トップへ

シェアハウス「盗難事件」共有冷蔵庫から消えた食料、盗んだ人を罪に問える?

2020年05月11日 10:11  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

家賃を抑えられたり、共同で使える家電や家具があったりとメリットが多いシェアハウス。しかし、1つ屋根の下に複数の他人が集まって共同生活をする中で、思わぬ「事件」が起きてしまうこともあるようだ。


【関連記事:37歳彼氏「ごめん。オレ、本当は50歳」 年収&年齢を大幅サバ読み、絶対に許さない!】



弁護士ドットコムにも、シェアハウスで暮らしている人から「共有リビングにある共有冷蔵庫の中から複数回食料を盗まれた」という相談が寄せられている。



●「窃盗罪」が成立する

相談者は、自分の食品には「相談者の所有物であること」「盗らないでください」などと記入していた。しかし、盗難を防ぐことはできず、これまで10回以上も被害にあっているという。相談者だけではなく、ほかの入居者も被害にあっているようだ。



「警察に相談しましたが、食べ物は貴重品ではないため、何もできないと言われてしまいました」と相談者は途方に暮れている。



星野学弁護士は、共有冷蔵庫から食品を盗む行為は「窃盗」にあたると指摘する。



「みんながお金を出し合って買った物(共有物)であっても、それを盗めば窃盗が成立します(共有物の管理をしていた人が盗んだ場合は『横領罪』となる可能性があります)。



ましてや、名前が書かれているほか『盗らないで』と記入した物を勝手に持ち出す行為は、ただ他人の物を盗んでいるだけです。



食べ物におおらかな土地の出身で勝手に人の食べ物を食べても怒られたことがない人、お裾分けを受けた程度と自分勝手な考えをしている人、そもそも他人を気にしない適当な人、食べ物くらいなら警察が動くことはないだろうと悪意のある人など、人の性格は様々です。



ただ、性格はともかく、犯罪に関する社会のルールである刑法によれば『窃盗罪』が成立します」



●入居者が安心して暮らすために必要なこと

「犯罪」であるならば、警察はなぜ動いてくれなかったのだろうか。星野弁護士は、次のように説明する。



「実際に『刑罰』という制裁を科す刑法を適用するには、それなりの罪の重さも必要となります。そのため、食べ物程度では警察がなかなか動いてくれないという実情もうなずけます。しかし、警察が動かないという実態が更に犯罪を助長しているのかもしれません」



このような状況において、シェアハウスの入居者が安心して暮らすためにはどうすればよいのだろうか。星野弁護士は(1)ルール・規約等の確認、(2)警察の協力を得ること、(3)自衛手段の検討が必要だと指摘する。



具体的には、以下のとおりだ。



(1)ルール・規約等の確認



「シェアハウスに入居する際、シェアハウスを管理する会社やオーナーから規約等をもらっていれば、確認してみましょう。『他人に迷惑をかける行為をしたら退去』という規約があれば、管理会社・オーナーに対応してもらいましょう。



ルールが定められていなければ、新たにルール作り(あるいはルールの変更)を検討するのも1つの方法です。たとえ食べ物程度であっても『他人の物を無断で持ち出せばルール違反としてシェアハウスを退去しなければならない』というルールを作ってしまうのです。



ただし、シェアハウスを管理する会社がある場合にはその会社あるいはシェアハウスのオーナーを含めたルール作りが必要になります」



(2)警察の協力を得ること



「被害金額が低いとしても犯罪は犯罪です。犯罪が繰り返されている、また、複数の被害者がいるという状況であれば、決して被害金額が小さいとはいえません。



このような事実をきちんと示して警察に被害届を出す、警察に記録が残るように文書で申入れをする、場合によっては弁護士に依頼して警察に被害届を提出するという方法もあります」



(3)自衛手段の検討



「たとえば、自分用の冷蔵庫を購入する、高価品については管理をきちんとするなどの方法です。入居者の了承を得たうえで、プライバシーを侵害しない範囲でカメラを設置するという方法も検討する余地はあるでしょう。



たとえば、冷蔵庫を撮影するウエブ対応カメラを設置して、入居者がインターネットを介していつでも確認できる、あるいは撮影対象を長時間録画できるようにしておくという方法が考えられます」  



●自分のために最善の方法を選択するのは「正しい判断」

もし、上記の方法をすべて試してもうまくいかなかった場合、どうすればいいのだろうか。星野弁護士は次のようにアドバイスする。



「シェアハウスといっても安心して暮らすための『自宅』です。もし、自宅にいて安心できない、ストレスあるいはそれを越えた怒りという感情が増加するという状況であれば、そのシェアハウスを去るという決断をすることも考えてみましょう。



もちろん、犯罪をおこなう人のために何らの罪のない人がシェアハウスを去るのは不当あるいは不合理だといえます。しかし、人生あるいは生活は勝つか負けるかだけではありません。自分のために最善の方法を選択するのは決して負けたわけではなく、正しい判断なのだと思います」




【取材協力弁護士】
星野 学(ほしの・まなぶ)弁護士
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。
事務所名:つくば総合法律事務所
事務所URL:http://www.tsukuba-law.com