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朝ドラ『エール』留学と結婚で揺れる裕一の決断は? 手紙が伝える人生の岐路

2020年05月05日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『エール』写真提供=NHK

 『エール』(NHK総合)第27話では、手紙が重要な役割を果たした。メールもなく電話も珍しかった時代に互いの消息を知らせる方法は手紙しかなかった。登場人物の間で交わされる手紙は今では想像もつかないほど重要な通信手段であり、文面に込められた思いも特別なもの。文通ではじまった裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の交際もリアリティをもって迫ってくる。


参考:朝ドラ『エール』第28話では、音(二階堂ふみ)が裕一(窪田正孝)を探しに福島へ向かう


 福島の実家に戻った裕一は母のまさ(菊池桃子)と弟・浩二(佐久本宝)に音との結婚を反対されていた。同じ頃、音も裕一から便りがないことに不安を募らせていた。また、裕一の悩みに恩師の藤堂(森山直太朗)は「教師をやめるかもしれない」と返す。父親の反対を押し切って教師になった藤堂は、年を経るにつれて反発する気持ちが薄れ、親孝行したい気持ちが強くなってきたと語る。藤堂は裕一に「最善の選択をしてほしい」と伝えた。


 「本気で何かを成し遂げたいなら、何かを捨てねばならない」という藤堂の言葉は、人生の岐路に立つ裕一に決断を促すものだった。そして裕一は音に手紙を書く。留学と結婚という選択肢を突き付けられた裕一は音楽の道に進むことを選んだ。今なら両立できるもののように思えるが、当時どちらも貫くことは相当の覚悟が必要だったのだろう。


 裕一の結婚に対するまさや浩二、茂兵衛(風間杜夫)が「家」を守る側にいるとすれば、商家の三男でいまいち家制度になじめない三郎が賛成しているのは興味深い対比だ。また光子(薬師丸ひろ子)が同意する背景には、関内家が個人の尊厳という西洋的な考え方を育んでいたことが大きいと思われる。


 苦渋の選択をした裕一。涙をこらえて譜面に向かう姿が痛ましい。裕一の手紙を読んだ音もショックで泣き崩れる。家族のためを思ってした決断が若い2人を引き裂いてしまった。しかし悲劇は終わらない。追い打ちをかけるように裕一のもとにイギリスから留学取り消しの手紙が届く。すべてを失い自暴自棄になった息子を目にした三郎は、光子にことの次第をしたためて送った。


 急転直下、運命に翻弄される裕一と音。希望がなくなってしまった状況で、それでも2人には音楽があると信じたい。音の前に現れて去って行った謎の男(山崎育三郎)は新たな出会いを予感させるし、裕一と音は互いにインスピレーションを与え合う存在。音楽の力に導かれた2人は、この試練をどのように乗り越えていくのだろうか。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。