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ゲームエンジン「Unreal Engine」で2Dアニメ制作? プレビュー中にも描ける「Odyssey(仮称)」開発中

2020年05月14日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2Dソフトだけでなく、3DCGソフトを使ったアニメーション制作が広く知られるようになった一方で、2010年代からはゲームエンジンを使ったアニメーション制作も注目を集めてきた。3DCGソフトでの制作はともかく、まだまだゲームエンジンでの制作については意外に思う人も多いに違いない。


(参考:『ボーダーランズ3』制作陣インタビュー 『MGS』や松本大洋作品からのインスピレーションも?


 去る2月9日に石神井公園区民交流センターで開催された『アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2020』は、2015年からの開始で今回が6回目。アニメ業界向けにセッションやセミナーを通じて、作画のデジタル化に伴うソフトや機材の導入に関する知見の共有が行われている。


 この『ACTF』では、先日のレポート「話題の『名探偵コナン』オープニングはどのように作られた? トムスが取り組む3DCGとToon Boom Harmonyの事例」のように、2Dや3DCGを問わず知見が共有されてきた。ここではEpic Games JapanとPraxinos(プラクシノス)が実施のセミナー「Unreal Engine がアニメ制作で使える!? 次世代描画ツールのご紹介」の模様を記す。


 今回の『ACTF』では、初めてゲームエンジンを手がける会社が参加した。展示コーナーでも、セミナーを実施したEpic Games JapanのほかにUnity Technology Japanなど、ゲーム開発に関心があれば耳にしたことのある会社のブースが見られた。


 Epic Gamesが開発するUnreal Engineは、自社開発のゲーム『フォートナイト』などのほか、ゲーム『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』の開発などに使用されてきた。直近では4月10日に発売されたゲーム『FINAL FANTASY VII REMAKE』でも使用されている。


 セミナーの冒頭では、昨年10月から12月までのクールで第1期が放送されたアニメ『ノー・ガンズ・ライフ』での利用例が示された。本作の主要キャラクターはアニメ制作スタジオのマッドハウスが2Dで手描き、背景のモブキャラクターは3DCGでアニメ制作スタジオのサイクロングラフィックスが担当した。Unreal Engineはイメージボードや2Dレイアウトの段階から使用し、3DCGの背景も全てUnreal Engineでレンダリングを行ったそうだ。


 当セミナーは、Praxinosが開発するソフトが本題であった。講演したPraxinosは、フランス北東に位置するメッス市に本拠地を置くスタートアップ企業だ。プロジェクトマネージャーのファブリス・ドゥバルジュを筆頭に、起業家精神に溢れた8人のアニメーション映画産業のプロが、Unreal Engineをベースにした2Dと3DCGアニメーションを制作できるソフトの開発に携わっている。


・2Dと3DCGのリアルタイム制作を1つに 小さなスタートアップ企業の大きな挑戦
 開発中のソフトはコードネームとして「Odyssey(オデッセイ)」と名付けた。Odysseyの画期的な利点は、3DCGのリアルタイム環境を活用してアニメーション制作をすることが可能なところにある。Unreal Engineのリアルタイム3DCGレンダリングの技術を最大限に活用しながら、従来の2Dアニメーション作家が才能を自由に発揮できるという。ここ数年、アニメーション制作では2Dと3DCGの技術をハイブリッドして制作する環境が求められており、業界のニーズにマッチしたものであるといえる。


 Odysseyは従来通りの2Dアニメーション制作に対応したインターフェースを持っているだけでなく、Unreal Engineの強力な諸機能を活用することで、3DCGエンジニアやアーティストが、3DCGのオブジェクトや背景を作成したり、ライティング効果、バーチャルカメラによる構図移動、継続的にレンダリングされた特殊効果(煙、炎、雲)なども可能である。


 Odysseyの製品版のリリースは2年後の2022年を予定しているが、すでに昨年、その前身となる「ILIAD(イリヤッド=インテリジェント・レイヤード・イメージング・アーキテクチャー・フォー・ドローイングの頭文字)」をリリースしている。こちらはUnreal Engine用の描画プラグインで、テクスチャーの編集とデジタルブラシの作成機能が1つのインターフェースにまとめられている。


 先にILIADを開発したのは、もともとUnreal Engineにはピクセルを管理する機能がなく、ワコムなどの液晶ペンタブレットによる入力にも対応していなかったからだった。そのため、まず1から描画スペース、ブラシのデザイン、レイヤー構造などの開発に着手し、描画機能を持ったソフトウェアを作り上げる必要があった。


 ILIADのUnreal Engineでの活用方法としては、3DCGオブジェクトのUVマップ(ディフューズ、スペキュラー、ノーマルなど)の編集を通して、様々なタイプのテクスチャー(錆、メーク、傷、模様など)を利用したフォリッジ(ランダム配置)作成が挙げられる。またレトロ風ゲームの開発に際してスプライト(動画レイヤーの一種)やタイルの制作にも利用できるため、今風のゲームだけでなく他のクリエイティブな業界にも広く浸透することが期待される。


 現在ILIADはベータ版だが、昨年の12月からUnreal Engineのマーケットプレイスで無料ダウンロードが可能になっている。PraxinosでもUnreal Engineの環境に関しては、まだまだ勉強中であるため、ILIADの使い心地や機能上の要望など、多くのユーザーからのフィードバックを今後の開発につなげたいと考えているそうだ。


 なおPraxinosのチームと直接ディスカッションを希望する場合は、チャットアプリのDiscordを使ってメッセージを送ることができる。ゆくゆくはOdysseyにも反映されることになるはずなので、興味があれば質問してみてほしい(日本人のスタッフもいるので日本語でも可能)。


(真狩祐志)