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半田付けキット、携帯ビデ、BDSMバーチャルレッスンなど…… コロナきっかけに登場した奇妙なクラウドファンディング

2020年05月06日 18:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「新型コロナウイルスの脅威が広まるにつれて、クラウドファンディングサイトKickstarterで新型コロナ関連のキャンペーンが増えてきた」……という文章からどんなキャンペーンを想像するだろうか?


 想定範囲内のものから意外なものまで、筆者が見かけた新型コロナ関連キャンペーンの数々を、高尚なものも、ともすれば不謹慎なものも、全部ひっくるめて40くらいざっとご紹介していこう。


(参考:「マスク」と「ドア開けツール」が急増……新型コロナ禍、クラウドファンディングで増えたキャンペーンを調査


・トイレットペーパーの代替品に携帯ビデ
 新型コロナウイルスに関連して、TPことトイレットペーパー不足が日本で起きたのは記憶に新しいだろう。これは日本以外でも起きた現象であり、それをネタにしたキャンペーンも見られた。


 2020年の「20」とTPを刺繍であしらったTシャツのような風刺的なものもあれば、より真面目なものでは携帯型のビデや、洗って何度も使える布製の尻拭き「ペーパーレス」ワイプというものも。


 「なにそれ、冗談かよ(笑)」と思われる方もおられるかもしれないが、文化によってはビデやその他の方法によりトイレットペーパーを使用せずに臀部を清潔に保つところもあったりするし、日本でも紙おむつが普及するまでは洗って何度も使う布おむつが主流だったことを考えれば、TPが無くなったら布製尻拭きも十分あり得る代替手段だ。


 他にもトイレ関連では、トイレレバーを使用した後に動きを検知してUVライトを照射殺菌するガジェット、しっかり手洗いに必要な20秒間明かりの灯るソープディスペンサーもあった。


・子供もオトナも遠隔教育
 テレワークにせよ遠隔教育にせよ、新型コロナのせいで自宅でずっと過ごしていてつまらないという人のために、教育を提供するためのキャンペーンもある。


 自己隔離で暇な子供のための半田付けキット、既存の子供向け教育ボードゲームの「e-エディション」、自閉症の我が子と作った自閉症の子供向けにコロナウイルスを理解してもらうためのコミック。


 「大人向け」な内容の教育キャンペーンの方では、オンラインサーカス/ファイアーパフォーマンスのライブ動画やワークショップや、キンキー・サロンのアーティスト達からポールダンスやドラァグクイーンメイクとかBDSMなどのバーチャルレッスンなどが受けられるというものがある。


・ボードゲームやトランプなども
 ゲーム系キャンペーンにはパンデミック状況をネタにしてゲームを作っているものも多くみられ、そのほとんどは「COVID-19パンデミックを馬鹿にしているわけではありません」といったような前置きをつけている。教育的なものや、利益の一部を寄付するといったものもあるとは言え、ものによってはその内容が不謹慎と感じられるものもあるだろう。


 中でも新型コロナウイルスの状況はボードゲームクリエイターの(そしてこれまでボードゲームを作ったことのない人たちの)インスピレーションともなったようで、きちんと作られたものから手作り感溢れるものまで見られた。


 『Clinic』(クリニック)という既存のボードゲームのCOVID-19エクスパンションや、TPを買うために店に行くにはマスクと手袋も買わなきゃ行けないボードゲーム、自己隔離に暇を持て余した10歳の子供が作った新型コロナをテーマにしたボードゲーム、54歳のコンピュータ・ハードウェア・エンジニアが作ったウイルス治療のためクリニック巡りをするボードゲーム。


 ボードゲームよりもシンプルなカードゲームでもコロナをテーマにしたものが存在する。コロナから市民を守るというカードゲーム、TPを蓄え込むカードゲーム、変わりどころではワクチン/投薬/抗体により新型コロナやHPVをやっつけるという内容の微生物学者准教授が作った微生物学カードゲームもあった。


 カードゲームとは別に、新型コロナウイルステーマにしたトランプというのも。これは普通のトランプに新型コロナウイルス対策情報が記してあるものや、普通のトランプに新型コロナウイルス対策をピクトグラムで表したものだ。私の理解の範囲を超えた世界ではあるが、世の中にはトランプコレクターという沼も存在するのか、Kickstarterでは日頃から様々なデザインのトランプのキャンペーンや、トランプデッキ収納用ボックスキャンペーンなどもあるので、もしかしたらその延長上としての存在なのかもしれない。何年も経ってから「ああ、こいつは2020年の新型コロナ危機の時に作られたレアなデッキなんだぜ。今日はこいつで一戦交えようか」と言って神経衰弱をするのだろうか……。


