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森口将之のカーデザイン解体新書 第31回 予算200万円で個性的なクルマを探すなら? 候補は「トゥインゴ」

2020年05月13日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
お金はあまり掛けられない。でも、デザインも走りも個性的なクルマに乗りたい。輸入車でありながら、この贅沢な悩みを叶えてくれそうな1台がルノー「トゥインゴ」だ。今年2月に追加された2つのグレードに試乗して、魅力をあらためてチェックしてみた。

○ベースモデルは179万円!

新型コロナウイルスの感染拡大で仕事に影響を受け、日々の生活にすら苦労しているという人もいるだろう。春は多くの人が新生活をスタートする時期でもあり、クルマが必要ではあるものの、今の生活のことを考えると予算を掛けられないという人もいるはずだ。

しかし、例えば予算200万円ぐらいであっても、輸入車の新車は買える。フォルクスワーゲン「up!」とルノー「トゥインゴ」だ。その中から、ここではトゥインゴを紹介したい。2019年8月にマイナーチェンジを実施し、2020年2月には2車種を追加するなどニュースが相次いでいることもあるが、デザインと走りの両面で、日本車では得られない楽しさがあるからだ。

日本仕様のトゥインゴには、1リッター直列3気筒エンジンに5速MTを組み合わせた「S」、0.9リッター3気筒ターボエンジンに6速デュアルクラッチトランスミッションを組み合わせた「EDC」(エフィシェントデュアルクラッチの略)、電動キャンバストップを追加した「EDCキャンバストップ」の3タイプがある。

価格はSが179万円、EDCが201万5,000円、EDCキャンバストップが213万5,000円で、全て200万円前後に収まる。ちなみにup!は2ドアが167万3,000円、4ドアが187万5,000円~となっている。

国産車を見ると、同じく2020年2月に発売となったトヨタ自動車「ヤリス」は1リッターCVTが139万5,000円から、1.5リッター6速MTは154万3,000円からとなっている。日本車と比べても、さほど高価ではないことがお分かりだろう。

しかもトゥインゴは、これらのライバルにはない特徴を持っている。リアエンジンリアドライブのRR方式であることだ。
○リアエンジンの経験が豊富なルノー

今の多くのクルマは、キャビンより前のノーズにエンジンを積んでいる。コンパクトカーはほとんどが、エンジンを横置きにして前輪を駆動している。ところがトゥインゴは、後席の背後にエンジンを横置きし、後輪を駆動する。

ルノーは第2次世界大戦直後の1946年に発表した「4CV」から長年、この方式を使い続けてきた経験がある。最近復活したアルピーヌ「A110」の旧型も、この時代のルノーのRRのメカニズムを用いて生まれた。

その後しばらくは前輪駆動に専念していたルノーだが、3代目となる現行トゥインゴの開発にあたり、他のコンパクトカーにはない個性を持たせたいという気持ちからRRへの回帰を決断。ダイムラーのコンパクトカー「スマート」との共同開発・生産により、実現にこぎ着けた。

ただし、スマートは今後、電気自動車(EV)専用になることが発表されており、ガソリンエンジン車は在庫限り。しかも、現在販売しているのはメルセデス・ベンツのAMGに相当する高性能版の「ブラバス」仕様のみで、290万円もする。よって、価格面でトゥインゴのライバルにはなりにくい。

トゥインゴとスマートのパッケージングは共通だ。全長3,645mm、全幅1,650mm、全高1,545mmというボディサイズは、ヤリスよりひとまわり小さい。それでも、前後席とも身長170cmの筆者が楽に過ごせる。キャンバストップを選べば、実寸以上の開放感を手に入れることもできる。

後方の荷室は、下にエンジンがあることを考えればフロアは低く、予想以上に使える。エンジンはリアに積みつつ、ラジエーターやバッテリー、ウインドーウォッシャー液のタンクなどはノーズに収めているからだ。

加えてトゥインゴには、フランスのコンパクトカーならではのデザインの魅力があることも忘れてはいけない。

顔つきは同じルノーの「カングー」に似て親しみが持てる。でも子供っぽくないのは、キャラクターラインが少ないので落ち着いて見えるからだろう。その中で前後のフェンダーを控えめに張り出し、グラフィックを加えたりして躍動感も出しているところが絶妙だ。ボディカラーはやはり、マイナーチェンジとともに設定された「ジョン マンゴー」に惹かれる。
○RRならではの走りはやはり独特

メーターやエアコンルーバー、シフトレバー周辺に丸を基調とした造形を取り入れたインテリアはフレンドリーな雰囲気だが、カラーコーディネートはブラック、グレー、ホワイトのモノトーン構成とすることで落ち着きを出している。このあたりのさじ加減は本当にうまい。

もうひとつ注目したいのは、エクステリアではサイドモール、インテリアではリアドアなどに、真横から見たトゥインゴの姿を図案化したアイコンを入れていることだ。細部まで手を抜かないというデザインへのこだわりを感じるし、オーナーにとっては所有する満足感を高めてくれるところだろう。

走りではまず、小回りがきくことに驚く。カタログに記された最小回転半径は4.3m。ちなみにup!は4.6m、ヤリスは4.8mで、軽自動車のホンダ「N-WGN」の4.5mすら下回る。実際に運転しても、普通のクルマでは無理な場所で簡単にUターンできる。前にエンジンがないことをいかした特性だ。

加減速でもRR方式の良さは感じ取れる。加速のときは駆動輪の後輪にさらに重みが掛かるので、滑りやすい路面で急発進しても前輪駆動車のようにタイヤが空転したりしない。ブレーキのときは逆にフロントに重みが掛かるが、トゥインゴはもともとリアが重いので前後の重量バランスが理想に近づき、安定してスピードを落とすことができる。

逆に、RR方式の欠点とされてきたのが高速安定性だが、現在は空力を利用して車体を路面に押さえつける技術も発達している。トゥインゴも例にもれず、100km/h巡航は安心してこなすことができる。

そしてハンドリングでは、前にエンジンがないことをしっかりと体感できる。ステアリングを切ったときの反応は、フロントエンジンのライバルとは別次元だ。昔のRR方式は、コーナーでアクセルを閉じたりすると後輪がいきなり滑り出して肝を冷やしたものだが、トゥインゴのグリップは安定しており、RRならではの身のこなしを安心して楽しめる。

このハンドリングを満喫したいなら、MTのトゥインゴSをお勧めする。エンジンはターボが付かないので力はほどほどだが、自分の手足でギアを選び、その力を速さに結びつけていくことが楽しいし、RRならではのハンドリングをよりダイレクトに味わえる。最も安いMTの輸入車でありながら、内に秘めた楽しさは高価なクルマに引けを取らない。

個人的にはこのトゥインゴ、サイズも価格も近いスズキ「ジムニー」に通じる存在だと感じている。カテゴリーは違うけれど、トゥインゴはRR、ジムニーはヘビーデューティ4WDという独特のメカニズムが味わいを伝えてきてくれるし、デザインで楽しめる点でも共通しているからだ。

○著者情報:森口将之(モリグチ・マサユキ)
1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。(森口将之)