2020年05月13日 17:22 弁護士ドットコム
外資系セキュリティー大手「マカフィー株式会社」(東京都渋谷区)で働く東京在住の40代女性が5月13日、強要による退職は無効であるとして地位確認を求めるとともに、賃金や慰謝料など計約1600万円を求めて、東京地裁に労働審判を申し立てた。
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外資系企業における不正な退職強要の相談が昨年頃から弁護士に寄せられるようになったという。外資系企業では「解雇」が転職に不利となる事情があるため、「退職確認書にサインしなければ解雇しかない」と迫るやり口が使われるそうだ。
申し立て後、女性は会見を開き、「外資系企業でも、(労働者が)日本で働く以上は日本の法律に守られているということを広く知っていただきたい」と訴えた。
申立書などによると、女性は2017年10月19日に同社と期間の定めのない雇用契約を締結し、主に営業職として業務を行っていた。
女性の基本給は年1050万円(月87万5000円)で、さらに歩合給は年450万円(目標100%の場合)。歩合給は四半期ごとに分割して支払われていた。
2019年9月24日、会議室で上司のマネージャーと退職とは全く関係のない個人面談を行っていたところ、常務執行役員パートナー営業本部長と人事部長が入室してきて、退職強要が行われるとともに、意に沿わないまま「退職確認書」に署名させられた。
退職の強要は2時間も続けられた。回答を待ってほしいと何度も伝えたが、受け入れられず、署名しないと退室できないという恐怖心を抱き、不本意ながら署名をした。
そのときのやりとりの録音記録が残っている。営業本部長らは退職の主な理由が「女性を雇うコスト」にあると説明していた。
「給料に見合うだけの結果が出てません」「先月の残業代、28万円(編注:多すぎる)」(営業本部長の言葉)
女性は、上司らからもともと、度重なるパワハラ被害にもあっていたとも主張。慰謝料も求めている。
女性の「受け入れなければ解雇になるか」との問いに、営業本部長らは「イエス」「サインしなかったら解雇通知します」と発言していた。
申立人代理人の指宿昭一弁護士は「女性は同意しなければ解雇されると考え、やむなく署名した。営業本部長らは退職合意を受け入れなければ、法的に有効な解雇をするという誤った情報提供をしたうえで署名させている。
署名が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは言えない」として、退職合意は成立していないと主張する。
退職強要は事前の予告もなしに、別の理由で呼び出された面談の途中で行われ、離席も許されなかった。これも「労働者の自由な意思」に反しているとする。また、コストの問題で解雇するという理由にも、具体的な根拠がないと否定した。
「翌日、せめて明朝まで待って」との頼みも聞き入れられず、十分に考えることもできないままサインしてしまった。女性は「同じような話を社内外の外資系で聞きます」と話す。外資系企業では「解雇」がレッテルとなり、転職が困難になるケースがあるという。
「転職が難しくなると思って(サインしてしまった)」。女性の弱みにつけ込むような手法であるとも言えそうだ。
指宿弁護士によると、昨年頃から、とりわけ外資系企業での退職強要事案の相談が増えているという。長時間で何人かで囲みながら、「退職合意に応じなければ解雇する」と告げたうえで、弁護士に相談させずにその場での署名を求める手口が共通しているとそうだ。
マカフィー株式会社の広報電話窓口がつながらなかったため、編集部はメールでコメントを求めている。
(5月14日午後2時50分追記)広報担当者は5月14日、「法務が対応しております案件のため、コメントは控えさせていただきます」とメールで回答した。