「組織の多様性」や「ダイバシティ」を、多くの人は無条件に良いものと捉えているのではないでしょうか。おそらく無意識のうちに、社員の多様性の高い会社は創造性や生産性が高くなるということが前提となっているのではないかと思います。
しかし、実際にはそれほど単純な話ではありません。多様性が組織にどのような影響を与えるのかについての研究によれば、一概に効果があるという結果にはなっていないようです。それはなぜなのでしょうか。(人材研究所代表・曽和利光)
「ダイバシティ」を高めて苦労した創業期
私事で恐縮ですが、実は私自身「多様性」で失敗した経験があります。以前は私も「多様性が高い組織がよいのだ」と思っていたので、起業したばかりの小さい会社なのに、とても多様性の高い会社を作ってしまったのです。
40歳の社長の私が真ん中の幅広な会社で、社員のキャリアもバラバラ。人事経験の有無も問わず、出身も大企業、中小、ベンチャー、業種など多種多様でした。
立ち上げ当初は同質性や凝集性の高いチームがいい、というのが定石とは知っていました。しかし「いちど最初から多様な人を入れてみたらどうなるだろう?」とチャレンジしてみようと考えたのです。
そして、あまり採用基準を固めすぎずに「来るものは拒まず」的スタンスで応募者を迎え入れました。リクルート時代とは逆のスタンスです。しかし、これが苦労の始まりでした。一人ひとりは皆いい人なのに、集まるとぶつかり合う。しかも、それぞれキャリアのある方々ばかりだったので、表面的には大人の対応をします。
でも、それはあまりよい状態ではありません。結局、裏で愚痴を言ったり批判をしたりするからです。事業自体はほとんど問題なかったのですが、私の日々の悩みは「どうすればメンバー同士が分かり合ってくれるのだろうか」ということばかりでした。
「多様性」が高いとマネジメントが難しい理由
いろいろ努力したつもりでしたが、なかなか中の仕事ができずに外回りばかりだったので、結局、中途半端なことしかできませんでした。そしてお互いに誤解し合いながら、分かり合えないままに退職していく人が続出しました。
彼らが悪いわけではありません。ひとえに経営者の私の至らなさゆえであり、あのころの皆さんには申し訳なく思っています。多様性が高い組織のマネジメントはとても難しいのに、その力量が私になかったということです。
多様性、ダイバシティはきれいな言葉ですが、実際には「価値観の違う人が隣にいる」ということで、言い換えれば「異質性」が高いということでもあります。
人は自分に似ている同質な人には高い評価をして好意を持ちやすいのですが、似ていない異質な人には辛い評価をしてしまいがちです(類似性効果)。そのため、異質性が高い組織は社員の良い人間関係をなかなか築きにくいのです。
もちろん「牽引型のリーダー」と「素直なフォロワー」のように、「異質ではあるが補完関係にある」という場合もあります。しかしそういった場合でも、一定期間「誤解を解く」「相互理解を進める」ことにコミュニケーションコストをかけなければ、その良さを発揮できないままになってしまう可能性があります。
「異質性の高さ」は万能ではない
また、異質性の高さが組織の創造性に常につながるのであれば、コミュニケーションコストのかけがいがあるものですが、実はそこにも条件があるようなのです。
既存のものを「改善」していく創造性と、既存のものを「破壊」して全く新しいものを生み出していく創造性を考えたとき、研究によれば、前者の改善の創造性はむしろ同質性の高い集団内での方が発生しやすいということなのです。
多様性は後者の破壊的創造性と相性がよいとして、どれだけの会社が「破壊」レベルの創造性を必要とするのでしょうか。ちなみに、人事コンサルティング会社である私の会社は、当時は破壊よりも改善が必要でしたので、見当違いなことになってしまっていたわけです。
以上のように考えると、必要なのは「とにかく多様性」ではなく、多様性をどう導入するかは、組織が目指すものや発展のステージによって異なると言えましょう。
事業の方向性が決まっていて、勝ちパターンもある程度分かっているのであれば、「破壊」的な創造性は当分不要ですから、コミュニケーションコストがかからない同質性の高い組織を作る方がよいということになります。
同質性が高ければ、同じマネジメント手法には同じ反応をしますので、全員を一つの方向に向かせることも比較的容易になります。そうすれば組織全体としては大変効率的なチームとなるはずです。
大事なのは「良い相性」のチームを作ること
事業や職務内容にマンネリ化が生じてきて、破壊的な創造性が徐々に必要となり、多様性を高めなければと感じたときでも、単純に「異質な関係」を導入すればよいということにはなりません。
きちんと補完関係にあるパーソナリティの人を揃えて組み合わせなければ、マイナスばかりが増えてしまいます。つまり、組織の課題と構成員にとって「相性の良い人」を採用し、配置を行うべきであるということです。
まず自社の事業が、どのような組織を必要としているのかを考えることが先決です。そして単純に多様性と考えるのではなく、「こんな人がこれくらい欲しい」と人材の理想のポートフォリオをきちんと考えて、解像度高く組織の設計をしなければなりません。
ざっくりと「みんな違って、みんないい」では、私が陥った同じ過ちを皆さんも繰り返してしまうかもしれません。ぜひご注意ください。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。著書に『コミュ障のための面接戦略 』 (星海社新書)、『組織論と行動科学から見た人と組織のマネジメントバイアス』(共著、ソシム)など。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/