 自宅にずっといて何をすれば良いのか判らないという人のためのダイスというのもあった。各面は「Netflix」、「Tiktok」、「Spotify」、「YouTube」、「ビール」、「セックス」、を示しており、サイコロを振って出た目のことをするというわけ。ルーク・ラインハートの小説『ダイスマン』の主人公のような自宅隔離生活が送れる。


 このほかスマホ用にウイルスをやっつけるARゲームのキャンペーンもあったが、このほかにデジタルゲームは見当たらず、カードやボードゲームのような物理的なゲームが多いのは面白い傾向だ。


・アート、本、映画、ジャーナリズムは資金集めに苦戦か
 コロナウイルスからインスピレーションを受けたものの中には、映画や本、アートなども見られる。しかしこれらはどれも資金集めは上手くいっていない。


 COVID-19のナラティブ・ドキュメンタリー映画制作に資金を募るものや、コロナテーマのアクションドラマ映画を作りたいという淡い願望から適当なキャンペーンを作るもの、コロナ後の生活に関する本を出版したいというもの、スペイン語の詩と絵で綴るパンデミック下の生活、最近妻を無くした(コロナは関係ない)著者による『Love and the Pandemic』(愛とパンデミック)という本、コロナにインスパイアされたアート、フォトジャーナリストの捉えたボンダイビーチ。


 4月30日の記事執筆時点ではどれも目標金額には達成できておらず、唯一ドキュメンタリー映画のみが約5万円という控えめな目標金額の40%ほどを集めているのみだ。


・アプリ&ウェブサービス
 隔離を受けてどの国でもデジタル化に向けて加速が始まった感があるが、これに関連したアプリケーションやウェブサービスを作るというキャンペーンも見られた。


 テレワーク用オンラインプラットフォーム、コロナ後の世の中をターゲットに現実世界でのソーシャル性を促進するためのアプリ、日常的にコロナによる悲劇に接する医療関係者たちにポジティブな情報のみ見せるというアプリなんていうものも見られた。


 しかしこれらもコロナ状況下で人々の心(と財布)を掴むことができなかったようで、どれも成功していない。


・その他諸々
 そのほかにもコロナウイルス関連キャンペーンは山ほどある。


 手首に装着できる消毒液ディスペンサー、電池入れ替えの面倒さを解消したハンドクランク式(!)の赤外線温度計、スマートフォンに付けるUVライトといったガジェット/ツール。


 医者や看護師、救急隊員、など、コロナと戦う勇者達にあげるためのギフトコインのキャンペーン、Tシャツブランドを作りたい子供に資金を集めるために「F*** Coronavirus」と書かれたシャツをリワードにしたキャンペーン、コロナを受けてちょっと話題となった「ペスト医師」を象ったピン、顔を触ろうとすると警告するスマートウォッチ用アプリもあった。


 意図的かどうかわからないもののキャンペーンイメージがどう見てもコロナウイルス的な「エナジー・エクスチェンジ」プラットフォームを作るというキャンペーンがあったのも興味深いところだ。


・終わりに
 今回紹介したキャンペーンの半数以上が執筆時点で資金調達に成功できていない。


 「コロナだ!儲けよう!」と適当に考えた(ように見える)キャンペーンが成功していないのは当然だが、一見資金が集まりそうなものも失敗している裏には、レイオフや仕事を無くすなどして、これまでクラウドファンディングによく出資していた人達が自由に使える資金を失っているなどの影響もあるのだろうか。と当初は考えていたが(実際影響はゼロではないだろうが)、一方ではコロナに関連していないスキレットやミニチュアや抱き枕、動物スケッチや猫用体重計などのキャンペーンは資金調達に成功している。


 すでにコミュニティーが形成されているジャンル(トランプとかピンバッジとか)や、これまですでに資金調達に成功しているキャンペーン主によるものの方が成功しやすいというのも、平常時と同様の傾向だ。それを考えると、やはり準備期間の短さやそれに起因するキャンペーンのクオリティーの低さ、そして、「コロナがテーマになっているキャンペーン」というだけで、やはりどれもコロナ危機に便乗したようなネガティブな印象を受けてしまうのかもしれない。


(Yu Ando)