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『聖剣伝説3 ToM』は“リメイクもの”の傑作か? プレイの先に見えてきた『FF7R』との対照性

2020年05月14日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2020年4月24日、25年の時を超えてよみがえった1本の名作タイトルがある。その名は『聖剣伝説3』。スクウェア(現スクウェア・エニックス)の黄金期に誕生し、多くのゲームフリークに支持されてきた『聖剣伝説』シリーズの第3作だ。


(参考:25年越しに再誕『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』発売 フルリメイクで生まれ変わった新システムとは?


 同シリーズからはこれまで複数の作品がリメイクされてきたが、そのどれもが手放しで評価されるタイトルとはなれず、賛否両論を生んできた過去がある。満を持して発売された第3作のリメイク『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』はその過去を払拭できたのだろうか。本記事では同作のプレイを踏まえ、その評価を考えていく。


・オリジナル版の世界を忠実に再現した正統派リメイク『聖剣伝説3 ToM』
 『聖剣伝説3 ToM』で最も印象的だった変化が“映像と音楽のアップデート”だ。一般的なリメイク作品とおなじく、時代やハードの変遷を踏まえた変更が同作には加えられ、現代でも見劣りのないタイトルへと生まれ変わっていた。特に音楽面へのテコ入れが素晴らしく、この点を評価ポイントに推す声は大きい。「元の雰囲気をそのままに格段のスケールアップを遂げたBGM」は、間違いなく今作の見どころのひとつに挙げられるだろう。新しさを感じさせつつも原作へのリスペクトを忘れない姿勢に「プレイしていた頃を思い出した」というファンも多かったはずだ。リメイク作品における音楽の重要性を、同作は再確認させてくれた。


 また上記と並んで目を引いたのが“ゲームテンポの良化”である。マップ上には次に行くべき場所がマークされ、最短距離でシナリオを進められるようになった。合わせてレベルデザインの一新によるレベリング作業の緩和、一度に読み込むマップの広域化によるロード回数の削減も施されている。こうした変更により、コンパクトなゲーム体験が可能となり、結果としてシナリオへの没入感も深まった。


 その一方で、根本的なゲームシステム・バトルシステムには大きな変更が加えられておらず、原作どおりの楽しさを提供する設計が目立つ。先述した音楽やゲームテンポなどへの変更を含め、『聖剣伝説3 ToM』は“オリジナル版の世界を忠実に再現した正統派のリメイク”と言えるのではないだろうか。


・『聖剣伝説3』リメイクとは対照的な『FF7』リメイクの存在
 反面、こうした仕上がりをマイナスに捉える向きもある。シンプルなバトルシステムやスキルエフェクトの淡白さ、シナリオの未成熟さに時代を感じるという声だ。シナリオについてはリメイクにあたり補完されている箇所もあるが、必要十分であるとは言い難い。今作を評価できるタイトルとするかは、これらの点をどう扱うかにかかってくるだろう。リメイクタイトルに求められるのは時代に即した新しさか、それとも昔ながらの遊び心か。この問いに対する個々のプレイヤーの答えによって、『聖剣伝説3 ToM』の評価は変わってくるはずだ。


 このような観点で考えると、直前に発売された『FF7R』とは対照的なリメイクであることが見えてくる。原作に大幅な手入れを施し、完成されたひとつの作品として評価される『FF7R』と、原作に忠実につくられた丁寧な復刻として評価される『聖剣伝説3 ToM』。異なった特徴を持つ2つの作品が、リメイクが数多くリリースされる時代のモデルタイトルとなっていくのかもしれない。


 そして、このスタンスの違いは“誰に喜ばれるタイトルを目指してリメイクするか”と言い換えることもできる。これからのゲームカルチャーを支えていく新規ユーザーに比重を置いた『FF7R』と、25年前のオリジナル版に熱狂したオールドユーザーに比重を置いた『聖剣伝説3 ToM』。プレイヤーの好みによって、各作品の評価も大きく分かれたに違いない。


 あなたが好きなリメイクは、『FF7R』と『聖剣伝説3 ToM』のどちらだっただろうか。私は『聖剣伝説3 ToM』に1票を投じたい。


(結木千尋)