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朝ドラ『エール』で進化した『ラストコップ』の世代差バディ 窪田正孝×唐沢寿明の信頼感

2020年05月08日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『エール』写真提供=NHK

 連続テレビ小説『エール』(NHK総合)で、主人公の父・古山三郎を演じているのが唐沢寿明だ。幼い裕一(窪田正孝)にクラシックを聞かせ、音楽家になるきっかけを作った三郎は、音(二階堂ふみ)との結婚を後押しするなど身近な場所から裕一を見守る。


参考:『エール』は“戦争の時代”をどう描く? 辻田真佐憲著『古関裕而の昭和史』から読み解く


 三郎と裕一は親子ではあるが、年の離れた友達のような関係だ。国際作曲コンクールで入賞した裕一を祝って飲みに誘うなど、養子に入った息子を案じながらも、誰よりも活躍を喜んでいるのが三郎である。商才に恵まれない三郎だが、『エール』ではコメディタッチの演技が光っている。第1話で裕一が生まれた喜びのあまり町を走り回ったり、裕一を追って豊橋の関内家を訪れる場面(第23話)では、光子(薬師丸ひろ子)がこぼしたお茶に足を滑らせるなど、軽妙な演技でストーリーを牽引している。


 これまでも窪田と唐沢の共演はあったが、中でもダブル主演を果たした『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ系)は2人にとって記念碑的な作品だ。単発のスペシャルドラマとしてはじまった同作は、2016年に連続ドラマ化、『another story』として動画配信サイトHuluでスピンオフが配信され、最終的に『LAST COP THE MOVIE』(2017年)として劇場版が公開されるなど大きな反響を巻き起こした。


 30年ぶりに意識を取り戻した京極浩介(唐沢寿明)が若手刑事・望月亮太(窪田正孝)とバディを組む異色の刑事ドラマは、多すぎる爆発ネタや派手なワイヤーアクションとともに2人のかけ合いが見どころだった。「俺は不死身だ」、「刑事の勘」が口癖の京極に振り回される亮太の絶叫や、2人のコンビネーションは回を追うごとに冴えわたり、連続ドラマ最終回で警察署のシーンを生放送するまでに至った。


 足かけ3年にわたる共演を通じて、唐沢と窪田の間には強固な信頼関係が育まれたはずだ。劇中でも、京極の娘である結衣(佐々木希)が亮太と恋人になるなど疑似親子関係が生まれていたが、ついに『エール』で実の親子を演じることになった。


 『THE LAST COP/ラストコップ』の京極は亮太より年上だが精神年齢は20代であり、対等なバディとしての関係が成立していた。これに対して『エール』では「家」をめぐる父と子の葛藤も描かれている。呉服屋の経営が傾き、義理の兄から融資を受けるため裕一を養子に出すことを伝える場面で、三郎の「(音楽を)諦めんなよ」というセリフに対して、「残酷だよ、父さん」と裕一が言葉に詰まってしまう場面もあった。


 再共演にあたって、唐沢は「窪田くんが主演だから出演のオファーを受けたんですよ。才能ある彼を応援したい」と語っている(引用:インタビュー 古山三郎役・唐沢寿明さん しんみりしたシーンでもポップに跳ねて演じています|NHK連続テレビ小説『エール』)。また、窪田も「本作では本当の親子となれて、また新しい境地に行ったなと思っています」(参考:窪田正孝が明かす、『エール』モデル・古関裕而とのシンクロ 「“愛情”を皆さんに届ける半年間に」)とコメントしており、まさに相思相愛の関係性が窺われる。


 『利家とまつ~加賀百万石物語~』(NHK総合)で松嶋菜々子とともにダブル主演を務め、最近では『とと姉ちゃん』(NHK総合)で主人公の常子(高畑充希)が創刊する「あなたの暮し」編集長の花山伊佐次を演じるなど、朝ドラや大河ドラマで代表作を残してきた唐沢は、窪田にとってその背中を追う存在であり頼れる先輩。また経験を積んで朝ドラの主演をつかみ取った窪田は、唐沢から見てかわいい後輩なのだろう。唐沢の言葉からは役者としての窪田に対する信頼感が伝わってくる。


 共演歴のある俳優たちが作品で再会する姿を目にすることは視聴者にとって嬉しいことだ。ちなみに『THE LAST COP/ラストコップ』で京極と亮太の同僚を演じた松尾諭は、『エール』でも裕一が勤める川俣銀行の同僚を演じているほか、三郎の妻役で出演する菊池桃子は、2019年放送の連続ドラマ『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)に唐沢演じる樋口彰吾の妻として登場する。円熟味を増した役者たちの饗宴が『エール』の世界をさらに魅力的なものに変えている。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。