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山梨の感染女性中傷、エスカレートする「ネット私刑」の法的問題をかんがえる

2020年05月09日 09:42  弁護士ドットコム

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山梨県内に帰省中に、新型コロナウイルスに感染していると判明した都内在住の女性へのバッシングが止まりません。


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報道をきっかけに、ネットでは女性の名前や住所、勤務先、顔写真を特定する行為がエスカレート。中には、真偽不明の情報も入り混じっています。



こうした私人が他人に社会的な制裁をくわえる「ネット私刑」の動きは、法的に問題になることがあります。



●勤務先のデマ情報も

報道によると、女性は味覚などに異常を感じていたものの、4月末に都内から山梨県へ帰省。友人らとバーベキューなどをして、5月2日に感染が確認された後、高速バスで都内に戻っていました。



こうした経緯が報道されると、ネットでは「とんでもないクズもいる」「マジで犯罪者やんこの女」と批判が殺到。卒業アルバムの写真や女性が過去にツイッターにアップした写真などが拡散されています。



たとえば、女性の勤務先について、「マリアージュフレール勤務にてパティシエ」と断定するツイートがありました。しかし、マリアージュフレールは5月4日、HPで否定。「風評被害に関しては、法的措置も視野に厳正に対応していく」とコメントを発表しています。





さらに、一緒にバーベキューをした友人として、ネットで名前が挙げられた人もいました。しかし、実際はまったくの無関係。勤務先の関係者はFacebookで「噂を流した方への、損害賠償請求も辞さない覚悟です」と表明しています。



●民事上も刑事上も問題になり得る

ツイッターに女性の顔写真をアップしている人の中には、「なにが悪いの?ただネットに転がった情報を乗せただけよ。この女の危機意識が低いのよ」と反論する人もいました。



しかし、こうした「ネット私刑」には数々の法的な問題があります。



まず、写真の拡散は、肖像権の侵害にあたる可能性があります。また、他人の名誉を毀損する書き込み内容であれば名誉毀損、氏名や住所、写真など個人情報を公開することはプライバシー権の侵害となる可能性があります。



ネット上でデマを発信する行為はもちろん、シェアやリツイートで広める行為についても、他人の権利を侵害すれば、損害賠償義務を負うこともあります。被害者は投稿者や拡散に関わった人に対して、損害賠償請求ができます。



2019年8月に発生した、茨城県守谷市の高速道路で起きたあおり運転事件では、事件と無関係なのに、映像にうつった女性被疑者とサングラスや服装が似ているという理由だけで、「ガラケー女」とデマを流された女性がいました。





女性は、ツイッターでデマを拡散した人やトレンドブログの運営者など複数人と和解が成立。損害賠償請求の前段階となる発信者情報開示請求をすすめています。また、元豊田市議に対しては、慰謝料100万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こし、判決が控えています。



また、刑事上の責任を問われる可能性もあります。社会的評価を低下させる書き込み内容であれば、名誉毀損罪が成立することもあります。最近では、タレントの川崎希さんを侮辱する内容を掲示板に書き込んだとして、女性2人が侮辱容疑で書類送検されました。



インターネットは、「完全な匿名」ではありません。真偽不明な情報に安易に飛びついたり、過剰にバッシングをしたりすると、違法行為に当たる可能性があります。