2020年05月08日 10:31 弁護士ドットコム
「お代、ここに置くよ」ーー。テーブルにお金を置いて、店をあとにする。小説やドラマに出てきそうな、ちょっと粋なシーンです。
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実際、ある元雑誌記者によると、張り込みで喫茶店を使ったとき、急いで取材対象を追いかけるためにやったことがあるそうです。
3月には新型コロナウイルス問題でレジに長い行列ができ、待ちきれなくなった客が「お釣りはいらない」とお札を置いて、出て行ったという事例がネットで報告されていました。
不足がなければ、大きな問題にはならないのでしょうが、お金を払っていたとしても、レジを通さずに外に出て大丈夫なのでしょうか。法的な見解を大久保誠弁護士に聞きました。
法的には、申し込みと承諾の意思表示が合致すれば、契約成立となります。
「スーパーなどでは、一品ごとに値段が分かるように商品が陳列されています。お金を払ってくれる人であれば、買主は誰でも構わないのですから、この陳列自体が売買契約の『売却』の申し込みと考えられます。
それに対する『買う』という承諾はいつでしょうか。商品を手にしたときや買い物かごに入れた時点でしょうか。しかし、その後商品を別の物に替えたりすることはよくあることです。
売買代金を支払おうとしてレジに提示した時点が承諾行為があったとみなされて、売買契約が成立すると解されます」
すると、レジを通さない場合はどう解釈できるのでしょうか。
「その場合には、売買契約自体が成立しておらず、商品の持ち出し行為は窃盗ということにもなります」
お金を払っていても法律上は、万引き行為と解釈される余地があるようです。ただし、大久保弁護士は「常に窃盗になるとは限りません」と言います。
いったいどういうことなんでしょう。
「たとえば、『商品の数が少なくて、その合計額がすぐに計算できるようにレジ係に見せた』状態で、合計額に見合う金銭を置いていった場合には、売買契約が成立し、かつ売買代金の支払いもあったと考えることができます。
この状態で、置いていった金銭が少ない場合には、売買契約は成立したが代金支払義務の一部不履行ということになります。
置いていった金額が多い場合ですが、釣り銭の受領を放棄していると考えられますので、超過額はお店のものになります」
行列ができるようなシチュエーションではなかなか難しそう。というか、処理が面倒で店の迷惑になりそうです。
一方、喫茶店などの飲食店ではスーパーと違って、客が注文した時点で、売買契約が成立したと考えられる形態が多いと思います。
この場合、テーブルにお金を置いて帰ること自体は犯罪にはならなさそうです。ただし、わざと少ない金額を払おうとしたなどの故意があれば、詐欺罪(≒食い逃げ)に該当する恐れがあります。
【取材協力弁護士】
大久保 誠(おおくぼ・まこと)弁護士
ホームページのトップページに写真を掲載しているように、野球が趣味です。
事務所名:大久保法律事務所
事務所URL:http://www.ookubolaw.com/