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『僕の心のヤバイやつ』市川と山田の関係性に急展開か? 考察系ラブコメの面白さ

2020年05月05日 17:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『僕の心のヤバイやつ』3巻

 『僕の心のヤバイやつ』に新たな展開が訪れるのではないかと、SNSで期待の声が上がっている。本日5月5日に公開された「Karte.44」のサブタイトルにある変化が起こり、それが主人公二人の関係性の進展を表しているのではないかと、推測が広がっているのだ。


参考:陽キャ美少女×陰キャ少年の恋が生まれた瞬間はいつ? 『僕の心のヤバイやつ』のムズムズした関係


 『僕の心のヤバイやつ』は、桜井のりお作の青春ラブコメディー漫画。中学二年生で、いわゆる“中二病”真っ盛りの少年・市川京太郎と、クラスの人気者でモデルも務める同級生・山田杏奈の微妙な関係性を、繊細かつ含みのある描写で丁寧に表現した作品だ。シンプルな絵柄でさらりとした読み心地ながら、よく読むと一コマ一コマの描写の中に登場人物たちの複雑な心理が反映されていて、ラブコメとしてのクオリティはもとより、その読み解きの面白さでもSNSを大いに湧かせている。当サイトでタニグチリウイチ氏が指摘するように、いつの間に二人が両思いになっていたのかを読み解くのは難しく、新しい話が出るたびについ読み返してしまうのも本作の特徴だ。(参考:陽キャ美少女×陰キャ少年の恋が生まれた瞬間はいつ? 『僕の心のヤバイやつ』のムズムズした関係)


 物語は基本的に市川の一人称で進み、彼は山田を観察しつつ、内心で「ヤバイ」妄想を膨らませているのだが、その妄想は中二病というフィルターを通して生まれたものであり、読者の目線からはその「ヤバイ」妄想がピュアな恋心であることが透けてみえるのも面白いところだ。市川の、恋心を認めることに対する心理的な抵抗は、きっと誰しもが経験したことのあるものだろう。相手が自分とは住む世界の違う、手の届かない存在であればあるほど、そうした恋心に素直になることは難しく、むしろ露悪的に解釈しようとしてしまうのは自然な心の動きである。


 対する山田の行動は、市川にとって不可解であると同時に目の離せないものである。モデルを務めているだけあり、他のクラスメイトの女子よりも身長の高い山田だが、性格はあどけないところがあり、自分より小さな女子から妹のように扱われていたりする。明るくて友人が多い陽キャであることに間違いはないのだが、そのイメージとどこかミスマッチな振る舞いが市川を困惑させる。かと思えば、急に異性を感じさせる瞬間もあり、いよいよ市川は翻弄される。山田の方もどうやら市川に関心を抱いているようだが、彼女の心がモノローグで語られることはない。


 これまでのストーリーでは、そうした描写が積み重ねられていく中で、徐々に市川が自分の気持ちに気づく様子が描かれてきた。二人の関係性も、決定的なことはなかなか起こらないまま、しかし距離は確実に近づいている。漫画の貸し借りをしたり、一緒に帰ったりと、二人がすでに仲の良い友人であることは確かだろう。今回、市川が山田から借りた漫画について、「色恋がどーのというより…心を通わせる描写…?がいい…」と感想を語り、山田が「私も!!」と同意する場面は、二人が思い描く理想の関係性を表現すると同時に、『僕の心のヤバイやつ』という作品そのものの自己批評にもなっていて、改めて同作の奥深さに唸らせられた。


 さて、「Karte.4 僕は渡した」の伏線が見事に回収された今回の「Karte.44」だが、サブタイトルに現れた明確な変化は、やはり物語が次の段階へと進んだことを象徴しているのだろう。次回はどんな「心を通わせる描写」があるのか、待ち遠しくて仕方ない。