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豪華アクション女優の共演からオンライン交流まで コロナ禍における海外エンタメ業界の試み

2020年05月14日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 COVID-19によるウイルス禍に対しエンタメ業界がどう向き合っていくかはあまりに大きな問題であり、また進行中です。エンターテインメントの力で人々や社会を励ましたいという気持ちもある一方、エンタメ業界も他の産業と同じように大打撃を受けています。だから“ウイルス禍とエンタメ業界”という切り口だけでも様々なニュースや意見がネットを飛び交います。僕は日ごろアメコミヒーローものやホラー映画のニュースを書いている者ですが、ヒーローやモンスター映画の送り手たちがこのウイルス禍になにをしているのかについて気が付く限りまとめてみました。限られた領域での話ですが、そこからエンタメと人々の関係についてなんらかのヒントを見つけてみたいと思います。


参考:動画はこちらから


 4月の上旬ごろから大手の映画会社が、オンライン会議用に使えるバーチャル背景(英語ではVirtual Backgroundと言うそうです)用の素材を無料で配布するようになりました。Zoomなどを使用する際、仮想背景を設定するとあたかも自分がワカンダ(ブラックパンサーの故郷)やバットケイブ(バットマンの秘密基地)にいるかのような形で会議に臨むことができます。自宅からこうした会議に参加する時に一番のネックは、自分の部屋が相手に見えてしまうこと。だから、なるべく白い壁がバックになるところにパソコンとか移動するなど、手間がかかったりします。バーチャル背景はこうした問題を解決してくれます。オンライン会議自体、SF映画っぽいので、『スタートレック』や『エイリアン』の宇宙船の中にいるみたいな背景は似合います。


 映画会社がポスターやキャラクターの画像を待ち受け画面などで提供すること自体はよくある話で珍しいことではありませんが、その多くはあくまでも新作のプロモーションのためです。だからタイトル名とか公開日、(c)のクレジットなどが入っています。しかし、今回のバーチャル背景にはこうした宣伝色はない。もちろん映画会社への好意度形成につながるとか、会議の際「この背景はアベンジャーズの基地で……」とか使用者は話のネタに語るでしょうから結果的に広告効果はあるでしょう。けれど、これは素直に映画会社が自分たちの資産を使って少しでも社会に元気を与えたいという意図の方が強いと思います。バーチャル背景は“キャラクターグッズ”の一種とも言えますが、そもそもキャラクターグッズとは“日常生活に素敵なアクセントを与える”ことを目的としているので、その志には十分応えています。この先、テレワークが進むのであれば、そこにエンタメコンテンツがどう関わることができるか(それはかつてのケータイ用のノベルティストラップや着メロのように)という意味でも興味深い事例です。


 こうした社会的危機の時は有名人が呼びかける寄付やチャリティ企画も多くなります。特に、ウイルス禍が引き起こす低所得者の食糧問題をテーマにしたチャリティに参加するスターが多いようですが、ユニークなのは「この活動を支援してくれた(寄付してくれた)人の中から抽選ですごい体験をプレゼント」という打ち出しをしていること。クリス・プラットからは支援者の中から「『ジュラシック・ワールド3』で恐竜に喰われる役で出演」、クリス・エヴァンスからは「『アベンジャーズ』のメンバーと一緒に(ただしオンラインで)一晩ボードゲームを楽しむ権利」、ヒュー・ジャックマンとライアン・レイノルズからは「(ウイルス禍が去ったら)一緒にレモネード・スタンド立ち上げ」をプレゼント。ハリウッド版『とんねるずのハンマープライス』みたいですね。


 今回のウイルス禍は“家で過ごそう”“STAY HOME”が呼びかけられています。家で過ごす時間をどう楽しくするかというのも、エンタメ業界が取り組むべきことです。ビジネス的には動画配信サービスの加入が伸びています。また、社会貢献的な意味合いではコンテンツホルダーやプラットホーマーがコミックや映画を期間限定で無料配信しています。そしてエンタテイナーたちは歌やダンスなどの動画をアップして人々を励まそうとしています。イギリスではトム・ハーディが子ども向けの読みきかせコンテンツに参加。彼の自宅で撮影したものをTVや配信を使って発信。ヴェノムでありマッドマックスなトムが子どものためにひと肌脱ぐ。ヒーロー感ありますね(笑)。


 読み聞かせコンテンツとしては、『ハリー・ポッター』シリーズの作者J・K・ローリングが“Harry Potter at Home(お家でハリー・ポッター)”というサイトを立ち上げました。ここの目玉は、ダニエル・ラドクリフやエディ・レッドメインらが一章ずつ『ハリー・ポッターと賢者の石』(1巻ですね)を交代で朗読するというものです。


