠でしょう。


 他にも、フィルム的質感の映像やサンドラー以外のキャストの演技、ヒップホップ好きとしてはおっとなるであろう、ザ・ウィークエンドや数多くのラッパーのジュエリーを売ってきたA$ap Evaの出演……と、一見乱暴なようでいて、すごくディテールが細かい映画だと思います。クライマックス、オープニングのクールさも非常に魅力的です。


 共感できないと言う人も多いかとは思いますが、自分とは違う人間や世界を知れるというのは、映画ひいてはエンターテインメントの大きな力ではないでしょうか? ドキュメンタリーと劇映画を行き来するような、ヒリッとするようなリアリティを感じられる本作。外出自粛で人とあまり触れ合っていないという方は、ぜひ本作を観て、人混みの騒々しさを体感してみてください。 (文=島田怜於)