2020年05月06日 09:12 弁護士ドットコム
働き方改革が叫ばれる中、昨年から年間5日の有給休暇取得の義務化がはじまりました(年次有給休暇が10日以上付与される労働者)。「年間たった5日」とも思いますが、中小企業にも適用されるし、罰則規定もあることから、とりあえず最低限の日数を定めて、今後法改正で増やしていくつもりなのかもしれません。
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日本人は、勤勉な国民性なので、夏休みや年末年始以外には長期の休みを取る人はほとんどいません。一方で、ゴールデンウイークなど、日本の祝日は世界的に見ても多い方です。つまり、日本では同じ日にみんなで休んでいるわけです。
今年はコロナウイルス騒動で例外的な状況ですが、例年、連休ともなると道路は渋滞し、宿泊施設は予約が取れないか、取れるとしても、高い休前日料金で泊まるしかありません。このように、「みんなで働き、みんなで休む社会」は、果たして合理的なのでしょうか。(ライター・メタルスライム)
OECDの2016年の資料によると、以下のとおり、日本は欧米諸国よりも祝日が多いことがわかります。
ちなみに、2016年に「山の日」が追加されたため、日本の祝日数は16になりました。祝日が多いというのは、日本や韓国が恵まれているというより、有給休暇が取りづらい環境にあるので、国の政策として祝日を多くして休暇を強制的に取らせているとも言えます。それを裏付けるのが次の有給休暇取得率です。
エクスペディアが調査した「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018 」によると、主な国の有給休暇の取得率(取得日数/支給日数)は次のとおりです。取得日数の多い順に並べています。
これを見てわかるように、日本は、取得日数でも取得率でも最下位になっています。韓国は、取得率は高いですが、支給日数が少ないので、日本より4日多いだけです。アメリカが意外にも少ないように思うかもしれませんが、アメリカは、厳しい競争社会ということもあり、エリートほど休まず働く人が多くいます。他方、ドイツ、フランス、スペインは、30日も支給日数があって、それを100%消化しているというのがすごいところです。
日本は、祝日が多く、有給休暇の取得率が低いことがわかりましたが、諸外国に比べ日本の労働生産性は高いのでしょうか。公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較(2019) 」によると、時間当たりの労働生産性は、先進7カ国で最下位となっています。
アメリカ 74.7ドル/1時間
ドイツ 72.9ドル/1時間
フランス 72.2ドル/1時間
イギリス 60.6ドル/1時間
イタリア 57.9ドル/1時間
カナダ 54.8ドル/1時間
日本 46.8ドル/1時間
日本は「経済大国」と言われてきましたが、この数字を見ると、日本がいかに多くの時間を使って付加価値を生み出しているかがわかります。つまり、他の国より多くの時間働いているから経済大国になっているだけで、労働生産性という観点からは決して優秀ではないということです。
言い方を変えれば、日本は非常に効率が悪い仕事をしているということです。同じ工業国であるドイツの年間労働時間が1,363時間(2018年)であるのに対し、日本は1,680時間(2018年)と317時間も多いのです。
あなたの周りにも、定時に帰りづらいからと仕事もないのに残業する人、日中はおしゃべりをしていて定時に仕事が終わらないからと残業する人、残業代が欲しいからと無駄に残業する人など、労働生産性を低くしている社員がいるのではないでしょうか。
これまでの日本の会社では、夜遅くまで残業する人は「よく頑張っている人」で、定時に帰る人は「やる気のない人」と評価されてきました。だからこそ、無駄な残業をする人が多いとも言えます。
プロの世界では、期限までに仕事を終わらせることが評価され、期限よりも早く仕事を終わらせればより優秀と評価されます。それがなぜかサラリーマンだけは、定時までに仕事を終わらせた社員より、定時までに仕事を終わらせることができない社員が評価されるというおかしなことになっていたのです。
このように書くと、定時に終われるような業務量ではないとの反論が聞こえてきそうです。しかし、仮にそうだとすると、日本人全員が最大限無駄なく効率よくやっても残業は避けられないのなら、先進諸国の国民に比べ、日本人の能力が低いということを認めることになります。果たしてそうでしょうか。
日本人は優秀だけれども、まだまだ無駄なことや非効率なことが多いのではないでしょうか。「全員定時に帰るべき」と言っているわけではなく、効率よくやって、それでもやるべき仕事があるのであれば、残業するのは当然です。ただ、そうなっていない会社がたくさんあるのではないかということです。
また、休暇が取りづらいことも労働生産性を落としている原因のひとつと考えられます。「自分が暇でも他の人が忙しいと休みづらい」とか、「長期間休んでは会社に迷惑を掛ける」など日本人は自分の都合よりも他人の目(上司や同僚)を気にします。
その結果、仕事がないのに休みづらいからと形式上勤務し、仕事が忙しい時でも祝日はしっかり休むわけです。非効率以外の何物でもありません。これは、「和を以て貴しとなす」という日本文化の良い点でもありますが、労働生産性という観点からは、もっと自由に休める社会にしていかなければなりません。
冒頭でも述べたとおり、日本は、みんなで働き、みんなで休みます。今年はコロナウイルス騒動で例外的な状況ですが、例年、休日は渋滞になり、宿泊施設の予約も取れなくなります。予約が取れた人は、渋滞でうんざりしながら、高い宿泊料金を取られます。
予約が取れなかった人は、休暇を有意義に使うことができず、リフレッシュすることができません。これでは、どちらにせよ仕事でよいパフォーマンスが出せるわけがありません。また、ホテル側にしても予約が取れなかったことは機会損失になっているわけです。
もし、休暇を分散して自由に取れるようになれば、渋滞は緩和され、宿泊料金も平準化します。出掛けたい時に出掛けることができ、快適な道路でリーズナブルな宿泊料金で泊まることができるようになります。
レジャーや買い物など消費が増えるので、経済の活性化にもつながります。ホテルや旅館も休日を前提にした収容人数にする必要がなくなり、経営効率の改善が見込まれます。また、機会損失も最小限に抑えることができます。
休暇の分散取得の有効性は、考えれば誰でもわかることです。それなのに、実際に実現しないのは、やはり休むことに罪悪感を感じる日本の国民性にあります。有給休暇がいくらあっても本人が休むと言わなければ、休暇の分散化は進みません。
これを変えるためには、有給休暇の取得義務化の日数を増やすしかありません。クールビスやコロナウイルスによる活動自粛のように、政府が指示すると皆従います。これもまた「お上の命には従う」という国民性によるものです。
もっとも、有給休暇の義務化の日数を増やすとなると経済団体から反発があるでしょう。この問題を解決する方法としては、祝日を減らせばよいのではないでしょうか。
例えば、祝日を5日減らして、有給休暇を5日増やし、かつその5日間は必ず休むことを義務付けるということです。世界的に見ても日本の祝日の日数は多いので、有給休暇の増加と抱き合わせて法律を改正すれば反対する人は少ないと考えられます。
企業としては祝日が減った分稼働日が増えるので、その代わりに有給休暇を付与しても理論上は何もかわらないはずです。ただ、すぐに祝日を減らすことは難しいと思うので、段階的に祝日を減らしていく必要があるでしょう。
働き方改革を掲げることは大事ですが、日本が国際社会で勝ち抜いていくためには、無駄な時間を減らし、休暇を有効に使いながら労働生産性を高めていかなければなりません。