 どれも素晴らしい試みだと思いますが、ここでは僕が気に入った“STAY HOME”向けコンテンツの2つの事例を紹介します。1つは『ライト/オフ』『アナベル 死霊人形の誕生』というホラー映画の名手デヴィッド・F・サンドバーグ監督がYouTubeで発表した『Shadowed』。これは自宅待機中に、家で女優ロッタ・ロステン(監督の奥さん)を使って撮影・編集を作りあげた3分ほどのショートホラーです。ホラー映画の監督だからホラーを使って“STAY HOME”の人を自宅から楽しませたいという試みですが、この監督はYouTubeにあげた短編ホラー映画が注目され、それでハリウッドに招かれたというサクセスストーリーの持ち主。もしかすると映画監督を目指す若者たちに家にいても映画は作れる、チャンスはあるという呼びかけともとれます。


 もう一つはクエンティン・タランティーノ監督作の『デス・プルーフ(in グラインドハウス)』の出演女優であり、ハリウッドを代表する女性スタントマン、ゾーイ・ベルが発表した“BOSS BITCH FIGHT CHALLENGE”という動画。いわゆるたくさんのセレブが同じテーマで登場して、メッセージやパフォーマンスを入れ代わり立ち代わり発表していくリレー動画ですが、タイトルが示すように、女性スタントマン、女性格闘家、そして女性スターたちがひたすらパンチやキックをしながら“次の相手をぶっとばす”という形でアクション動画がつながっていきます(笑)。


 参加した主な女優はドリュー・バリモア、ロザリオ・ドーソン、キャメロン・ディアス、フローレンス・ピュー、ダリル・ハンナ、ゾーイ・サルダナ、ハル・ベリー、スカーレット・ヨハンソン、マーゴット・ロビーと錚々たる顔ぶれ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で人気が出たあの女の子ジュリア・バターズちゃんも登場しています。アクション女優はアクションのパフォーマンスで人々を元気づけるのです。


 ぶん殴るのオンパレード動画ですが、女優たちがすばらしい演技とリアクションをしてくれるのでドタバタ喜劇×スポーツ的な爽快感があるし、「ウイルス鬱をぶっとばせ!」的なメッセージを感じとれるパワフルな動画です。


 ファンとのオンライン交流を前提とした企画も多くなってきました。Watch Party、同時視聴イベントです。いくつかのやり方があるのですが、参加する人は、時間を決めていっせーのーせでテーマとなる映画を同時再生します(配信を使ったりブルーレイを再生したりです)。それで観ている間のコメントに、指定されたハッシュタグをつけて投稿しあってワイワイみんなでその映画を楽しむというパターンです。


 今回はその仕組みを使って有名アメコミ映画サイト・コミックブックがQuarantine Watch Partyと名付けてアメコミ映画中心の同時視聴イベントをしかけました。Watch Party自体は前からある仕組みなので、今回のこの流れにはQuarantine=自宅隔離、自宅待機とつけたようです。Quarantine Watch Partyには連日すごいゲストがここに参加して大いに盛り上がりました。


 ざっと挙げただけでも
・3月31日開催の『シャザム!』(デヴィッド・F・サンドバーグ監督、出演のアッシャー・エンジェル、ジャック・ディラン・グレイザー、マルタ・ミランズ、クーパー・アンドリュースが参加)
・4月7日開催の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(ジェームズ・ガン監督が参加)
・4月27日開催の『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』(監督のルッソ兄弟が参加)
・5月6日開催の『スパイダーマン:スパイダーバース』(ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマンの3人の監督、プロデューサーのクリス・ミラーらが参加)


 ゲストたちは自身のSNSを通じて再生されている画面にあわせ「このシーンはこうだった」とか裏話を明かしてくれたり、ファンの質問にリアルタイムで答えてくれました。


 この試みは海外のエンタメサイドにも好評でした。というのも、この場を通じて監督たちが次回作についてのコメントをしてくれて、例えば


・『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の3作目ではロケットの物語がキーになる(ジェームズ・ガン談)
・いつかまたほかのマーベル映画を撮る可能性もある(ルッソ兄弟談)
・『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編にはレオパルドンが出る(クリス・ミラー談)


 これらのコメントが格好のニュースネタになってくれたからです。今年はサンディエゴ・コミコンもリアルイベントが中止され、#ComicConAtHomeの掛け声のもと、オンラインでの実施が発表されました。「今年のコミコンは無料で、並ばず誰でも特等席!」という逆境を逆手にとったユーモラスな予告が配信されました。このWatch Party的な手法が応用されるかもしれません。そう、Watch Partyはウイルス禍が去ってもファンと送り手の新たな交流の場として発展する可能性があります。


 繰り返しになりますが、今回ご紹介したのはほんの一例であり、この他にもCOVID-19によるウイルス禍に対し、エンタメ業界もいろいろな試みを行っています。僕はこうしたものの中からいつか課金できるもの、お金をとれるものが出てくると思います。そこで得たお金がエンタメ業界の救済のために使われていく、そういう風にまわっていくのではないでしょうか?