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柴咲コウ×ムロツヨシ×高橋一生の演技力が炸裂! 「転・コウ・生」が教えてくれた今の楽しみ方

2020年05月09日 13:31  リアルサウンド

リアルサウンド

「転・コウ・生」写真提供=NHK

 NHKが完全テレワークで製作したドラマ『今だから、新作ドラマ作ってみました』が、5月8日に放送された第3夜 「転・コウ・生」で終わりを迎えた。完全テレワーク製作という限られた条件ながら、三者三様の物語を見せてくれたが、最も大きなインパクトを与えたのは「転・コウ・生」と言っても差し支えないだろう。


参考:NHKテレワークドラマはいかにして生まれた? 見どころは“貢献度120%”の俳優たちの熱演


 新婚旅行が延期になった婚約済みのカップルを描いた「心はホノルル、彼にはピーナツバター」(満島真之介、前田亜季)、幽霊となった相手とPC越しにつながる「さよならMyWay!!!」(小日向文世、竹下景子)と、2作とも2人芝居の物語でテレワーク製作ならではの会話の面白さを最大限に生かした内容だった。離れているからこそ伝えられるもの、近くにいなければできないもの、どちらの大切さも2作を通して感じた人も多いのではないだろうか。


 対して、「転・コウ・生」は3人の役者(+猫)ということもあり、テレワーク製作でありながらいくつものカメラワークを駆使した“動き”がふんだんに散りばめられた、非常にアクロバティックな一作になっていたように思う。


 キャストは柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生、そして脚本が森下佳子と、大河ドラマ『おんな城主 直虎』のチームだ。名作と評判高く、特に柴咲演じる井伊直虎と高橋演じる小野但馬守政次の別れのシーンは、近年の大河ドラマの中でも屈指の名シーンとして挙げられている。そんな直虎チームがテーマとしたのは、「入れ替わりもの」という古典的手法であり、役者たちの演技力が存分に発揮されるものだった。


 タイトルはもちろん、先日逝去された大林宣彦監督作『転校生』のパロディ。さらに大ヒットしたアニメ『君の名は。』のテーマ曲「前前前世」を模した音楽、「これってもしかして、俺たち・私たち、入れ替わってるー!?」の台詞と、“狙っている”演出が展開していくのだが、柴咲、ムロ、高橋が全力の芝居で応えてくれるから笑わずにはいられない。


 中身がムロツヨシ(という設定)の柴咲コウは、変顔に鼻ほじりとこれまでにない新たな一面を見せてくれるし、中身が柴咲コウ(という設定)のムロツヨシは、心なしかとてもキュートに見えてくる。この2人だけのやり取りでも十分なのに、さらに猫と入れ替わった高橋一生まで入ってくるのだから大変。中身が猫(という設定)の高橋一生は目はうつろになり「にゃ~にゃ~」と鳴き徘徊、中身が高橋一生(という設定)の猫は、表情がやたら凛々しく知的に見えてくるから不思議だ。いずれもファンが「観たかった」演技とは違うかもしれないが、この作品でしか観ることができない演技となっているのは間違いない。


 さらに3人と猫は次々と入れ替わっていく。いずれも変化した瞬間に「いま、この人が入っているな」と感じられるのは、何気ない視線や表情、声の抑揚に変化が生まれ、“別人”になっていることがわかるから。『直虎』で培ったチームワーク、および普段から互いをよく理解しているからこそできたものだろう。


 3人+猫が織りなすドタバタコメディとしても十分楽しめるが、最後にしっかりと“今”を描いてくれるのが流石の森下脚本。「こちらが臨機応変にやっていくしかない」「希望は捨てない。でも、この前提で変わっていけばいい」「それが自分たちのためになればいい」と最終的に3人は、「元の体に戻らないこと」も受け入れ、現状を楽しもうとする。戻れないなら新しいことを受け入れ挑戦すればいい。それはまさに、新型コロナウイルスによって日常が一変してしまった私たちにも言えることだろう。もちろん、そんな悠長なことを言っていられない現状の方々もいる。だが、変化することに抗い、何も得ることができないまま終わってしまうよりも、少しでも現状を受け入れ前に進むことで開ける道もあるはず。「転・コウ・生」は、笑いの中に噛み締めたいメッセージが詰まった、“今”ならではのドラマだった。(石井達也)