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[Alexandros]、Suchmos、Mr.Children……熱狂を巻き起こしたスタジアムライブ カラー異なる各パフォーマンスの魅力

2020年05月10日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Mr.Children『Live DVD 「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25」』(DVD)

 ライブイベントの延期・中止が相次ぎ、再開の目処も立たないなか、たくさんのアーティストがライブ映像をネット上で公開している。この記事では、ロックバンドによるスタジアムライブの映像を3本ピックアップしたい。


(関連:[Alexandros]ライブ映像


 [Alexandros]は、2018年8月に行われたZOZOマリンスタジアム公演『VIP PARTY 2018』の模様を公開した。1曲目の「ワタリドリ」はストリングスのダブルカルテットを迎えた編成となっており、会場の規模に合わせたスケールの大きなサウンドを響かせている。このあとメンバーが一旦退場して再入場するのだが、これはある意味勇気のある構成だ。なぜなら、オープニングの壮大さに2曲目以降が気圧されてしまう危険性があるから。しかし直後の「For Freedom」でのバンドサウンドは骨太で、物足りなさなど皆無。そんなところから、路上ライブから始まったこのバンドの叩き上げの実力を読み取ることができる。


 オーディエンスの興奮は客席から湧き上がるシンガロングにそのまま表れている。元々[Alexandros]の観客は積極的にシンガロングをするタイプではあるが、それでもやはり、この熱量は特筆すべきものだろう。この日は[Alexandros]にとって初のスタジアムワンマンだった。そんななか、バンドの歴史をなぞるような物語性の高いセットリストが、オーディエンスの感情を焚きつけることに一役買ったのではないだろうか。途中にある、思いがけず発生したシンガロングにメンバーが感動するシーンも象徴的だ。


 2019年9月に横浜スタジアム公演を開催したSuchmos。今年6月10日、同公演の模様を収めたBlu-ray/DVD作品をリリース予定の彼らは、同公演のクライマックスを飾った曲「808」の映像を公開した。表拍(なかでも偶数拍)を強調する余白あるビートは広い会場に映えているし、その余白を埋めるような各楽器による細かいパッセージが楽しい。後半の浮遊感あるパートは、夜の野外というシチュエーションによく合っている。


 神奈川で育った彼らにとって横浜スタジアムはずっと憧れてきた場所。それにもかかわらず、笑顔でアイコンタクトを取りながら演奏に興じるメンバーの姿からは、スタジオでのセッションと変わらないようなリラックスした空気を感じる。今回公開された約6分間の映像のなかには、多くの人が「スタジアムロック」という言葉から連想するであろう光景――目に見える形で熱狂する観客の姿が収められていない。そもそもSuchmosの曲には盛り上がりのポイントを分かりやすく提示する曲はないし、どちらかというと時代の数歩先を行くような、ゆえに賛否両論を生む曲を発表してきたバンドだ。そうして6人だけで共有されていたグルーヴが、その純度を保ったまま、数万人を巻き込む規模のものになった。それこそがメモリアルなライブになった所以ではないだろうか。


 Mr.Childrenは、2017年9月に行われたデビュー25周年記念ツアー『Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25』最終公演の映像を公開した。1曲目の「CENTER OF UNIVERSE」が、大会場でライブをする機会の多いこのバンドのライブ巧者ぶりを端的に証明している。“ドッドッダン”というシンプルなリズムを軸とした、どっしり構えるオープニング。サビから刻まれるようになる8ビート。テンポが2倍になる2番。「さあ、来い来い来い来い!」と叫びながら花道へダッシュする桜井和寿。徐々に音数の増えていくバンドサウンド……。このように段階的に疾走感が増していく構成になっているのだ。これは昂らずにいられない。


 このツアーは7名のサポートミュージシャンを迎えた編成。桜井単独のアコギ弾き語りによる「Simple」から、計11名が全身全霊で鳴らす「ポケットカスタネット」まで、幅広いダイナミクスが実現できているのも特筆すべきポイントだろう。そしてアンコールのラスト、Mr.Childrenがロックバンドであることを改めて物語るような「終わりなき旅」の名演にも触れずにはいられない。翌年にリリースされた『重力と呼吸』がバンドの肉体性を打ち出すアルバムだったことを考えると、今思えばこの「終わりなき旅」は次への布石だったのかもしれない。


 スタジアムのような大会場でのライブの場合、演者のしぐさや表情などを肉眼で確認することはまず不可能だが、映像の場合はそれができる。このように、(生には生の良さがあるのと同様に)映像で観るライブには映像で観るライブだからこその良さがあるはずだ。これを機にいろいろなバンドのライブ映像を観ることをおすすめしたい。今まで知らなかったバンドのライブ映像にも、これまでたくさん観てきたはずのバンドのライブ映像にも、きっと発見があるはずだ。(蜂須賀ちなみ)